■はしご酒ができる下町でイタリアンと日本酒を [日本酒 × イタリア料理]
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
三軒茶屋は渋谷から東急田園都市線の急行で一駅。「たった一駅」ながら、表通りから一歩入れば街路は昭和の雰囲気が残る街だ。車一台通るのがやっとの通り沿いには小さな飲み屋が軒を連ねる。
「はしご酒ができるのが、三軒茶屋の魅力ですね。私自身も生まれは世田谷に近く、だからこそ、この街に店を開きました」。マスターの熊谷貢さんはそう語る。

通りから奥まったビルの一階は隠れ家的な趣、看板にはワインの瓶ロゴ、だが店頭に下がるのは酒造家のシンボルである杉玉。アルファベット表記の看板は「Firenze Sakee」。フィレンツェ・サケ……日本酒のマリアージュを堪能できるイタリア料理店だ。

「イタリアワインの魅力に取りつかれていた頃、日本酒のイベントを開催しているフィレンツェ在住のイタリア人の友人と知り合いました。彼は日本酒に夢中になっていて、そこで日本酒の『パッション』に触れました。10年ぐらい前に西日本を中心に酒蔵巡りをしてから本格的にはまりましたね」
日本酒ペアリングコースは1万4500円。料理6品、ドルチェ(デザート)に至るまで一品一品に日本酒が付けられる。
「冷たいバニラのジェラートに日本酒がよく合います。シェリー酒の樽で熟成させたお酒ですが、リキュールと同様に扱います」

さて、メインの肉料理は馬フィレ肉のロースト、魚醤ソース。筋肉質の馬肉にナイフを入れれば中はレア、上品な国産鮎魚醤が静かに染み渡る。
合わせる酒は鳥取県の山根酒造場「日置桜」純米生原酒。58度のお燗。馬肉の脂肪は、人間の体温では溶けない。だが体温よりも熱く温められた酒を口中に含めば、微かな脂気を溶かして体内にじんわりと広がっていく。
■馬フィレ肉のロースト鮎魚醤ソース
《カナダ産馬肉》×《鮎魚醤》
さっくりと切ればほのかに赤みが残る馬フィレ肉のロースト、ジャガイモのグラタン。ソースのベースは大分県産の鮎の魚醤。クセもなく、馬肉のうま味を引き立てる。合わせる酒は体温より高い温度に温めることで馬肉の脂肪をとろけさせ、旨味を引き立てる。
■日本酒マリアージュ

日置桜 山眠る 特別純米生原酒(鳥取県・山根酒造場)
・4甘 ・果実香 ・旨味 ・余韻
鳥取県産の限定生原酒。引き締まった味わいを冬の山に例え「山眠る」と命名。
■香る酒は魅力を封じ込め優しい酒は香りをアピール
前菜は生シラスとカルピスバターのクロスティーニ。イタリア料理における、前菜だ。「生きる宝石」のように艶やかな生シラスをバターで和え、さっくりとトーストしたパンに載せる。
ポイントはカルピス社特製の「カルピスバター」を用いること。カルピスバターは繊細。火を通して温めれば風味が損なわれるため、パンに直接載せ素材の温度でゆっくり溶かす。

口中で水陸の滋味がトロリととろけたところで合わせる酒は信州上田の「山三酒蔵 純米吟醸ひとごこち うすにごり」。軽やかで発泡感のあるこの酒の魅力は甘みと酸味、そして上品な香り。熊谷さんはワイングラスに件の酒を注ぐ。
「山三の魅力は何といっても香り。その香りを逃さないため、口の狭いグラスに注ぎます」
海産物の微かな味わいにバターのコクが加わり、酒の軽やかな酸味が口中を潤していく。
続いてのパスタは、イタリアの平打ちパスタ「タリオリーニ」。本場、地中海のマグロに合わせるのはサルディーニャ産のボッタルガ。ボッタルガとはボラの卵の塩漬け、いわゆる「カラスミ」のことだ。

バージンオイルで炒られたマグロ肉には微かに赤みが差し、絶妙な半生状態。ほぐした魚卵、そして刻んだ芽ネギをパラリと添えてアクセントを成す。合わせる日本酒は兵庫県・本田商店の「龍力 夏純米」。涼やかなガラスのお猪口に冷酒として注がれる。
「オリーブオイルに似合う酒としては、酒米に山田錦を用いたものがポテンシャルが高いと思います。先ほどの『山三』は香りを楽しんでいただくためワイングラスでお出ししましたが、『龍力』は微かな香りを発散させるため、口が開いた器にしました」

地中海の海の恵みを溶かし込んだオリーブオイルを纏う平たいパスタ。先刻のバター……動物性脂肪とは趣異なる植物油の香気が、静かに冷酒と交わっていく。
熊谷さんは西日本、とりわけ兵庫県産の日本酒を「米の味がする」として愛する。目黒区出身ながら兵庫県人会に名を連ね、「播磨の酒」を発信する。当店でのコースメニューでは、デザートにもペアリングの日本酒が供される。
だが、前述の通り三軒茶屋は「はしご酒のできる街」だ。午後10時を過ぎればバータイム、二軒目で入って軽いイタリア料理と日本酒の調和に驚く……そんな楽しみ方ができることも覚えておきたい。

■生シラスとカルピスバターのクロスティーニ

《静岡県産シラス》×《カルピスバター》
「クロスティーニ」は「小さいトースト」の意でイタリア料理の前菜。透き通るような生シラスをカルピスバターで和えてイタリアンパセリを利かせ、パンに添える。繊細なバターに火を通すのは厳禁。必ず素材、そして口中の温度でゆっくりと溶かしつつ味わえば絶品。
■日本酒マリアージュ

山三 純米吟醸 ひとごこち うすにごり(長野県・山三酒造)
・3甘 ・果実香 ・酸味 ・余韻
軽やかな飲み心地。魅力は爽やかな香り。信州産の米の風味が生きる酒。
■本マグロとカラスミのタリオリーニ

《地中海産本マグロ》×《サルデーニャ産カラスミ》
地中海産の本マグロは新鮮なオリーブオイルでサッと炒め、イタリア産のカラスミ「ボッタルガ」をほぐして加える。イタリアでも本場のサルディーニャ産の品だ。タリオリーニは極細の生パスタ。サッと茹で上げたうえで、本マグロとカラスミのソースで和えて完成。
■日本酒マリアージュ
龍力 夏純米(兵庫県・本田商店)
・2甘 ・穀物香 ・旨味 ・苦味
山田錦は最高峰の兵庫県特A地区産を使用。冷やしてロックで味わうも良し。
■ペアリング付きディナーコース(1万4500円)
●アミューズ(お出汁のスープ)
●サラダ
●カルパッチョ
●温かいメニュー
●メイン
●パスタ
●ドルチェ
Firenze Sake(ふぃれんつぇ さけ)
東京都世田谷区三軒茶屋2-10-14 昭和ビル1F
TEL:03-5432-9654
営業時間:18:00~23:30
定休日:日曜
取材・文/角田陽一 撮影/本田織恵
※この記事は2024年8月号に掲載されたものです。
▼あわせて読みたい
いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。
我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。
