珈琲の流儀―どんな道にも、独自の方法でその道を切り開いてきた人たちが存在する。コーヒーの世界もまたしかり。サードウェーブコーヒーが台頭したように、 コーヒー の世界は常に試行錯誤がなされ、新しいスタイルが生み出されている。その最先端を知る人はごく僅かだ。スペシャルティ珈琲専門店『ウッドベリー・コーヒー・ロースターズ』木原武蔵が聞くコーヒーの奥深き世界へ。対談初回の相手はBespoke Coffee Roasters(べスポーク・コーヒー・ロースターズ)代表の畠山大輝さん。日本最高峰のコーヒー競技会JBrC(ジャパン ブリューワーズカップ)2019、JHDC(ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ)2019でチャンピオンという実力者だ。

ブリュワーズカップ2017予選後 、二人の出会い

木原:あらためてめっちゃ緊張しますね(笑)。僕、実は畠山さんにすごい色々お聞きしたいことあって、今日はざっくばらんにお聞きできればと思います。まず二人の出会いの話からしたいと思います。僕が畠山さんに初めてお会いしたのは、バリスタ5人でやったコーヒーの練習会。ブリュワーズカップ2017年予選の後に集まった時ですよね。あの練習会はどういう繋がりだったんですか?

畠山:あれ、なんだったんですかね〜確か成澤さん(現 THE RISING SUN COFFEE)と他の大会でお会いした時に誘ってもらったのがきっかけです。

木原 : そのときまで失礼ながら畠山さんのこと存じ上げなかったんです、すいません!

畠山:いやいや当たり前ですよ!(笑)

コーヒー を始める前はニートでした

木原:畠山さんのキャリアのこと詳しくお伺いしても良いですか?まずどんなきっかけでコーヒーを始めたんですか?

畠山:コーヒーを始める前はニートでした。

木原:日本一になった時の表彰式でも言ってましたね(笑)

畠山:親がコーヒー好きで。親がよく行くコーヒー豆屋さんにおつかいに出されたりしていくうちに僕も通うようになって。豆を買っているうちになんか結構ハマっていきました。それからしばらくしてそこのお店が新しい店舗を出す時に「どうせ暇でしょ、やってみたら」と言っていただきアルバイトで入ったのがきっかけです。それが2014年なんですけど、1年間ぐらいアルバイトさせてもらって、これもっと突き詰めてみようと思い立ち、全く別の業種で1年間働いてお金溜めて焙煎機を買いました。

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木原:なんで最初から焙煎機だったんですか?

畠山:アルバイトしてたお店が自動の焙煎機だったんですよ。生豆が置いてあって、注文があってから焙煎するみたいな。色々いじってたんですけどやっぱり限界あるなーって。ちゃんとしたやつ買いたいってなりました。

木原:富士ローヤルの直火1kgのやつですね、大分マニアックなやつですよね。今日はその畠山さんの自宅行きたかったんですけど、ダメって言われました(笑)。なんかピアノのプロがグランドピアノの下で寝てるみたいなイメージ。

畠山:近いかもしれない(笑)。もっと売れて移転することになったら最後にお披露目するかもしれません

“美味しい”を突き詰めるオンライン販売のみの焙煎所を

木原:その当時、海外ブランドが来日したり、多くの企業が新規参入してきたりしていましたが、その中でご自身のブランドを作った理由はありますか?

畠山:どこかに入る選択肢もありました。でも現場でやっている子たちが若かったり、オーナーが自分より若かったりすると気を使いそうだなと思って。結局最後は自分の“美味しい”を突き詰めることだと思っているので、だったら最初から自分でやろうと思いました。

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木原:そうなんですね!開業当初どんなビジョンを持ってたんですか?

