家康も学んだ帝王学の教科書は、
普遍的なリーダーの心構えを説く

300年近い長期政権に及んだ唐の国。その足場を固めたのが、第二代皇帝の太宗こと李世民で、西暦626年の皇帝就任から649年(貞観23年)に死去するまでの24年間、帝位にあった。

『貞観政要』(じょうがんせいよう)は太宗の孫の代に唐王朝に仕えた歴史家・呉兢(ごきょう:670~749)がまとめたもの。太宗が臣下たちと政治問答を行った様子を記したものである。

一例として、“魏徴はこう答えた。「賢明な君主はあまねく広く臣下の話を聞きます。愚かな君主は気に入った臣下の話しか聞かず信じようとしません」。詩には「先人言うあり芻蕘に問う」とあります”と、魏徴は過去の歴史から例を挙げて説明した上で「言葉だけはよいが行動が伴わない者に惑わされてはいけない」と戒める。

そして「君主たる者が臣下の意見をあまねく聞くならば、よく下々の実情を知ることができる」と説く。太宗はそれを守り、臣下の直言を喜んで受け入れた。諫言した臣下を左遷したり処刑したりする皇帝のほうが多かったなかで、これは異例だった。

『貞観政要』は、平安時代には日本にも伝来。鎌倉時代には北条政子が菅原為長に命じて和訳させ、日蓮もこれを書写したという。

16世紀末の文禄2年(1593)、徳川家康は藤原惺窩を肥前名護屋の陣中に招き、『貞観政要』の講義を受けた。惺窩(せいか:1561~1619)は近世儒学の祖といわれる学者で、豊臣秀吉にも講義をした。家康はその内容に感銘を受け、この有用な書を広めようと臨済宗の僧侶で足利学校の校長を務めた閑室元佶(1548~1612)に出版を命じた。

徳川幕府の「紅葉山文庫」を前身とする国立公文書館には『貞観政要』(伏見版)が現存する。日付は慶長5年(1600)2月で、関ヶ原の戦いの7カ月前のことだ。『貞観政要』の刊行から3年後、家康は江戸に幕府を開き、265年間に及ぶ泰平の世を築く。

太宗の教えが、徳川の長期政権に大きく影響していたことは間違いのないところといえよう。

2代皇帝・太宗(wikipediaより)

帝王として語り継がれる
唐の太宗(598 ~ 649年)とは

唐の第2代皇帝。高祖・李淵の次男。中国史上有数の名君とされる。隋末の混乱期に父の李淵と共に太原で挙兵し長安で唐を建国。彼は勇猛であり、各地を転戦し、諸勢力を倒して天下を平定。

帝位に就いてからは政治に力を入れ、その基盤を盤石にした。彼の治世『旧唐書』に「家々は戸締りをしなくなり、旅人は食料を持たなくなった」と伝わる。

『貞観政要』を学べる書籍を厳選紹介

『「帝王学」講義―中国古典に学ぶリーダーの条件』
守屋洋 著 プレジデント社 1600円+税
リーダーの条件やその心得に触れるものが多い中国古典。そのなかでも人の上に立つ者の心得を学ぶに最適な『貞観政要』『書経』を軸にしつつ、性悪説の上に立った「帝王学」を説く『韓非子』を加え、バランスのとれた解説書に仕上がっている。
https://presidentstore.jp/category/BOOKS/001968.html

『貞観政要』
原田種成 著  明徳出版社 2500円+税
同社による中国古典新書全100巻のうちの一書。組織を運営するトップなら必読といわれるこの古典は、本物の帝王学と呼べるもの。漢文と現代訳が同時に収録されているので、原典の雰囲気も味わいながら理解できる。
http://rr2.e-meitoku.com/index.php/products/4-89619-207-9

『座右の書『貞観政要』中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」』
出口治明 著 KADOKAWA 860円+税(※角川選書版)
『貞観政要』を座右の書にする出口治明氏(立命館アジア太平洋大学(APU)学長)が深く語る。「組織のパフォーマンスは、リーダーの器以上にはならない」など、太宗の教えは時代を超えて通用する普遍の真理だ。
https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000662/

『リーダーのための「貞観政要」超入門』
内藤誼人 著 水王舎 1400円+税
ビジネス心理学の著書を多数発表している内藤誼人氏による解説本。「貞観政要」のエッセンスをもとに心理学的な観点から、組織編成、人材育成、そしてリーダー自身の心構えなどリーダシップの要諦を平易な言葉で解く。
http://www.suiohsha.jp/book/b357673.html

文/上永哲矢 写真/池本史彦(一部)