新橋駅前にそびえ、「昭和」が詰め込まれたニュー新橋ビル。入り口をくぐった瞬間から始まる世にも楽しいカオスな世界へ。
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
※この記事は2024年11月号に掲載されたものです。
■発展し続ける東京の中で、ふた昔前の幻影が揺れている

最近、見た目がシンプルなモノが増えている。主流はミニマル、とでも言いたげな風潮だ。あらゆるモノや事の「無駄に見える部分」は削ぎ落とされシャープになり洗練されていく。しかし昭和は違った。多くの事象や商品はマキシマルであり混沌だった。
洗練の負の産物は均一化だろう。大雑把な言い方だが、新幹線の駅周辺の景色の多くは同じに見えてしまう。関東を見回しても同じだ。新しく再開発された東京近県の駅自体、周辺に見える景色はほとんど東京をコピーしたかのような気持ちさえ湧いてくるのだ。


同じような造りで、変わり映えしない。何か、象徴のようなものが見えてこないのだ。山手線然りである。
ところが新橋はどうか。とくに日比谷口を出ると、他の駅前とはちょっと違った開放感のある広場と蒸気機関車、ユニークな形状とファサードが目を惹く「ニュー新橋ビル」が目に飛び込んでくる。
機関車の向こうに見える路地を含めて、ビルの周りには、60〜80年代にかけて存在した、混沌がまるで幻影のように揺れている。そういう意味で新橋は、「現代の東京」を象徴していない。

■ニュー新橋ビルとは?
竣工:昭和46年(1971)2月、開館は4月16日
延床面積:5万8107㎡
階数:地上11階、地下4階
構造形式:鉄骨鉄筋コンクリート構造
設計:松田平田坂本設計事務所
管理:ニュー新橋ビル管理組合
ニュー新橋ビル
東京都港区新橋2-16-1
TEL:03-3504-1271
アクセス:JR「新橋駅」よりすぐ
■今も多くの人を惹きつける、ビル内の「昔からの店」
元々ニュー新橋ビルの立つ場所には、戦後すぐに日本でも最大級といわれた闇市があった。つまり、闇市の名残りをとどめる建物ということもできるのだ。
70年代にビルが建ち、その後ポツポツと新しい店が登場しては消えているが、何軒かはその頃から少しずつ形を変えながらも営業を続けている。

例えば、1階にある金券ショップ「アーチ」は創業昭和57年(1982)。ディスカウントチケットの草分け的存在でもある。取締役の田中剛さんは、自信を持って話す。
「近隣にある店を調べると、この手の店では最も古いようです」
バブルの波に乗り、年商もうなぎ登りとなった。
「当時は、みなさんお金がありましたからね。新幹線の切符なども会社から支給されていた頃です」
以前は旧紙幣や古銭を扱っていた。それらが並ぶ中には商品券があり、金券に特化することを思いつく。いまだに、この手の店は多く存在するが、世に広めたのは、新橋という土地であり、アーチであるというのが正しそうだ。

また、カウンターだけの、ジューサーで作るフレッシュジュースの店も、子どもの頃を思い出させる。渋谷のデパートの地下街にもあって、親の買い物についていく楽しみの一つだった。
1階にある「オザワフルーツ」は、そんな子ども時代に戻れる場所である。
「昔は、お父さんたちが家へのお土産に果物を買うことも多かったんですが、重いというのもあって下火になりました。で、何かないかと考えた時に、果物屋なんだから、ジュースをやろうということになりました」と言いながら、女将さんがジューサーを回す。
今と昭和が大きく違うのが、たばこに対する世間の反応である。そんな時代に争うような、まるでたばこの煙が神事の白煙のようにありがたくも感じるのが「カトレア」だ。
こんなところにも昭和を感じてしまうのは、やはり時代が変わったからだろうといわざるを得ない。小さめのテーブルとくつろげる椅子が往年の喫茶店を懐かしく思い出させる。スタイリッシュな内装の店が多い中、カトレアは今も渋いままで営業を続ける。
少なくとも、店内に染みついた残り香は、まさに「昭和」のものであることは、間違いない。
⚫︎3F 喫茶店 昼夜問わず客が集う「カトレア」

仕事の途中で、または食後に、たばこを吸いながら一息入れるサラリーマンが集まる店。ガラスに覆われて開放感が気持ち良い。ソーダフロート(650円)もうまい。

上着を脱いでくつろいだ格好のサラリーマンや若者でいつも賑わう。テキパキとしたウエイターの対応が嬉しい。気持ちがスーっと軽くなる。
TEL:03-3504-2200
営業時間:10:30~20:00
定休日:土日祝
⚫︎1F 金券ショップ 金券ショップの先駆け「アーチ」

入り口のすぐそばに佇む金券ショップ。会社の行き帰りにも気軽に寄れる、サラリーマンの味方。店員の対応が丁寧で訪れやすい。値段も高すぎず安すぎずちょうどいい。

黄色で目立つ店頭。デパートの商品券から旅行券、ビール券など2000種類の金券を扱う。都内随一の在庫量だ。
TEL:03-3595-1491
営業時間:10:00~19:00
定休日:日祝
⚫︎1F ジューススタンド 体にも良いフレッシュジュース「オザワフルーツ 」
カウンターにいつも人が絶えないジューススタンド。旬のフルーツジュースが店頭に並ぶ。野菜とフルーツをミックスした働く人の健康を考えたジュースも飲みやすくて人気だ。



