年末年始には一年の労をねぎらう意味も込めて、多少の贅沢をして美味しい牛肉が食べたくなる。世界的にも「WAGYU」は認知度があり、アジア圏においては特にニーズが高い。
和牛といっても日本産とは限らず、海外で生産されたものでも「WAGYU」としてブランドを確立しているものもある。今や、「高級でおいしい牛肉」の代名詞ともなった和牛だが、せっかくなら国内のブランド牛を味わいたいものだ。
ブランド牛の基本から、おすすめの銘柄までを紹介する。
●ブランド牛を味わう前の基礎知識
そもそも、「和牛」や「ブランド牛」とは一体なんなのか? その違いを紹介する。
和牛と国産牛の違い
和牛は、「黒毛(くろげ)和種」、「褐毛(あかげ)和種」、「日本短角(にほんたんかく)種」、「無角(むかく)和種」の4種のことをいう。牛の品種を指すので、外国産の和牛(WAGYU)というのも存在している。
現在、日本全国で飼育されている和牛のほとんどが黒毛和種だ。黒毛和種は明治時代に外国種と交配し、長い年月をかけて品種改良されてきた。最も少ないのが無角和種で、山口県が主な産地となっている。
一方、国産牛とは、品種や生まれた土地に関係なく、生まれてから出荷までの期間、最も長く日本で飼育された牛のことをいう。もちろん、生まれも育ちも日本という牛もいるが、海外で生まれた子牛であっても、日本で育てた期間が長ければ国産牛となるのだ。
和牛は食用を目的として品種改良された経緯があるが、国産牛の場合は食用の牛だけではない。例えば、乳牛として知られるホルスタイン種の場合、乳が出なくなった後、食用として国産牛となることもある。
ブランド牛とは
ブランド牛とは通称で、つまりは銘柄牛のこと。全国で320種類以上があり、品種や種別、飼育方法など、各銘柄牛のブランドを推進する団体が決めた定義が存在している。
各団体が定める基準を満たしたものが、各地域のブランド牛として流通しており、それぞれのブランドの味わいや特徴も異なる。メジャーなものはもちろん、あまり知られていないブランド牛を食べ比べてみるのも面白い。
●国に認められたブランド牛
地理的表示法に基づき、GI登録された銘柄牛というものがある。GIとは、「伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品」を「産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度」のこと。
決められた基準を満たした良質な産品にのみ「GI登録」の使用が認められるため、生産者にとっては地域ブランドの証明として、消費者にとってはGIマークがあることで高品質な産品を安心して購入できるというメリットがある。
GIの認定銘柄牛
【但馬牛(たじまぎゅう)】
ブランド牛のルーツともいえる銘柄で、古くは平安時代から耕運や牛車をひく役牛としてだけでなく、食用にもされていた。
骨が細く皮下脂肪が少なく、良質な筋繊維を持つ。赤身と脂のバランスが特徴で、しなやかで締まりの良い筋肉が良質な脂肪を内面に留まらせることで、甘みのあるサシが入っている。
【神戸ビーフ】
言わずと知れたブランド牛。きめ細かく上品な甘みのある赤身に、サシが細かく入り込んだ霜降りが特徴。サシの融点は人肌で溶けるほど低く、オレイン酸やイノシン酸が豊富に含まれている。
ちなみに、2020年にこの世を去ったNBA選手、コービー・ブライアントのファーストネームは「KOBE」。神戸ビーフが由来となったのは有名な話。
【特産松阪牛(まつさかうし)】
松阪牛のなかでも、兵庫県産の子牛を選び抜き、松阪牛生産区で900日以上肥育した牛。手間をかけて長い期間にわたり肥育するため、生きたまま熟成させたような高い品質を誇る。
色味が濃く旨味が凝縮された赤身に、肉眼では見えないほどのきめ細かなサシが特徴。
【米沢牛(よねざわぎゅう)】
明治の初め、山形・米沢で教鞭をとったイギリス人のチャールズ・ヘンリー・ダラスが、牛を食べる習慣がなかった米沢で牛肉を食べたのがはじまり。そのあまりの美味しさに驚き、米沢を離れて横浜に行く際に牛を一頭持ち帰り、友人たちにふるまったという。
厳しい気候で育ったがゆえの身の締まりと、香りのある脂と甘みのある赤身が特徴。
【鹿児島黒牛(かごしまくろうし)】
繁殖雌牛の飼育頭数(黒毛和種)、和牛肥育頭数ともに全国1位の鹿児島県で、血統にこわだり改良を重ねてきた牛。
きめ細かな美しいサシは、まろやかなコクと旨味が特徴だ。
【くまもとあか牛】
褐毛和種で、阿蘇と矢部および球磨地方で飼われていた在来種と、シンメンタール種の交配によって改良された固有種。
熊本では「あか牛」と呼ばれ、柔らかな赤身が多く適度な脂肪分を含んでおり、旨味がありながらもヘルシーな味わいが楽しめる。
【比婆牛(ひばぎゅう)】
広島和牛のなかでも、産地と血統にこだわるブランド牛。広島県庄原市生まれ広島育ちの3等級以上で、最古の蔓牛「岩倉蔓(いわくらづる)」を祖に持つ血統牛のみが比婆牛を名乗ることができる。
血統的に赤身に入るサシが細かく、なめらかな口どけが特徴的。赤身と脂のバランスが良く、香り高い味わいが人気だ。
●年末年始にブランド牛を楽しむ
GI認定を受けていなくても、人気が高いブランド牛は数多くあり、各都道府県にひとつはブランド牛なるものが存在する。
なかには、ワイン製造時に出るブドウの搾りかすを食べて育った「神戸ワインビーブ」や、香川県特産のオリーブオイルの搾りかすを飼料に使う「オリーブ牛」といった、一風変わったブランド牛も誕生している。
そして、ブランド牛は風土や気候が異なる地域それぞれの特徴や味わいを持つため、好みに合う銘柄を見つけるという楽しみ方もある。それぞれの牛肉の美味しさを味わうためには、ステーキや焼き肉、しゃぶしゃぶなど、味わい方を変えてみるのもおすすめだ。
年末年始のお祝いの際に、各地のブランド牛を取り寄せて楽しんでみてはいかがだろうか。