70271井尻珈琲焙煎所|マスターの丁寧な仕事。一杯の珈琲が客をもてなす

井尻珈琲焙煎所|マスターの丁寧な仕事。一杯の珈琲が客をもてなす

男の隠れ家編集部
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■珈琲と音楽、本と共に、ゆっくり過ごせる場所を

JR大阪環状線「大正駅」を降りてすぐ、細い路地を曲がった所に「井尻珈琲焙煎所」はある。扉を開けると焙煎機、その隣にはレコードプレーヤー。奥に長いカウンターが延びているのが見える。

井尻健一郎さんがこの店を始めたのは今から6年前。いつか珈琲豆の焙煎を生業にしたいと会社員時代に勉強を重ね、深煎り珈琲専門店としてオープンさせた。好きな珈琲と音楽、本をゆっくり楽しめる空間を求めた結果、今のスタイルにたどり着いたという。

あくまでも珈琲が主力だが、良い音で音楽を聴いてもらうことも大事な要素だ。音が強いと聴く人も疲れてしまうため、柔らかく優しい音のオーディオを選定。選曲はジャズからソウル、現代音楽からアンビエントミュージックまで幅広く、その時の店の感じや客の雰囲気で決めている。

井尻さんの哲学が伝わるミニマムな空間。さりげなく飾られた花たちが印象的だ。

「音楽って空間で鳴っているからこそ良さが伝わるものだと思うんです。本のページをめくる音、カップとソーサーが触れる音、それらが合わさって、音楽がさらに良くなったりもしますから」

音楽を聴きたい人、本の世界に没頭したい人、おしゃべりを楽しみたい人と、過ごし方もさまざま。珈琲を飲む時間くらい離れてほしい、という思いからスマートフォンやタブレットなどでのゲームや動画鑑賞、PCの使用をお断りしている。

また、初めて訪れた人には珈琲の提供に時間がかかること、店内ではあまり大きな声で会話ができないことを伝えるようにしている。隣で本を読んでいる人がいれば小さな声で話してもらう。そんな店主の気遣いが居心地の良さをつくるのだろう、オープンから閉店まで過ごす客も少なくないそうだ。

「例えばライブでいくら良い演奏をしても、お客さん次第で台無しになったりする。お客さんも店づくりの一端を担っていると思うんです。だから、良い感じの距離感を大切にしたい」

同じブレンドの豆でも、ネルドリップはまったりと、ペーパードリップはさらっとした味わいに仕上がる。両方を注文して、飲み比べを楽しむ2人連れも多いそうだ。

珈琲のメニューは月替わりのみ。ブレンドとミルク珈琲があり、それぞれペーパードリップとネルドリップから選ぶことができる。この日はネルドリップで淹れていただくことにした。

豆を挽く前にライトの下で、もう一度豆をハンドピックする井尻さん。その顔は、まさに職人の表情だ。大きな薬缶からお湯をポットに移し、ゆっくり、ゆっくりドリップしていく。挽かれた豆がみるみる膨らみ、あたりに珈琲の香りが立ちこめる。

口に含むと深いコクが口の中に広がり、すっきりとした後口が心地良い。深煎りは冷めると角がとれて丸みを増すそうだ。ちなみに、豆の味を残す浅煎りは豆が主体だが、深煎りは人が主体。焙煎することで豆の個性が消えるため、何を残したいか、何を伝えたいかが重要だという。では、井尻さんが伝えたいこととは……。

「生活の余白、ですかね。せめて珈琲を飲む時くらい、心のゆとりをもって時間をかけて楽しんでほしい。自分にとって何が幸せで、何が贅沢なのか、この店がそういうことに気付ける場であってほしいなと思います」

「音楽は気軽に買える芸術」という井尻さん。奈良県にある「パステルレコーズ」がセレクトしたレコードやCDを視聴し、購入することができる。「ここは大阪ドームが近いんですけど、EXILEのライブ帰りの若い子がアンビエントのCDを買っていったりするんです。面白いですよね」と笑う。また、店の奥には小さな本棚があり、3段ある棚をそれぞれ異なる古書店に選書してもらっている。珈琲を楽しみながら読むことも、気に入れば購入も可能。「音楽も本も、全部自分でやる必要はないと思っているんです。任せるところは任せたい。ひとりで儲かれば良い……という時代でもないですしね」。

■店主とっておきの一枚

Black And Blues
ボビー・ハンフリー
レーベル/Blue Note

「うちの店らしい」と選んだのは、女性フルート奏者ボビー・ハンフリーのエレガントでソウルフルな一枚。音楽ファンに愛されるジャズファンクの名盤。彼女のキュートなヴォーカルも聴くことができる。

■音響機材

レコードプレーヤー:LUXMAN PD-151
アンプ:(真空管プリメイン)LUXMAN LX-380
スピーカー:Harbeth HL-Compact7ES-3

井尻珈琲焙煎所
平成28年(2016)創業
大阪府大阪市大正区三軒家東1-4-11
TEL:06-7503-5782
営業時間:11:00〜19:00(18:30LO)
定休日:不定休
席数:テーブル7席、カウンター8席
アクセス:市営地下鉄「大正駅」より徒歩すぐ

文/いしだかおり 撮影/渡部健五 

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