畠山:オンラインでそれなりに売れるようになって、焙煎所みたいなのを作って、オンラインだけで発送していき、焙煎のチームを広げたいと考えていました。

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畠山さんが運営するオンラインショップ「Bespoke Coffee Roasters」のコーヒー

コーヒーは生鮮食品のような必需品

木原:最初からオンラインでやるって決めていたんですね。すごい意外です。「いつか自分の店を持ちたい」っていう人が多いですよね。

畠山:なんか自分がお店出したら潰れそうな気がします(笑)。成功するイメージ湧かなかったです。お店は吹けば飛びそうなビジネスモデルですよね。やるとしても焙煎所で豆だけを販売するような感じですかね。

木原:豆売り専門かぁ……それは最初のお店を見て考えついたんですか?

畠山:コーヒーって生鮮食品というか、嗜好性の高い必需品じゃないですか。なくてもいい人もいるけど、絶対なくっちゃだめという人も多い。そういう人にとっては薬局みたいな。家になくなったから買いに行くみたいな。消費者が焙煎などの好みを選べるようになればオンラインで買う流れになるんじゃないかなと。でも生活の基盤であったりいろんな人に飲んでもらう機会を増やすためには、路面店も重要なことだし、コミュニティとして機能し始めれば面白いなと思ってはいるんだけど、やりたいかって言われると微妙。自分が焙煎するので他のひとにやってほしい。同じところにずっといられないんです(笑)。

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木原:僕はお店大好きなんですよ。コミュニティ感が好きです。地域の人に育ててもらっている感じがあるんです。実家がお花屋さんだったから、その地域の関係性が僕のお店の原体験になってます。感覚的には自分のおばちゃんが増える感じ。コーヒー好き、波長が合う人が集まるからさらに気持ちいい近所付き合いができていて幸せです。

コーヒー業界の外へ目を向ける

畠山:あともう一つお店をやらない理由としてはせっかく肩書きが着いちゃったから、他の業種とかいままでリーチ出来なかった所と、もうちょっとちゃんとやれる機会を貰える可能性がある事に気が付き始めました。これはお店を始めた時からの目標で「いつでもどこでも美味しいコーヒーが飲める世界を作る」というのがあってオンラインをやっているんですが、それだけでなく既存のお店とかが変わった方がインパクトは大きいんじゃないかなとも思ってます。

木原:最近コンサルティングやトレーニングやってる人多いですよね

畠山:コーヒー業界にあんまりいたくないんですよね。木原さんのところは儲かってるからいいけど(笑)

木原:いやいや、全然儲かってないですよ(笑)

畠山:みんな儲かってないから気が引けちゃうし、仲間内だしなーと思ってしまうんですよね。他の業種とお仕事をしてお金もらった方が健全かなと思ってます。

コーヒーの大会に出始めたワケ

木原:2つの大会でチャンピオン、1つの大会で3位のタイトルを持っている畠山さんですが、そもそもなんで大会を目指したんですか?

畠山:アルバイト先でラテアートの大会に出ているスタッフがいて、その姿を見て影響をうけました。お客様は美味しいって言ってくれるけど、より客観的な視点が欲しくて。焙煎をはじめてからは自分のスキルアップのために挑戦していました。

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この日も実際に、チャンピオンにドリップして頂きました

木原:でも大会ってめっちゃ辛いじゃないですか。

畠山:そうですね(笑)。自分でも何の為にやってるんだろうって思いますよね。

木原:お金も時間もめちゃくちゃかけるから競技は本当に大変。

畠山:でも一番は僕自身が美味しいコーヒーを飲みたいっていう動機が強くて。自分が焼いて、自分で淹れて、一番自分の好みに合ったコーヒーができたらめちゃくちゃ幸せじゃないですか。その延長なんですよね。

木原:周りにあまり流されずに自分の信じる美味しさを突き詰めていくことが大会に勝つ上では重要なんですかね?

