冬の定番「鍋料理」。今やさまざまな種類の鍋料理が自宅で手軽に食べられるが、地域によっては特色のある「ご当地鍋」が存在する。各地域の家庭で食べられているものから、B級グルメとして注目されているものまで個性豊かな顔ぶれだ。鍋文化の歴史から、思わず現地に行って食べたくなる各地の鍋とそれぞれの魅力を紹介する。
●古来食されてきた鍋料理
世界各地に鍋を使った料理は存在するが、日本においては地域によって多彩な鍋を味わうことができる。その理由を知るために、まずは鍋料理の変遷を大まかに紹介する。
▷土器や鉄鍋を使った鍋料理?
鍋料理とは、鍋を食卓に出し、材料を煮て食べる料理のこと。さまざまな具材を煮るという調理方法は、土器が存在した縄文時代から行われてきた。その後、大陸から青銅器や鉄が伝わってきた。時代の流れと共に製鉄技術が発達していき、平安時代には鉄製の鍋が使われていたようだ。
ただ、鉄の鍋を使うのはほんのごく一部の人に限られており、鉄の鍋が広がったのは14世紀頃と考えられる。当時は囲炉裏などに大鍋を置いて、煮込んだ具材を取り分けて食べるという形がスタンダードだったようだ。
▷鍋文化が花開いた江戸時代から明治時代
江戸時代になると、江戸の食文化が花開くのに合わせて、鍋料理も変化を遂げる。大鍋から取り分けて食べる方法から、大きな鍋をみんなでつつき合う形に変化したのだ。
江戸では居住スペースが狭かったことにくわえ、薪や水といった資源に限りがあった。そのため、かまどで大鍋を炊き、五徳など鉄でできた台に乗せることで、作った料理をみんなでつつき合いながら、鍋から直接食べるスタイルとなったようだ。
また、こうした大鍋とは別に、1人〜2人前用の小鍋を使った「小鍋立て」という鍋料理が登場し始める。調味料が増えたことで鍋料理の種類も増えていき、煮込みながら楽しむどじょう鍋や田楽鍋、湯豆腐やあさり鍋などを専門的に扱う店もあったようだ。
そして、明治時代になると、文明開化・富国強兵のもと「牛鍋」が登場する。この時、テーブルに置かれた鍋をみなでつつき合う、現在の形に通ずる鍋料理のスタイルが定着したようだ。
このように、時代と共に日本の鍋料理は変化を遂げていった。
●個性豊かなご当地鍋
それでは、全国にはどんな鍋料理があるのだろうか。ここでは、各地の食文化が根強く残る、歴史あるご当地鍋の一部をピックアップして紹介する。
▷石狩鍋(北海道)
北海道の石狩地方が発祥。江戸時代から、石狩地方ではサケ漁が盛んだった。サケが大漁だった際に、味噌汁が入った鍋にサケのブツ切りやアラを入れて楽しんだといわれている。
元々は漁師料理だったが、昭和20年代に石狩のサケ漁を見に訪れた観光客に振る舞ったところ好評で、全国的に知られるようになった。
▷きりたんぽ鍋(秋田県)
諸説あるが、奥羽山脈の北、鹿角(かずの)地方発祥といわれている。「きりたんぽ」が生まれたのは220年以上前ともいわれており、山で木材を切り出す木こりの携行食「たんぽ」が始まりのようだ。たんぽとは、串に飯を巻きつけた棒状のおにぎりのこと。寒さで冷えた飯を焚き火で焼いて、味噌などをつけて食べていたそうだ。
その後、「たんぽ焼き」を囲炉裏の鍋に入れて煮込んだ鍋料理が普及していく。昭和40年代に「比内地鶏」が誕生したことで、比内地鶏を使った旨みのあるダシが、きりたんぽ鍋に使われることになったようだ。
秋田県には、日本海に面した男鹿半島で生まれた歴史ある魚醤「しょっつる」と、名産のハタハタを使った「しょっつる鍋」もある。
▷あんこう鍋(茨城県)
あんこう鍋は、アンコウの肝を使った味噌仕立ての郷土料理「どぶ汁」がベースとなっているようだ。このどぶ汁は、当初は売り物にならなかったアンコウを、北茨城の漁師が暖をとるために煮て食したとされる。
ただ、江戸時代にはアンコウが水戸藩からの献上品となっていたようで、茨城県ではアンコウ漁が盛んに行われていた。そして、「西のフグ、東のアンコウ」といわれるように冬の味覚として定着していったのだ。
あんこう鍋として一般的に食され始めたのは昭和になってからのようで、骨以外は捨てるところがないアンコウを丸ごと使う鍋として定着している。
▷飛鳥鍋(奈良県)
鶏肉と野菜を、牛乳とダシで煮込んだ郷土料理。
なぜ牛乳が使われるのかというと、なんと、飛鳥時代に伝わった乳製品が由来している。孝徳天皇に献上された乳製品が大変喜ばれたことから、宮中で乳牛が飼われるようになった。当時、牛乳は貴族の飲み物だったがやがて僧侶たちも飲むようになり、その後、飼育されていた鶏肉を牛乳で煮て食すようになった。
これが飛鳥鍋の起源といわれている。飛鳥鍋は庶民にも広がっていったが、牛乳は希少で高価だったので、庶民はヤギの乳を使っていたようだ。昭和に入り、明日香地域の地場産牛乳を使った現在の飛鳥鍋が誕生した。
▷カキの土手鍋(広島県)
味噌を鍋のふちの内側に塗り、鍋の中で生ガキや豆腐、野菜を煮込んで食べる。
その名前の由来には諸説あり、味噌を土手のように塗る形から名付けられたという説。そして、江戸時代中期に、安芸郡矢野村の土手という名の商人が、広島の名産であるカキを大坂に売りに行った際に、カキを使って鍋を創作したという説などがある。鍋のふちの味噌を少しずつ溶かして食べるという、食べ方に特徴がある鍋だ。
ここで紹介した歴史ある鍋はほんの一部で、全国にはまだまだ多くの鍋料理がある。そして、ひと口に鍋料理といっても、各地の歴史や食文化によって発展と遂げてきたことがわかる。
●B級グルメとしてのご当地鍋
ご当地鍋には、まちおこしとして新たに創作されたものや、知られざるソウルフードとして発展したメニューも少なくない。
例えば、静岡県の「もつカレー鍋」。戦後、静岡市の飲食店が、名古屋のどて煮をヒントに考案した「もつカレー」がベースとなっており、現在では鍋としても進化を遂げているようだ。
また、広島県東広島では、豚肉や鶏肉、野菜を日本酒と塩こしょうだけで調理する「美酒鍋」なるものもある。山口県周防大島では、新鮮な魚介類に地魚で作ったつみれ、そして名産の温州みかんを丸のまま皮ごと煮込む「みかん鍋」も登場している。
実際に足を運ぶのも良いし、取り寄せて自宅で楽しむのも良い。この冬、定番から変わり種まで、個性豊かな鍋料理を楽しんでみてはいかがだろうか。