22082人生訓としての「葉隠」を説く|現代でも通用する、人生に生かせる極意〈武士道と葉隠入門〉

人生訓としての「葉隠」を説く|現代でも通用する、人生に生かせる極意〈武士道と葉隠入門〉

男の隠れ家編集部
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佐賀藩武士の生き方を伝える『葉隠』。死の美学を語る側面から、その評価は時代とともに変化してきた。『葉隠』はその強烈な死生観が取り沙汰されるが、実は佐賀鍋島藩士・山本常朝(1659~1719)の人生訓をつづったものでもあった。現代でも通用する、人生に活かせる「葉隠」の極意をのぞいてみよう。
目次

「恋の至極は、忍ぶ恋と見立て申し候」

国立国会図書館蔵

『葉隠』の追求した武士道美学というものは、ある意味で日本人の誰もが持つ美意識の結晶体ともいうべき極めて高い純度を誇っている。

それを象徴するのが「忍ぶ恋」だ。『葉隠』は「恋の至極は、忍ぶ恋と見立て申し候」と断言し、究極の恋とは胸の想いを心に秘めて決して相手の人には伝えぬ忍ぶ恋であるとしたのだ。

刃の下の心と書いて忍ぶと読むが、恋でさえもそうあるべきだとするのが葉隠精神であり、この文章はさらに「逢ふてからは、恋の長(純度)がひくし。一生忍びて思ひ死するこそ、恋の本意なれ」と続き、「恋死なん後の煙にそれと知れついにもらさぬ中の想ひを」という和歌を置いて、「これこそ長高き恋なれ」と結んでいる。『葉隠』は忠義同様に、恋愛も耐え忍ぶところに真の美しさがあるとしたのである。

「武士たる者は武勇に大高慢をなし、死狂ひの覚悟が肝要なり」

国立国会図書館蔵

謙譲をもって美徳の一つとした武士道は、高慢であることを強く戒めた。しかし例外もあり、それを『葉隠』は「惣じて修行は大高慢でなければ、益に立たず候」といい、「武勇と少人(若い武士)は、我は日本一と大高慢にてなければならず」と説いた。

武士の本質はあくまでも戦闘者であり、鍛錬に鍛錬を重ねたなら、「大高慢にて、吾は日本無双の勇士と思はねば、武勇を顕わすこと成りがたし」と諭したのである。

こと武勇に関しては、謙譲の美徳などはさらりと捨てて、大高慢のかぎりを尽くしてこそ真実の曲者(大剛の士)であり、それゆえ『葉隠』は「武士たる者は武勇に大高慢をなし、死狂ひの覚悟が肝要なり」といって、不惜身命の覚悟こそが武士には求められると説いたのだ。

「曲者といふは勝負を考へず、無二無三に死狂ひするばかりなり」

国立国会図書館蔵

武士道では喧嘩を否定しない。ただ喧嘩は相手があることゆえ、負けることもある。『葉隠』が問題としたのは、その時に武士がとるべき態度だ。その時もし仕返しもせずに泣き寝入りするような卑怯未練な者がいれば、「すくたれ者」と呼んで、手厳しく批判し、軽蔑したという。

『葉隠』の説く仕返しの方法は極めて簡単で、「打ち返しの仕様(方法)は踏み懸けて切り殺さるる迄なり」ということであり、その際、敵が多すぎるとか、時が悪いなどといって仕返しを躊躇するのは、みな生への未練が断ち切れぬからであって、真の葉隠武士なら「相手何千人もあれ、片端よりなで切りと思ひ定めて立ち向かう迄にて候」と教え、「曲者といふは勝負を考へず、無二無三に死狂ひするばかりなり」と諭したのだ。

「葉隠」を知るためのオススメ本

葉隠(上)・(中)・(下)

和辻哲郎・古川哲史(校訂)
岩波書店(岩波文庫) 上792円・中726円・下792円

山本常朝『葉隠』を文語文のまま、校訂を施して全3冊にまとめたもの。《上》は葉隠聞書第一~四、《中》は五~七、《下》は八~十一を収録。「葉隠」を知るための基本の一冊だ。

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死ぬことと見つけたり(上)・(下)

隆慶一郎(著)
新潮社(新潮文庫) 上693円・下693円

小説家、隆慶一郎が「葉隠武士」を主役にすえ、その世界観を描いた一冊。葉隠をこれから知る人にも最適。

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葉隠──マンガ日本の古典(26)

黒鉄ヒロシ(著)
中央公論新社(中公文庫コミックス) 649円

武士の「葉隠精神」を、黒鉄ヒロシが漫画化。「葉隠」をまったく知らない人でも読みやすい、「葉隠」を知るための入門書としてもお薦め。

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