62646美味しい燻製が食べたくて宇都宮へ行ったら、“大谷石”とエモい建築物に出会った話でもしようか

美味しい燻製が食べたくて宇都宮へ行ったら、“大谷石”とエモい建築物に出会った話でもしようか

男の隠れ家編集部
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仕事柄、出張取材というものが度々あるのだが、つい先日、栃木県に訪れたところ日程に余裕があったので宇都宮で燻製レストランを営む友人の店へ数年ぶりに顔を出すことにした。今回はそんなプライベートな時間の中で出会った歴史的建造物や大谷石の話である。

■今回の目的はあくまでも美味しい燻製と酒

栃木の別の場所での取材を終え、時間的余裕があるのを良いことに友人が営む燻製レストラン「SMOKEMAN」へ行くことにしたのだが、せっかくなら美味しい燻製と共に、久しぶりに友人と積もる話を肴に酒が飲みたくなった。というわけで店にはディナータイムに行くことにして、それまでの時間をどう過ごすか考えた。

言わずもがな宇都宮といえば栃木県の中で最も栄えた大都市である。だが、パッと頭に思い浮かぶのは「餃子」や「やきそば」などの食べ物ばかり。もちろんどちらも大好きなのだが、ディナーの楽しみがあるので今回はパスしよう。では何をする?

以前、突発的に敢行した1泊2日の沖縄旅で「日本遺産」をテーマにして観光したのを思い出した。ならば今回も同じように「日本遺産」をテーマに宇都宮近辺で何か見所はないだろうか。そうして見つけたのが『地下迷宮の秘密を探る旅〜大谷石文化が息づくまち宇都宮〜』である。

▼沖縄旅のレポートはこちら

「地下迷宮」その言葉にグイグイっと興味を引き寄せられる。都市伝説や不思議系トピックには目がない性分のため、このテーマをなぞる半日観光で決定したのは言うまでもない。そうと決まればどこへ行こうか……、と旅のプランを組み立てる。そして今回、訪れたのは以下の通り。

・大谷資料館
・大谷寺
・平和観音
・カトリック松が峰教会
・旧篠原家住宅

ちなみに今回は完全オフモードのプライベート観光のため、「大谷資料館」や「大谷寺」の撮影許可エリアで撮った写真はここでは掲載しない。しかるべき企画内容で真面目に丁寧に紹介するタイミングが来たら、改めて取材・掲載許可を得て公開したいと思う。

ある種、この記事は思いがけずに出会った素敵スポットのロケハンみたいなもの。「写真が見たい」「内容が薄い」などのお言葉は真摯に受け止めつつ、興味が湧いたならご自身でググってください。(それか、いつかちゃんと企画が成立するように要望の声を送ってください)

■地下神殿のような写真に惹かれて、いざ大谷資料館と大谷寺へ

いやぁ、写真を載せられないのが非常に悔やまれるのだが、そこは読者の皆様の想像力と検索力に頼るとして「大谷資料館」、一言で言えば「すげぇぇええ!」という、全く内容が伝わらない感想のみ。

簡単に説明すると「大谷石」とは宇都宮市大谷町で採掘される石のことを指し、700年代から寺などの礎石や羽目石に使用されてきた。大谷資料館にほど近い大谷寺には、崖の壁面に御本尊・大谷磨崖仏(国指定重要文化財)が彫られているのだが、810年に弘法大師・空海が自ら掘って完成させたものだと伝わる。

昭和40年代が採石の最盛期とされ約120カ所の採石場が稼働、良質な石材として日本全国で人気を得た。特に産地の宇都宮周辺では石蔵や外壁、街中の階段などに使用され、実はちょっと気にして見て歩くだけで数多くの大谷石に出会うことができる。

入り口だけなら良いかな?

