今、2000年以上の歴史を持つ日本の酒に大きな転換期が訪れている。地震からの復興、ユネスコ登録、多様な日本酒の登場。数馬酒造の活動から、昨今の日本酒事情を読み解くとしよう。
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
※この記事は2025年5月号に掲載されたものです。
【お話を聞いたのは】
数馬酒造
数馬しほりさん
国際唎酒師や食育インストラクター、発酵食スペシャリストの資格を持つ。蔵元の夫をサポートし、日本酒の発展・普及に尽力する。
■能登に息づく日本の伝統ある小さな酒造の物語
日本酒の歴史は古く、奈良時代にまで遡る。米と水、こうじ菌が織りなす発酵文化は、日本の風土に根ざし、平安時代には朝廷への献上酒とされた。
江戸時代になると、杜氏制度が確立し、地域ごとの技術が磨かれ、酒造りが一層発展。近代化の中で大量生産が進む一方、手造りの価値も見直され、多様なスタイルで進化してきた。
2024年、新年を迎えたばかりの石川県を大地震が襲った。能登半島地震は、大きな被害と試練をもたらし、能登町の酒蔵「数馬酒造」もその渦中にあった。

「6棟あった酒蔵のうち4棟が損壊し、津波もありました。当初は呆然とするしかありませんでしたが、たくさんの方の支援をいただきながら酒造りの復旧を第一に急ぎました。幸いにも数年前から施設の冷蔵化が進み、夏場の酒造りができる環境に近づいていました。能登の農地を維持するためにも、夏まで酒造りを行いました」
と蔵元の妻であり、販売責任者も務める数馬しほりさんは話す。

「能登を醸す」を掲げる数馬酒造は、耕作放棄地での米作りや地元素材の活用で、地域との絆を深めてきた。震災からの復活は、単なる再建を超え、能登のアイデンティティを酒に込める決意でもある。蔵の損壊や酒造りの中断を余儀なくされながらも、地域の支援と独自の工夫で復興へ歩み出した。
同年12月、「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録された。こうじ菌と酵母を用いた並行複発酵や、杜氏の手仕事が世界に認められた瞬間だ。能登にとってこれは復興の励みであり、日本の酒造りがグローバルな価値を持つ証しでもある。

日本酒の輸出は近年急増し、2023年には411億円と10年で4倍に跳ね上がった。海外での「SAKE」人気と相まって、ユネスコ登録はさらなる飛躍の起爆剤になる。
この知らせを聞いた数馬さんは「まず、先人たちへの感謝。そして今度は自分たちが未来へとつながなくてはという使命感。『人がすべて』という先代の言葉の通り、この一年で人との関わりの大切さを再確認いたしました」とその想いを強くする。

日本酒の現在地は、過去と未来の交差点だ。国内では消費減少が課題だが、若い世代や海外市場へのアプローチで活路を見出している。数馬酒造でも震災とユネスコ登録を機に、伝統を守りつつ革新を模索し続けている。
風土を映す酒造り、技術継承、そして世界への発信。能登の小さな酒蔵が示すように、日本酒はただの酒ではない。それは文化であり、歴史であり、人と土地をつなぐ物語なのだ。


■能登を醸す「数馬酒造」(かずましゅぞう)
⚫︎竹葉 純米大吟醸 百万石乃白 40%
能登産米で醸す 最高級純米大吟醸

米の洗練された味わいと透明感、2つの酵母を組み合わせ醸した特別な1本。杏や梅を思わせる香りに白砂糖のような甘さが舌の上で幾重にも重なりキャラメリゼのよう。後口では甘さがあっさりと昇華され、程よい余韻が続く。
原料米/能登産百万石乃白100%
精米歩合/40%
アルコール度数/15度
⚫︎竹葉 いか純米
イカに合う能登の海藻由来酵母を使用

メープルやはちみつのようなしっかりと重心を感じる味わいが、イカのねっとりとした甘みや酸味に調和する。能登の海洋深層水で醸す能登町小木地区特産の「小木イカ」に合う酒。
原料米/能登産百万石乃白90%、能登産石川門10%
精米歩合/60%
アルコール度数/16度
⚫︎Chikuha Oyster
牡蠣を楽しむための爽やかな純米酒

牡蠣の殻を活用して育てた米と、海洋深層水、ワイン酵母を使用。ミネラルたっぷりな能登の牡蠣の味わいに相乗するように、酸味が引き立ち、程よい甘みとうま味がたまらない。
原料米/能登産ゆめみづほ100%
精米歩合/67%
アルコール度数/16度
■海外で造る日本酒「SAKE」
日本の伝統的な技術をベースに、現地の原料や環境を活用して醸す日本酒を「SAKE」と呼ぶ。日本の酒米に頼らず独自の味わいを追求し、現地の醸造家がアレンジを加える自由度が魅力だ。健康志向の日本食ブームやユネスコ登録が人気を後押ししている。
数馬酒造
石川県能登町宇出津へ-36
TEL/0768-62-1200
営業時間/9:30〜16:30
定休日/日曜、祝日
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