どんな道にも、その道を切り開いてきた人たちが存在する。サードウェーブコーヒーが台頭したように、珈琲の世界は常に試行錯誤がなされ、新しいスタイルが生み出されている。その最先端を知る人はごく僅かだ。

本連載は、用賀や渋谷に店を構えるスペシャルティ珈琲の専門店『ウッドベリー・コーヒー・ロースターズ』の木原武蔵さんが、日本の珈琲シーンを牽引する焙煎士やバリスタを尋ね、珈琲との向き合い方や人となりを聞く対談連載。

第一回目は、木原さん自身に迫りたい。珈琲との出会いや考え方、“珈琲でミシュランの星を取る”の意味とは。

【プロフィール】  
バリスタ・焙煎士  木原武蔵
アメリカ留学中にスペシャルティコーヒー文化に触れ、バリスタを目指す。帰国後、21歳の時に「Woodberry Coffee Roasters」を立ち上げ、現在は3店舗を東京で展開中。カフェやレストランのオーナーからも支持も多く、都内を中心にコーヒー豆を卸している。クラフトマンシップを根幹に、コーヒーの焙煎から、専門学校の講師、カクテル作りまで幅広い分野で挑戦を続けている。

エリートサラリーマンを目指していたのに、珈琲店を開業したワケ

——木原さんは元々、MBA(経営学修士)を取得するためにアメリカの大学に留学していたそうですね。

木原武蔵さん(以下木原):そうです。僕の実家は花屋で、生まれた時から商売を見てきたので、絶対自営業なんてやるもんかって昔から思っていたんです。海外ドラマの『スーツ』みたいなバリバリのエリートサラリーマンになりたくて、一流のコンサルティングファームに就職することが目標でした。アメリカ留学を経験していると泊が付くというか、給料も高くなったりするんですよ。だから結構打算的な感じで生きていましたね。

——そんな木原さんがなぜいま珈琲店を?

木原: 20歳のときに東日本大震災と父親の病気が重なり、帰国しなければならなくなったこともあって、実は大学は3年生の時に辞めているんです。2011年の5〜6月に帰国を決めて、2月には父親が亡くなってしまい……。母親がいる地元の用賀で何か出来ないかと模索した中で出した答えが珈琲店だったんです。

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木原:なんで珈琲なのかというと、留学中にアメリカのサードウェーブコーヒーのブームを肌で感じていたことが大きかったと思います。暇だったのでいろいろ飲みましたね。ただ、その時に珈琲にハマっていたかというと、そうではないんですよ。もちろん、今は大好きですけどね(笑)。どちらかというと留学を決めた理由みたいに打算的だったというか。家族の近くに居られることや、今の日本の世の中に求められていること、自分が楽しんでやれること、そんな色んなことの真ん中にあった最適解が、用賀で珈琲をやることだったんです。

——当時はまだ21歳ですよね。すごいチャレンジンでしたね。

木原:何の因果か、実家が花屋だったからこそ、お店を始めることのハードルはすごく低かったんです。金融公庫で600万円を借りてお店を始めたんですが、もし失敗しても7年で返済すれば良いから毎月7万円くらい。まぁ、最悪店がダメになっても大丈夫だなって(笑)。

——お店を始めた2012年頃を振り返ると、今と比べてどうですか?

木原:当時はまだスペシャルティコーヒーの黎明期だったので、東京にもお店は少なかったですね。「ベアポンド」「ストリーマーコーヒー」「ノージーコーヒー」くらいだったんじゃないでしょうか。うちの店と同い年なのが「オニバスコーヒー」「フグレン トウキョウ」とか。僕が一番若手なのに、そのすごい枠に滑り込ませてもらった感じです(笑)

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木原:で、当時はコレを学べばいい、っていうものがあったわけではなくて、自分で探っていかないといけない時期でした。同業の繋がりもすごく強くて、一緒に勉強会をしたり、海外の豆を買ってきて、これはこういう味だとかって情報交換しあったり。そういう中で珈琲がどんどん好きになっていきましたし、自分のスタイルができあがっていったのだと思います。

新しい味覚体験を生み出し、珈琲を一歩先の世界へ

——現在は都内に3店舗を運営し、専門学校でも講師として珈琲を教える存在になった木原さんですが、珈琲のどんなところが好きなのですか?