TEL:03-3501-3704
営業時間:8:00~20:00(土曜 9:00~18:00)
定休日:日祝
■地下にある飲み屋街は酒好きを虜にする
平成・令和を生きる若者は、あまり酒を嗜まないらしい。時代といえばそれまでだが、オヤジ世代としては少し寂しい気持ちも否めない。
ただこのビルの地下街は「オヤジの聖地」といわれているだけあって、フロアを彷徨いながら、あらゆるつまみで、飲兵衛を満足させる。家庭料理、中華、お袋の味、肉料理、なんでもござれだ。

なかでもお勧めしたいのが、「居酒屋ニューニコニコ」である。笑顔の素敵な女将・神久明子さんが、本当にニコニコしながら、料理を運び酒を供する。
思わず、「本当に、ニコニコしてますね」と言ってしまったが、「お客さんが楽しそうに飲んで食べているところを見ていると、自然と笑顔になっちゃうんです」とまた笑顔だ。

ランチもやっていて、魚の定食は必食の一品。その場で焼いてくれるから、熱々の焼き魚で白いご飯は、ありふれた言い方だが、“日本人に生まれて良かった”と心底思わせてくれる。
昼はビール一本ぐらいにして、夜再訪、本格的にご飯のおかずを肴に飲むのもいいだろう。
⚫︎地下1F 居酒屋 ニュー新橋ビルとともに開店「居酒屋ニューニコニコ」
誰もが笑顔になれる店にしたかったと女将さん。元々は「ニコニコ」として新橋駅前で営んでいたが、ビルの開業とともに移転。ビル名の「ニュー」を頭に付けた。入り口には、大きく赤い字でカードが使えないと注意喚起。


TEL:03-3501-6667
営業時間:11:30~22:00
定休日:土日祝
■まるで新橋という街を凝縮したようなビル

それぞれの街には、必ずといっていいほど「雑居ビル」が存在している。ここニュー新橋ビルがほかのそれとちょっと違うのは、食だけではないところだ。
サラリーマン向けの衣料品から金券ショップ、マッサージ店、ゲームセンターなどなど、ビル自体が一つの街のようになっている。
落ち着ける喫茶店なら、昔から何も変わらない「喫茶フジ」へ。コーヒーゼリーやクリームソーダ、ホットケーキなども当然のようにメニューに並ぶ。
「提供させていただいているのは、昔からのものがほとんどですね。そういうものを求めてきてくれている人がやはり多いと思うので」
オーナーの市原宏昭さんが穏やかな笑顔で言った。

一方で、不思議な静けさを放っているのが、東京囲碁会館だ。かつては、どこにでも、誰もが集まれる将棋道場や碁会所が存在したが、新橋駅のすぐそばの大きなビルの中にあるとは、誰も思いつかないのではないか。店主のおばあちゃんは、話好きな人物だ。
「今じゃ会員さんも少なくなりましたが、根強い人気はありますよ。まだ毎日いらっしゃる方もおられますし、こういう場所は街に残すべきだと思っていたのですが……」
しかし残念ながら、2024年いっぱいで閉店することが決まっている。
消えていくものがあれば、そこにとどまるものもある。昭和から続いていたものに手を振るのは悔しい。願わくば、この特集がとどまるモノや人を増やすことに寄与できることを……。
⚫︎地下1F 喫茶店 壁の富士山が目印「喫茶フジ」

決して「カフェ飯」ではない。しっかり腹を満たす食事が供されたのが、昭和の喫茶店だった。カレーやナポリタンで食事ができるのがその証し。創業はビルと同じ 昭和46年(1971)。


富士山の焼き印が押してあるホットケーキ(ドリンク付800円)は、昔ながらの素朴な味わい。マーガリンとシロップをお好きなだけかけて召し上がれ!
TEL:03-3580-8381
営業時間:10:00~19:00(土曜〜18:00)
定休日:日祝、毎月1回ほど月曜休みあり
⚫︎4F 碁会所 ゆっくりと時を刻む「東京囲碁会館」
昭和の大人が楽しむ遊びの二大人気は、囲碁と将棋だったような気がする。各街に碁会所があって賑わっていたことを思い出す。これも昭和の風景となってしまったか。

奥に見えている背中は常連さんたち。朝から夕方までずっといる。ほかにも、碁を打つ男女の姿も見えた。
TEL:03-3580-4870
営業時間:12:00~21:00
定休日:日曜
■古き良き昭和の遺産が勢揃い
TOKYOレトロ探訪
~後世に残したい昭和の情景~

昭和のスポットを回るのにお勧めの一冊。暗い戦争があり平和があって、お金持ちも増えた。
そんな激動の昭和を緻密な取材と美しい写真で振り返り、未来へとつなげていく糧にしたいと編纂された充実の書籍。紙で見る写真の美しさと文章の重みも感じられるはず。
レトロイズム 編
朝日新聞出版
1760円
※この記事は2024年11月号に掲載されたものです。
取材・文/今村博幸(レトロイズム) 撮影/米屋こうじ
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