300年の伝統の技と白州の名水で醸す
耳元に届く清冽な川の流れ。その渓流には澄みきったエメラルドグリーンの色合いが太陽の光をあびて輝いている。
川は南アルプスの秀峰・甲斐駒ヶ岳を源とする尾白川。釜無川に合流する一級河川だが、いくつもの滝が目を楽しませる尾白川渓谷と呼ばれる山麓がことのほか美しい。近くには駒ヶ岳神社が鎮座し、本殿横の鳥居には「名水神社 龍神宮」の文字も。
尾白川は昭和60年に「名水百選」に選ばれ、川が流れる白州の町は名水の里とし知られるようになった。甲斐駒ヶ岳に降った雪や雨が地中深く浸透し、花崗岩に含まれる水晶(石英粒)に磨かれながら、町のそこかしこに湧き出す水は硬度30、pH7の軟水。ほんのり甘さを感じる軟らかな水が白州の町を潤している。
水清きところに旨いものありといわれるが、白州では大手ウイスキー会社の工場をはじめ、老舗の日本酒醸造所、そばの店などがその水の恩恵を受けている。
旧甲州街道沿いにある台ヶ原宿。江戸から40番目の宿場町として栄えたこの場所に、足を運びたい酒蔵がある。
昔ながらの町筋のなかで、ひときわ目を引くのが「七賢」の銘を冠する山梨銘醸酒造の佇まい。初代が白州の水に惚れ込んで約300年前にこの地に蔵を構えた。近年は新たな醸造技術を試みつつ昔ながらの七賢の味を堅持。どこか南アルプスの雄大さを想起させるキレのある口当たりと爽やかさをぜひ体験してほしい。
代々酒造業を営んでいた長野県高遠の地から分家し、当蔵の初代となる北原市兵衛光義が寛延3年(1750)に創業。以来、甲斐駒ヶ岳の伏流水を仕込み水にして日本酒「七賢」を醸し続けている。
長年蔵人に受け継がれてきた伝統の醸造法と最新の醸造技術を融合させ、さらに上質の酒を追求。また、昨今は酒蔵ならではの技を生かした麹製品などを提案している。隣接のレストラン「臺眠(だいみん)」では蔵元ならではの麹を生かした料理も味わえる。
※営業時間・定休日に変更の可能性あり(2015年取材)
※醸造蔵(工場)見学・行在所見学は一時休止中
(七賢HP https://www.sake-shichiken.co.jp/)
文/岩谷雪美 写真/佐藤佳穂