畠山:優秀なトレーナーが入れば別ですが、自分でやるからには、自分の感覚で進むことが重要かもしれないです。自分で腹落ちすることが大事だと思います。

木原:だからこそ畠山さんの独特というか独創的な淹れ方が生まれるんですね。

畠山:確かに変わってるかもしれない(笑)

木原:畠山さんのコーヒーは甘いですよね。マウスフィールも特徴的。

畠山:マウスフィールがいいコーヒーっていいですよね。

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この日の一杯は「エチオピア コンガ農協 ナチュラル製法」

深煎りのスペシャルティコーヒーがあってもいい

畠山:コーヒーはもっと広がる可能性を秘めている気がします。どうしても敷居が高いものって思われることが多いじゃないですか。「コーヒー好きなんです、でもあまり詳しくないんです」みたいな。

木原:あー確かに。それは結構言われますね。

畠山:本当はもっと自由にみんなが楽しんで良いものなのに、敷居が高くて躊躇しちゃったり、「コーヒー道」みたいなのがあってそこに反しちゃいけないんじゃないかみたいな認識を持ってる人が多い。

木原:そうですね。日常的にコーヒーを楽しんでもらいたいですね。

畠山:あと、今のスペシャルティコーヒーでは浅煎りが主流ですが、もっと一般の消費者の実際の好みとしては深煎りも嗜好されていると思っていて、垣根を超えて自由な感じになっていくんじゃないのかなーと。

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木原:確かに深煎りのスペシャルティコーヒーも美味しいですよね

畠山:あとは20年先とかだとローストが自動になっている可能性も充分ありますよね。

木原:焙煎士の仕事なくなっちゃう(笑)

畠山:だからこそ品質管理っていうのは重要になってきますよね。焙煎屋さんは製造業なのでスケールメリットが大きい。消費者にとっては良いことなんじゃないかな。20年後にはそこらへんのコーヒーが美味しいってなっているかもしれないですね。というか、しないといけないですね。

憧れのコーヒーマン 丸山珈琲の丸山健太郎さん

木原:コーヒー業界で憧れの人とかっていますか?

畠山:丸山珈琲の丸山健太郎さんです。美味しいコーヒーに触れる機会が圧倒的に多い。スペシャルティコーヒーの第一人者。作ってきた人なんで憧れがあります。

木原:僕はパッと思い付かないな……みんな尊敬してます。

畠山:木原さんは何を目指しているんですか? 何年後かにこうなっていたいみたいな。

木原:僕はコーヒーで世界を良くしたいって考えていて。もともとコーヒーを始めたきっかけも貧困問題だったりとか、ソーシャルな部分の課題を解決したいと思っていた時に出会ってちょうど良いものだったから。コーヒーってコミュニティ感もあるし、職人感もあるし、自分の好きな美味しいものだし……それでいて世界の問題も解決できるって最高だなって。だから好きなんです。

畠山:なるほどね。すごい。全然違う動機でしたね。僕は美味しいコーヒーしか興味ないので(笑)。それくらいしか動機がないです。でも世界を良くするってのは思いますよね。朝一美味しいコーヒーが飲める世界になったら、その日一日ちょっと幸せになるじゃないですか。日本の幸福度が少し上がるみたいなインパクト残せるんじゃないのかなと。だからどこでも美味しいコーヒーが飲めるって大事だなと思います。

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豆のポテンシャルを引き出す

木原:この連載の題名にもなっていますが、コーヒーを淹れてるとき気をつけてることありますか?ルーティーンとかもしあれば教えてください。

畠山:あんまりないですかね……匂いを嗅ぐとかはありますけど。気をつけていることでいうと、その豆のポテンシャルをしっかり引き出す。こういうと月並みなんですけど、その豆の持っている味をよりどっかだけだそうとかどっか抑えようとすると歪みがでる。その豆の持っているポテンシャルの中で最高の成分だけを取り出すっていう意識は常にあります。

終わりに

JHDC2019、JBrC2019の二冠を達成した畠山さんの貴重なお話を聞かせていただきました。世界大会は2020年11月にメルボルンで行われる予定です。ぜひ優勝して欲しいですね!心から応援しています!ありがとうございました!

Bespoke Coffee Roasters