話を大谷資料館に戻そう。こちらも大谷石の採石場として稼働していた場所で、1979年に資料館としてオープンした。受付で入場料800円を支払い、階段を降りていくと地下に巨大な空間が広がっている。よく「地下神殿」や「地下要塞」と称されることの多いこの場所だが、まさしく言い得て妙だなという感想を抱く。

入ったことも訪れたこともないが、エジプトのピラミッドの中に迷い込んだような感じといえば伝わるだろうか。石の壁に囲まれた巨大空間が、まるで迷路のようにどこまでも続いているのだ。気温25℃を超える夏日でも、冷んやりと涼しく気持ちが良い。隅々までくまなく見て歩くのは非常に楽しい。

大谷寺。奥の岩肌に御本尊が鎮座する。

その大谷資料館から車で5分程度、歩いても行ける場所にある大谷寺は天台宗の寺院。大谷石岩層の洞穴に御本尊が鎮座する洞窟寺院として知られた古刹で、鎌倉幕府により坂東三十三カ所に定められ、一時衰退するも江戸期には徳川家の庇護を受け再建された歴史を持つ。

御本尊である千手観音の大谷磨崖仏のほか、釈迦三尊や薬師三尊、阿弥陀三尊の石仏が彫られた本堂は圧巻で、それぞれに柔和な表情で拝観者を出迎えている。こちらは撮影禁止のため、その神秘的な姿をゆったりと時間をかけて見学させていただいた。

大谷資料館
栃木県宇都宮市大谷町909
http://www.oya909.co.jp

大谷寺
栃木県宇都宮市大谷町1198
http://www.ooyaji.jp

■公園に突如現る巨大な観音様と大谷石造りの教会

遠くから見ても突如現れる大きな観音様に驚く。

巨大観音といえば茨城県の牛久大仏を想像するが、宇都宮にも大きな仏様がいるとは思わなかった。像高100mの牛久大仏と比較すると大谷平和観音は約27mのため3分の1ほどの規模なのだが、実際に目の間にするとその大きさはなかなかのもの。

1948年から総手彫りで彫り始め、開眼されたのは1956年のこと。太平洋戦争の戦死者の追悼と世界平和を祈念して建立されたものだ。観音様の左側には階段が設えられ、崖の上まで登るとご尊顔を間近で拝むこともできる。周辺は公園として整備され、大谷寺のすぐ目の前にあることから「お前立ち観音」として親しまれている。

この大きさを手で彫ったというから驚くばかり。

と、この辺で大谷エリアの見学を終えて、宇都宮市の中心部へと戻ることにした。日が沈む前にもう一カ所、見学したいスポットがある。東武宇都宮駅からすぐのところにある「カトリック松が峰教会」だ。

この教会、大谷石の建築物としては現存最大級のもので国の登録有形文化財に指定されている。設計者はスイス人建築家のマックス・ヒンデルで、1932年に竣工された。1945年、太平洋戦争の空襲で罹災するも2年後の1947年には復元工事を完了、近代ロマネスク様式で建設された日本でも数少ない双塔の教会である。

カトリック松が峰教会。

コロナ以前は聖堂内部の見学もできたが、現在は新型コロナ感染予防のため一般見学は中止しているとのこと。残念に思いながらも外観は見学可能。ギリギリなんとか32mmレンズで収めきるも、その荘厳とした佇まいは石造りだからこそ。いずれ内部見学が可能になったら、1978年に奉献されたパイプオルガンの音色を聴きに訪れたいものだ。

大谷平和観音
栃木県宇都宮市大谷町1174

カトリック松が峰教会
栃木県宇都宮市松が峰1-1-5
http://www2.ucatv.ne.jp/~matumine.sea/

■本日の大谷石見学はタイムアップ! お待ちかねの燻製と酒を味わいに

当初の目的はこのお店。

さて当初の目的である燻製レストランについても、せっかくなので紹介しよう。宇都宮の繁華街・馬場通りにある「SMOKEMAN」は、20年来の友人が6年前に地元で開いた燻製専門のレストラン&バーである。

長年、東京・世田谷のカフェで店長を務めていた彼が、一念発起して大好きな燻製をメインに人生の勝負に打って出たのが、ついこの間のことのように思い出せる。移り変わりの激しい飲食業界の中で(しかもコロナ禍を経て)6年も続けていることを、心の底から尊敬するばかり。

Googleのクチコミを覗いてみれば星4.3の高評価、普段からの頑張りが認められたようで嬉しい限り。提供される料理は本当に美味しいので、宇都宮にお住まいの方、または宇都宮に訪れる方はぜひ一度ご賞味あれ。

