■歴代の館主が守り継ぐ 登録有形文化財の温泉宿
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
※この記事は2024年10月号に掲載されたものです。

三斗小屋温泉にある、もう一つの宿が「大黒屋」だ。その歴史は古く、「戊辰戦争で資料が焼けてしまいましたが、江戸時代後期に創業したようです」と6代目館主の高根沢春樹さんが話す。
「先祖は今の栃木県大田原市に藩庁を置いた黒羽藩の家老職で、部下の不祥事で左遷されてここへやって来ました。その息子が大黒屋旅館を始めて現在に至ります」


戊辰戦争では一度宿が焼失したものの、翌年の明治2年(1869)には以前の造りを踏襲しながら再建を果たした。武家の建築の名残りが見える本館は、国の登録有形文化財に指定されている。国内の登山が必要な山の宿のうち、今も運営されているものとしては最古の建物というから驚く。
「頭に気を付けてください」と言いながら高根沢さんが案内してくれた館内は、天井と梁が低い。酒が入った武士が、館内で刀を振り回さないための工夫だそうだ。


丁寧に拭き上げられてツヤツヤと光る廊下に、再建時から使い続けるランプが灯る。廊下の突き当りにはヒノキ造りの浴場があり、単純温泉の湯がとうとうと注がれている。湯はクセがなく刺激が少ないのが特徴だ。
昔ながらの急傾斜の階段を上って2階へ行けば、ノミで削られたゴツゴツとした梁が頭上に。客室の天井板には、昔の宿泊客による墨の落書きが残り、武家らしい床の間の造りや、飴色になったちゃぶ台と、設え一つひとつに味わいがある。

そんな中、部屋には新しい畳の香りが漂う。この夏、一部の部屋の畳の表替えをしたばかりだ。
「輸送手段がない山中の宿では、山を登れてその場で手縫いもできる畳職人が必要です。父の代のときにそんな職人がいなくなり長らく探していましたが、宿帳の職業欄に畳職人と書いた方を見つけ、連絡してみたんです」
快諾してくれたその職人は、東京の人だった。宿に1週間ほど滞在して作業を進めたという。畳の表替えは、今後も毎年続けていく予定だ。こうやって歴代の館主が、大切に宿を守り継いでいる。




三斗小屋温泉 大黒屋旅館
栃木県那須塩原市板室919
TEL/090-1045-4933
営業期間/4月初旬~11月下旬
チェックイン・アウト/14:00・8:00
料金/1泊2食付1万3000円~
文/中村さやか 撮影/遠藤 純
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