心に真っ直ぐ響くリリックと曲調で多世代のファンを持つヒップホップグループ「KICK THE CAN CREW」のMCUさん。音楽業界きってのレトロゲーマーの自宅ゲーム部屋を訪ねた。
この記事は2024年9月号に掲載されたものです。
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
■懐かしのレトロゲームを楽しむために集まる!

扉を開け、おおっと一瞬のけぞる。天井までみっしりと飾られた壁面を見上げる。中央にテーブル筐体が置かれた床面もさまざまなグッズで埋め尽くされている。ここ、我々も入れますか?
「大丈夫です。3人まで座れますよ。レトロゲーム仲間が遊びに来ることもありますし」と、MCUさんはこともなげに言うのだが。

広さは5畳半。自宅の一角にあるこの部屋には、子どもの頃から40年以上に及ぶ、ゲームや関連アニメへの愛が詰まっている。
「家族で暮らす空間には一切出しません。ここの中だけで、すべて目が届くようにしています」


6年前に引っ越した当時はまだ床が見えていた。好きなものを見つけては買うたびに置き場所を考え、なんとかやりくりして今に至る。全部が愛着のある品であり、捨てる・売るなどは考えられない。楽しむためのモノだから倉庫に預けることもあり得ない。
部屋に収まりきられなくなったら……。「もう少し広い空間を持てるよう引っ越すしかない」とMCUさん。


MCUさんのゲーム歴は小学生時代から始まる。最初は駄菓子屋の店先に据えられていた小さなアーケードゲームからだ。4年生の頃に任天堂のファミコンが発売された。早速、母とともに買いに行ったが大人気ゆえ売り切れ。
入荷を待つのが嫌で、棚にあった対抗機「スーパーカセットビジョン」(エポック社)を、さもそちらのほうが欲しかったかのように言って、買ってもらった。学校で持っている友達は少なかった。だからこそとことん遊び、研究もした。


中学生でファミコンも買ってもらったが、ラップグループを始めてからはゲームよりも音楽に力を入れていった。しかしバイト先にはやはりゲームセンターやファミコンショップを選んでいた。
「波はあっても、ずっとゲームとの縁は切れていないんです」
再びゲーム熱が燃え上がったのは15年ほど前のこと。
「楽しかったゲームを思い出し、またやりたいと思い始めて」


その頃は中古も比較的手に入れやすかった。しかし、当時はオンタイムの品だったのが、徐々にレトロゲームとして価値を呼んでいく。いまや一本数十万円や100万円超のゲームカセットもあるとか。
「投機的に買いあさる人が多いんですよ。僕は、本当に好きなものを文化としてここに保管したい」
自分はコレクターではなく、あくまでもゲーマーなのだとMCUさんは言う。保管といっても、まず楽しむのが大前提だ。どんな高値になったゲームカセットでも、買えば開封して遊ぶ。

「スーパーカセットビジョン」で発売された30種のゲームカセットもコンプリートしようとは思わない。
「やりたいもの、これはいいと思えるものだけがあればいいから」
レトロゲームは、音楽でも3和音+1ノイズしか使えなかった。さらに、画面のドット数も少なく、絵柄の表現も限られた。



「そのなかで工夫して作った曲にはたまらない魅力がありますし、絵も、鳥かな? 戦士かな? とか想像するのも楽しいんですよね」
ここで焼酎ハイボールを傾けながらのゲームは日々の楽しみだ。毎日ゲーム2本と決めて研究ノートも綴る。歌詞を書くのもここだ。
「静かなバーとかは苦手なんです。こういうガヤガヤした空間のほうが言葉も湧くんですよ」
この部屋にいると、当時ゲームによって救われていた子どもたちの“心”を感じる。MCUさんの曲がなぜ胸に沁みるのか、その“答え”にこの部屋で出合った。



【PROFILE】MCU
「KICK THE CAN CREW」、「UL」のMC。1997年、KREVA、LITTLEとともに「KICK THE CAN CREW」を結成。2004年にはソロ活動を本格的にスタートさせた。一方でSNSやゲームイベントなどでゲーム愛を公言し、ゲームに出演したり、公式テーマソングを制作したりと、多方面で名前を轟かせている。
この記事は2024年9月号に掲載されたものです。
文/秋川ゆか 撮影/黒田雄一 ヘアメイク/Toshiko Hirai
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