76626劇団四季『バケモノの子』|ミュージカルの舞台裏とは?

劇団四季『バケモノの子』|ミュージカルの舞台裏とは?

男の隠れ家編集部
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俳優がスポットライトを浴びて歌い踊る人気ミュージカル。華やかな舞台を支えているのはプロフェッショナルな裏方スタッフたちだ。劇団四季『バケモノの子』を支える知られざる裏方の仕事とは。

■傑作アニメ映画をミュージカルに。劇団四季ならではの華麗な舞台

(その他の写真は【関連画像】を参照)

バケモノたちのマスクは羊や狼、ヤギなどの動物がモチーフ。(撮影/阿部章仁)

『バケモノの子』は、劇団四季の新作オリジナルミュージカルだ。原作は平成27年(2015)に公開された、同名アニメーション映画(細田守監督作品)。日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞するなど、国際的にも評価が高く大ヒットした傑作だ。

ミュージカル化にあたっては各分野で一線級の外部クリエーターを招聘した。脚本・歌詞は高橋知伽江さん。映画『アナと雪の女王』の訳詞や同作ミュージカルで日本語台本と訳詞を担当した。

「映画を観て映像のスケールの大きさ、アクションのすごさに圧倒されました。それを原作にしてミュージカル化、長期公演にするとは劇団四季、攻めているなと思いました(笑)。この作品では人が演じるからこその良さを出したかったし、劇団四季らしさが出るようなシーンを盛り込んだつもりです。映像はクローズアップすれば、表情が物語るものがありますが、舞台ではそれができない。その分、音楽の力を借りて登場人物の心を描き出しています」(高橋さん)

物語の舞台は東京・渋谷とバケモノたちの棲む異世界。主人公は母親を亡くした孤独な9歳の少年・蓮。バケモノの熊徹に出会い、強さを求めて弟子入りする。蓮は九太と呼ばれ、バケモノたちに見守られながら少しずつ成長していく。

「これは親子の物語であり、子どもの成長を祝福する物語。子どもは子どもなりに楽しめて、大人は大人なりに感動ポイントがあります。ミュージカルを観た方は映画を観たいと思うようになるでしょう。双方の魅力が高められる作品です」(高橋さん)

演出は青木豪さんだ。青木さんは、九太がバケモノ界の大人たちに日常生活の手ほどきを受ける「修行」の場面について次のように話している。

熊徹と猪王山の対決ではパペットが迫力ある戦いを展開。(撮影/阿部章仁)

「“失敗しても落ち込むな”という歌詞があるのですが、高橋さんはじめ全員の力を集約して作り上げたシーンだったので、その歌詞を聴くと僕自身泣きそうになります。この作品を創るにあたり僕がずっと大事にしてきたのは、とにかくお客様に楽しんでいただきたい、それ以外にはないのです。熊徹の歌う、テーマ曲ともいえる『胸の中の剣』なんかは、帰りがけに思わず口ずさんでくれるのではないでしょうか」

青木さんが映画を観た人から「あれはどうするの?」とよく聞かれたのが、映画のクライマックスに登場する巨大なクジラだ。舞台ではトビー・オリエ氏が手掛けたパペットと各クリエイティブの融合により表現。舞台ならではの見どころの一つとなっている。

舞台には二重盆という装置を初導入。ルントスクリーンと呼ばれる半円状の幕と合わせて駆使することで、舞台美術のクオリティはより高いものになっている。進化を続ける劇団四季ならではの極上エンターテインメントをぜひ劇場で体感してほしい。

■華やかな舞台を支える縁の下の力持ち

開演4時間前の劇場では、舞台スタッフがステージ上で動き出していた。公演がある日は毎日、舞台装置のチェックを行っている。熊徹庵など一部の装置を動かすのは電動だが、それ以外の舞台装置は人力で動かす。

「上演中の舞台裏は暗いので互いの動きを決めていないとぶつかります。舞台スタッフだけで何回も確認して本番でミスがないようにしています」と話すのは、舞台監督の矢武佑太さん。

公演中には隅々まで目を光らせる舞台監督の矢武さん。「一番緊張したのは初日ですね。無事開幕しお客様の拍手を聞いた時は嬉しかったです」

セットを動かすスタッフは16名。今年4月の開幕前、俳優が劇場入りする前には技術スタッフだけで1週間の稽古を行い、その後俳優も含めた全体の稽古に参加し動きを体に染み込ませたそうだ。

二重盆やルントスクリーン、可動式のセットを多用することで暗転に頼らず切り替えることができる反面、大転換が多いので、スタッフは走り回って本番さながらの稽古をしたという。

そして迎えた開幕。渋谷の街やバケモノの世界を場面転換する時には、稽古通りピッタリと息の合った作業を進めている。こうした緻密なスタッフワークの上に舞台は成り立っているのだ。

「ステージ上にスタッフも登場して装置を動かしていたんですが気づきましたか?」と矢武さん。

実は舞台スタッフも衣装を着け、さながら物語の一員のような振る舞いをしながら裏方としての仕事を全うしているという。「普段は目立たないようにするのが仕事なので、表に出ることが苦手で、恥ずかしいですね」と笑う。

熊徹が暮らす「熊徹庵」の屋内・外は表裏一体のセットになっており、盆に乗せて回転する仕組み。内部はアニメーションを彷彿とさせるところもあり、熊徹の性格を表して雑然とさせた。

舞台を彩る小道具にもスタッフのこだわりが。「少しでも俳優の芝居の手助けになればと思って。妥協せず、リアルさを追求しています。舞台上の小道具から新たな芝居が生まれたりもするので」(矢武さん)

劇場に常駐する衣裳スタッフは3名。登場する俳優30名分、約700点もの衣装や小物を管理し、アイロンがけや調整を行う。

製作段階から携わったという笹川貴美香さんは、使用感を出すためにあえて行う「汚し」の作業について「光の当たり方で見え方も変わるので、劇場に入った後に付け加えたりもしました。また、立体感を出すために脇の下など影ができる部分に暗めの色を入れて陰影をつけています」と衣装へのこだわりを語った。

熊徹の衣装の背中にあるマークは手作りで再現。「汚し」も施す。
バケモノを束ねる長老・宗師の襟元の毛は照明で見栄えがよくなるように舞台稽古後に色を付け加えた。

客席が感動の渦に包まれて公演が終わると、バックヤードにはまた活気が戻ってくる。俳優のカツラを仕立てる床山のスタッフたちは、終演後に毎日カツラや動物マスクの毛を丁寧に直している。

「抜けた髪の毛を植え直したり、逆毛を立ててきれいにしたり。明日もまた今日と同じように、俳優たちが使えるように整えるのが私たちの仕事です」と髙田佳奈さん。

明日もまた華やかなミュージカルの舞台を観に来る観客たちに最高の舞台を届けるため、見えない所で裏方の仕事は続く。

使うカツラは52枚。アクションシーンなどでズレないように俳優の頭にしっかりと装着する。
終演後は早替えの際や照明のライトで傷んだカツラをメンテナンスする。

【『バケモノの子』あらすじ】
孤独な少年・蓮が、偶然バケモノの世界に迷い込み、最強のバケモノ・熊徹に弟子入りする。熊徹と親子のような絆を築きながら、己のアイデンティティを模索し葛藤する姿を描く。

【舞台情報】
上演中~2023年3月21日(火・祝)
会場:JR東日本四季劇場[秋]
東京都港区海岸1-10-45
TEL:0570-008-110
公式HP:詳細はこちら

※この記事は公演プログラムより引用し、再編集したものです。

文/阿部文枝

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