脱サラして始めた小さな食堂
駅前の商店街に佇む小さな駅前食堂は、すでに客で満杯だった。昭和の雰囲気を感じさせる店内、頭上のテレビでは朝ドラの再放送が流れている。
壁には手書きメニューが160種以上。とんかつ定食、カツカレー、ラーメン、うどん、スパゲティと何でもありだ。メニューの半分は「おかず」で、酒の肴にもなる。どれも素朴な家庭料理である。
ぎっしりと並べられたテーブルと椅子。相席は当たり前で、常連客が初めての客に「ここは量が多いよ」などとアドバイスしている。人と人との距離が近いから、つい隣の人に話しかけてしまう不思議な空間だ。
奥の厨房で調理するのは尾崎彰一郎さん夫婦。昭和45年(1970)、ご主人が西武鉄道を脱サラして20歳で開店。当初は母と姉が手伝ってくれていたが、23歳で結婚してからは奥さんも仲間入りした。
「パートを探すよりも結婚した方が早かったと言うと、カミさんにいつも怒られてしまうんだ(笑)」
「最初は接客が私の花道だと思っていたのに、いつのまにか厨房でフライパンを握っていたのよ」
夫婦の呼吸は絶妙だ。しかし開店から46年、山あり谷ありだった。
「世の中の動きは厨房から見ているとよくわかるね。バブルの時は定食屋に人は来ないよ。この十何年でお客さんが来てくれるようになった。ボリュームたっぷりの料理をお腹いっぱい食べてもらいたいね」
早くて、安くて、旨い。駅前食堂の教科書のような店である。
※新型コロナウイルス感染症対策のため営業時間・定休日に変更の可能性あり(2015年取材)
文/阿部文枝 写真/遠藤純
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