憧れだった60年代のアメリカンライフ
ぽってりとした厚みと柔らかなパステルカラー。ほどよい重さと手触りは、使うほどに愛着がわいてくる。50年代から70年代にかけて、アメリカの食卓やダイナーなどのレストランで使われてきたファイヤーキング。
アメリカはオハイオ州にあるアンカーホッキング社というガラス製造会社が手がけていたブランドで、戦後のアメリカの経済成長期に大量生産された。
製造は1976年で終了しているが、40年以上たった現在においても、主にアメリカや日本でアンティークやブロカント(フランス語で「美しいガラクタ」の意)として人気を集めている。
その魅力は、まず古き良き時代を彷彿とさせるフォルムと色彩。マグカップからプレート、キッチンウェアなど種類も豊富で、特にマグはデザインが多いことから、日本のそば猪口集めのように愉しむコレクターが少なくない。
人気のシリーズ「ジェード」をはじめ、カラーシリーズ、企業広告がプリントされた「アドバタイジング」シリーズなど楽しいデザインが多種多彩。オーブンでも使える耐熱ガラスなので、割れにくく丈夫なのも魅力のひとつだ。
ファイヤーキングを代表するシリーズ「ジェード」とは翡翠色を意味し、緑色に乳白色を混ぜたような独特の色合いが美しく、ミルクガラスとも呼ばれている。
レストランで使われることが多かったため堅牢さはもちろん、マグカップだけでもアイテムは様々で、ファイヤーキングを手にするならまずこのジェードから始めてみるのも良いだろう。
同じように見えるマグカップも実は年代ごとに少しずつ形が異なり、値段もやはり古い方が高くなる。そのひとつの目安になるのがバックスタンプ、エンボスとも呼ばれる裏刻印だ。
40年代後半の立ち上げ時の刻印はシンプルだが、年を追うごとに書体が変わったりアンカーホッキング社の錨マークが入るようになったり。表記によって大体の年代がわかり、それもまた選び方の楽しみになる。
オンラインのアンティークショップで年代物を探す楽しみ方もおすすめだが、手軽に新品を入手することも実は可能だ。当時の製法をベースに、より進化したファイヤーキングヘリテージシリーズがオンラインで販売されている。日本のガラス職人の熟練の技術により受け継がれ、メイドインジャパンで作られているのだ。
マグに注いだコーヒーを飲みながら、憧れだった60年代のアメリカンライフに思いを馳せる。そんなひとときをファイヤーキングで演出してみるのも悪くない。
文/高地 梓