キャンプ歴10年の筆者にとって燻製は身近なものだった。段ボール燻製から入り、SOTOの鉄製燻製器、そしてメスティンと、使用する道具も燻製歴もそこそこある方。しかし、初めて燻製を“商品として”調理して提供する彼の料理を食べた時、今まで食べていたものは何だったのか? 燻製ってこんなに美味いのか! と驚いた。

「燻製の前菜盛り合わせ」1738円(税込)
「“とちぎ和牛”モモ肉の燻製ステーキ」2640円(税込)

そんなわけで数年ぶりの再会を果たし、豪華ディナーにありついた。「燻製の前菜盛り合わせ」(1738円)は半熟タマゴやホタテのカルパッチョ、鴨肉のソテーやレーズンバター、ナッツなどが風味豊かに燻製された一品。燻されたえぐみは一切なく、ほんのり鼻に抜けるチップの香りが食材の旨さを引き立てる。

さらにメインに注文した1日5食限定の「“とちぎ和牛”モモ肉の燻製ステーキ」(2640円)は、とちぎ和牛のソテーにダッチオーブンで瞬間的に燻製の香りをのせた珠玉の逸品だ。トリュフ風味の燻製タマゴソースや燻製塩、燻製醤油、ワサビをお好みで付けていただく。肉の旨さはさることながら、バラエティに富んだ薬味のおかげで色々な味わいを楽しむことができる。

合わせていただく酒は、ドイツの燻製ビール「シュレンケルラ ヴァイツェン」と自家製「燻製すりおろし生レモンサワー」。本当に燻製づくしの晩餐である。

次回はランチに訪れて、人気メニューの「燻製ハンバーガー」を食べると心に誓い、楽しい夜は更けていった。

SMOKEMAN
栃木県宇都宮市馬場通り3-1-21 馬上ビル2F
https://www.smokeman.restaurant

■行き当たりばったりで始めた大谷石ツアーのラストは旧篠原家住宅

思いつきで始めた大谷石ツアーだが、せっかくなので日本家屋の建築物も観ておきたい。そこで訪れたのがJR宇都宮駅の近くにある「旧篠原家住宅」だ。江戸期から続いた豪商の篠原家が1895年に建てた店舗兼住宅の主屋と新蔵など3棟が、太平洋戦争の空襲にも耐えて今もその姿を残している。

大谷石貼りの新蔵。
主屋の2階から庭を眺める。
往時の貴重な資料も展示さている。

現在は市が保存管理しており見学料100円で主屋や新蔵、庭園など隅々まで見学することができるのだ。観光ボランティアガイドの方に解説を受けて、建物内を観て回ると保存状態の良さに驚く。特に大谷石を見学する視点で言えば新蔵は見ものだ。1階の外壁が大谷石貼りで造られており、意匠も美しい。また、周囲を囲む大谷石積みの塀も立派なものだ。

レトロブームが若者を中心に隆盛の今、いわいる“エモさ”を感じる佇まい。カトリック松が峰教会といい、旧篠原家住宅といい、宇都宮の市街地には今も悠久の時を刻む石の歴史が残されている。

宇都宮市の中心部にある二荒山神社。
二荒山神社の石垣も大谷石だという。

旧篠原家住宅
栃木県宇都宮市今泉1-4-33

■勝手に日本遺産ツアーの宇都宮編をまとめてみる

長くこの仕事を続けていると、日常で出会う人やモノ、コトに対して常に「なぜ?」「どうして?」と疑問を持ったり、興味が湧いてくる。小さな好奇心を大きく膨らませて学び、咀嚼して紹介するのが自分の仕事なのだとしたら、日本遺産の存在はネタ探しの宝庫だ。

今回も単純に友人に会いに行った宇都宮で、新たな知識との出会いがあった。パンフレットや雑誌の記事、ネットの情報だけでは得られない驚きや感動は「行った人にしかわからない宝物」だと思う。

些細な興味で良い。自分の家の近くにどんな歴史があるのか、どんな逸話が残っていて、どんな新発見があるのか。そんなことから旅を始めてみるのも良いのではないだろうか。

これからも「男の隠れ家デジタル」では、日本遺産104件(2022年6月現在)を制覇する勢いで紹介していけたらと思う。だってそんなことしてる人、他にいないでしょ? ではまた、次の機会に会いましょう!

文・撮影/田村 巴

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