木原:珈琲って写真と似ていると思うんです。カメラやレンズなどの機械的な部分はすごくロジカルなのに、最終的に撮れる写真はすごく抽象的だし、人によって全然違うものができあがる。珈琲も豆の質や焙煎のレシピなどはロジカルに突き詰められますが、五感に頼る部分も大きい。そのバランス感がすごくいいなと思っています。

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木原:僕の中のヒーローに、マット・パーガーという人がいます。オーストラリアのバリスタで、同年代なんですけど、2012年にWBrC(ワールド・ブリューワーズ・チャンピオンシップ)で世界チャンピオンになっているんです。彼は珈琲に科学を持ち込んで、大きな影響を与えました。例えば濃度計を使うと、豆を何グラム使ってどのくらいの成分を抽出したのかが数値化できるんですが、その数字で味を評価していこうと広めたのはマットです。大手のロースターではやっていたんでしょうけれど、僕らのような小さな店でも、街のコーヒーを美味しくするために、そういうことをやっていこうと提唱したんですよね。

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濃度計に珈琲を1滴垂らすと、その濃度が数字で表示される

木原:で、何が言いたいかというと、そういう細かい部分を追求していくことが面白いっていうことです。マットが科学を持ち込んでからというもの、珈琲の世界は毎年新しいイノベーションが生まれていて、それこそ去年の常識はもう通用しないみたいな、そんなスピード感で変化しているのが、珈琲の最先端の世界なんです。

——料理のジャンルでいうとガストロノミーみたいなイメージですか?

木原:そうですね。カクテルの世界ではミクソロジーカクテル(フルーツや野菜、スパイスなどの素材を組み合わせることで素材の旨みを引き出すカクテル)なんかも盛り上がっていますが、珈琲でも同じように新しいチャレンジが常に行われているんです。WBC(ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ)などの大会では、常にイノベーションが求められていて、新しい珈琲の味覚体験を作り上げた人が優勝する、いわば研究発表会のような形になっていて、とても面白いんですよ。

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写真はシェイカーを使って作るコーヒーカクテル「グリーンティーミルクパンチ」

——木原さんの今後の目標を教えてください

木原:バーやレストランには「World Best 50」というランキングがあります。現在のところは「Wold Best Cafe 50」はないのですが、もしそれが生まれた時はランクインするようなお店を作ることが私達の目標です。そして、ちょっと大それた事ですが、ミシュランのレストランガイドに載るような美食として認められるお店を作っていきたいと思ってます。

——「ミシュランで星を取りたい」というのは、そういった珈琲の最先端のシーンへの挑戦をしていきたい、という気持ちの表れでもあるんですね。

木原:料理やカクテルの世界に追いつきたいし、珈琲でも最先端を突き詰めている人たちがいるんだっていうことを広めていきたいんです。それが出来れば、大げさですが、ミシュランの星を取れると思うんです。

——この連載でも、同じように第一線で頑張っている人たちに話を聞きに行けたらいいですね。

木原:はい。珈琲の大会といっても、バリスタやロースティング(焙煎)、ラテアート、コーヒーカクテルなどジャンルも様々ですが、そういった大会に出場している人たちにまずは話を聞きたいと思っています。どういう風に珈琲と向き合っているのか、どんな模索をしているのか。テクニカルな部分も交えつつ、話ができたら楽しいでしょうね。

あとは、正反対に伝統を守っている昔ながらのところにも訪れてみたいと思っています。どんな人たちに登場してもらうかは、まだ言えないですけれど。今後のお楽しみということで。ぜひご期待ください!

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WOODBERRY COFFEE ROASTERS 渋谷店
東京都渋谷区渋谷東2-20-18
☎︎03-5962-7518
営業時間 8:30〜24:00(月曜〜18:30)・無休
https://woodberrycoffee.com