歴史、味わいをみても日本の代表的な料理であるそば。海外にもそばを使った料理はあるが、専門の職人技によって作られる「日本そば」は、今や国内のみならず海外でも食され、ヘルシーフードとしても認知度が高い。
そばは一年を通して味わうことができるが、俳句の秋の季語にも「新蕎麦」があるように、新そばは秋に旬を迎える。これからの季節にぜひ食べたい新そばについて解説する。
●そばの旬は秋そして夏の2回
おいしい新そばが味わえるのは秋だが、実は新そばの旬は2回ある。なぜ旬が2回あるのだろうか。それぞれの旬の特徴と合わせて紹介する。
▷なぜそばには旬が2回あるのか
荒地でも育つそばは、イネやムギが育たない土地でも収穫できる作物のひとつだ。種まきから数ヶ月で収穫できるほか、寒冷地においても育成可能ということで、栽培技術が発達していない時代から重宝されてきた作物なのだ。
そばは、春に種をまいて夏に収穫したものと、夏に種まきをして秋に収穫するものがあり、およそ半年で2回収穫することができる。結果として、夏と秋が新そばの旬といわれているわけだ。
▷秋に穫れるそばと夏のそばの特徴
夏に収穫できるものを「夏新(なつしん)」、秋以降に収穫できるものを「秋新(あきしん)」という。
「夏そばは犬でも食わぬ」と言われる時代もあったが、今や昔の話。栽培技術が発展した現代では、夏と秋それぞれのおいしさを味わうことができる。
夏新は、うまみがありながらさっぱりとした味わいが特徴。秋新は香り高く、夏新に比べると味に深みを感じられるといわれている。
秋新ならではの芳醇なおいしさは昔から知られていて、江戸時代においては、そば大好きかつ新物好きの江戸っ子が競い合うように秋新を求めたとか。
秋新がおいしいとはいえど、夏と秋、それぞれの気候により育て方や手間、特徴は異なる。
「そばといえば秋新」とかたくなにならず、現代だからこそ堪能できる夏新の味わいを知ることで、秋新をさらに楽しめるはずだ。
●新そばをより味わうためには種類を知ろう
香り豊かな秋の新そばを味わうために、基本的なそばの種類をおさらいしておこう。
▷十割(じゅうわり)そば
小麦粉をはじめとしたつなぎを一切使わず、そば粉だけで作るそばのこと。「生そば(きそば)」や「生粉打ち(きこうち)」とも呼ばれる。
そば粉のつぶつぶを感じられる舌触りにくわえ、そば本来の香りや味をダイレクトに感じられる。つなぎを使わないため、そば粉の扱いや打ち方を熟知した、職人ならではの技術が必要とされるのだ。
▷二八(にはち)そば
そば粉を8、小麦粉2の割合で作られたそばのこと。多くのそば屋では一般的に二八そばを扱っており、つるりとしたなめらかな舌触りと喉越しが特徴。
「つなぎを使っていない十割そばが一番!」という人もいれば、なめらかな舌触りの二八そばが良いという人もおり、好みが分かれる。
そして、二八という名前の由来には諸説ある。ひとつは、江戸時代のそば一杯の価格が16文だったことから、九九の「2×8」からとったという説。ただ、一貫して16文だったわけではなく、時代によって値段は上下したようだ。もうひとつは、そば粉とつなぎの配合率を指しているという説もある。
そばの種類はほかにも、そば粉を10としてつなぎを1とする「外一(そといち)」や、そば粉を9としてうなぎを1とする「内一(うちいち)」。そして、そば粉7につなぎ3の「七三そば(しちさんそば)」などがある。
●そばの産地と新そば
環境へ適応することで力強く育つそばは、北海道から九州まで全国各地で栽培されている。
そばの産地として知られる北海道では、8月下旬から秋の新そばの収穫が始まるほか、質の高いそばが味わえる長野県では、11月中旬頃から市場に出回り始める。
一方、九州では1月下旬まで収穫されることが多い。秋に収穫されたそば粉は、おいしさを損なわないように一年を通して保管される。
とはいえ、そばは繊細な味わいが魅力のひとつ。できればそば屋に足を運んで、秋の新そばを味わいたいところだ。
秋の新そばを前に、まずは目で楽しみ、次に「ずずず」と音をたて、そばの香りと味わいを堪能しよう。