103874谷川岳と利根川に恵まれた関越の国境に点在する奥座敷|水上温泉郷【みなかみおんせんきょう】

谷川岳と利根川に恵まれた関越の国境に点在する奥座敷|水上温泉郷【みなかみおんせんきょう】

男の隠れ家編集部
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関東一の大河・利根川。遡った最上流には清流さわぐ河原の各所から豊かな薬湯が湧く。江戸期から文人墨客に、近代文学者に愛され近年では意外な漫画と映画の舞台になった温泉へ。

(※その他の写真は【関連画像】を参照)

※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。

■関東平野を潤す利根川の最上流に湧き出す湯の郷

日本最大の平野、関東平野。「坂東太郎」と称される東国一の大河・利根川が潤す。大河ながら川を遡れば平野は尽き、傲然たる赤城や榛名の峰を拝むことができる。

赤城や榛名は群馬県、昔の名でいえば上州の名山であり、古い時代に噴出した火山。

群馬県は火山県であり、火山が育む温泉天国でもある。利根川本流から離れて西側の支流、吾妻川の谷を遡れば、東日本一とも称される温泉地。地元の民謡「湯もみ唄」にも

 お医者様でも草津の湯でも
 惚れた病は 治りゃせぬ

 
 惚れた病も 治せば治る
 好いたお方と 添や治る

とも唄いこまれ、江戸期から諸国よりの湯治客で賑わう草津温泉がある。

宝川温泉は川に沿うようにして立つ、絶好のロケーション。

利根川の本流に戻る。さらに遡る。流れは山に分け入り河原は小石河原となり、清冽な飛沫を上げる。利根川の水源地帯の自治体名はその名も「みなかみ町」。

生まれたての利根川、あるいはその支流が深い深い峡谷を切り込んでいくうちに温泉に突き当たる。「水上温泉」「谷川温泉」「湯檜曽温泉」と、いくつもの温泉を有するがゆえ、当地は「水上温泉郷」とも呼ばれる。

前述の草津温泉は江戸と京都を結ぶ街道・中山道を経て上州と信州を結ぶ街道筋に位置した利点もあり栄えた。

江戸時代末期の記録では、草津には3階建ての旅籠が40軒、髪結いや遊技場も整い「草津千軒江戸構え」と称されていたという。

温泉街や道の駅なども近くにある好立地にあるにも関わらず、水上橋からの風景は大自然に囲まれた水上温泉郷を代表する景観となっている。写真右手に立つのが「坐山 みなかみ」。

だが水上温泉郷は利根川上流のどん詰まりで地の利に恵まれているとはいいがたい。昭和初期の記録によれば、すでに沼田市街から自動車や人力車が通じてはいるものの、各々の温泉地の宿の数はせいぜい2、3軒。

そのうえ冬季になれば、数メートルの積雪に閉ざされる関東では珍しい豪雪地帯。まさに「深山幽谷」だ。だが、その秘境ゆえに、江戸期より文人墨客が集った。

旅と酒をこよなく愛した大正の歌人、若山牧水は大正7年(1918)秋に馬車と徒歩で利根川上流の各温泉を巡り、紀行文「みなかみ紀行」をしたためた。

信州の佐久から軽井沢を経て上州に入り、まずは草津の湯を訪れ、湯もみ唄に合わせ、板で湯を掻きまわして冷ましては浸かる湯治客のせわしげな有様を見物し、続いて四万温泉を経ていよいよ現在のみなかみ町に至る。

銚子の河口であれだけの幅を持つた利根が石から石を飛んで徒渉出來る愛らしい姿になつてゐるのを見ると、矢張り嬉しさに心は躍つてその石から石を飛んで歩いたものであつた

と書き残す中で、みなかみ18湯の法師温泉と湯宿温泉を堪能した。湯宿温泉の「金田屋」には牧水が泊まり、川魚の味噌焼きを堪能したという部屋がそのまま残る。

鉄道の延伸で水上温泉郷は栄えた。昭和初期に完成した清水トンネルは、機関車の粉塵を避けるため、いち早く電化した。写真は「SLレトロみなかみ号」。

時代が下って昭和初期には鉄道が水上まで延伸、そして昭和6年(1931)には太平洋と日本海の分水嶺を貫く清水トンネルが完成、上州と越後は「上越線」でつながった。川端康成の名作『雪国』の冒頭の名文

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった

は、まさに時代の最先端をゆく導入部である。その川端康成は薬物中毒に苦しむ太宰治に温泉療養を勧め、太宰は清水トンネル手前、水上温泉郷の谷川温泉に逗留、ここで『創生記』を執筆している。

難解だが言葉に出せば快い、不思議な魅力を讃えた短編。だが太宰は完治したはずが人生で二度目の心中未遂騒ぎを起こし、事件をモチーフに『姥捨』を著す。

生活苦の末「妻の過ち」が原因で心中を志す夫婦。2人が向かうのは「水上駅から徒歩で1時間ほど登って行き着ける谷川温泉」。

手始めに「ふるさとのにおい」がする上野駅から新潟行きの電車に乗り込む。上越線で朝の4時に水上駅に降り立ち、駅前の「自動車」を叩き起こして馴染みの宿に向かうのだが……ともあれモータリゼーションが確実に浸透する、戦前のつかのまの平和な風景。

戦後の復興期、急増する首都圏の人口、水需要に応えて利根川流域ではいくつもの村がダムに沈んだ。同時に温泉源も沈んだ。バブルの風が吹き荒れた。

だが水上温泉郷でも最上流部にあたる宝川温泉は「深山幽谷」をそのまま有する。牧水が「可愛らしい姿」と愛した利根の清流から支流を遡った末の河畔に湯が湧く。

かの「テルマエ・ロマエ」の舞台にもなった湯宿。温暖化の昨今ながら深まる秋風を浴びて、湯けむりはいよいよ豊かに香る。

⚫︎宝川温泉 汪泉閣(宝川温泉)

関東太郎の奥地に佇む一軒宿

秋には白濁の湯と赤く染まった木々のコントラストが美しい。

利根川の奥地の支流・宝川のほとりに立つ秘湯宿。最も有名な露天風呂「摩訶(まか)の湯」は約120畳の広さを持つ“天下一の大露天風呂”とも称される。

温泉だけでなく自慢の山里料理も山々に囲まれているからこその恵み。

冬には雪の中から湯気が立ち上る神秘的な景観が見られる。
第一別館の客室。第一別館は汪泉閣でも最も古い建物で昭和11年(1936)に建てられた。

群馬県みなかみ町藤原1899 
TEL/0278-75-2611
宿泊料金/1泊2食付2万円〜
カード/可
部屋数/42
チェックイン・アウト/14:00・10:00
泉質/単純泉
アクセス/(電車)JR 「水上駅」より車で約40分。(車)関越自動車道「水上IC」より約30分

⚫︎坐山 みなかみ(水上温泉)

水上を代表する宿の心を受け継ぐ

「坐山 みなかみ」のフロントロビーからの風景。水上温泉郷は谷川岳抜きでは語れない。

「牧水の湯」は前身である「水上館」(昭和2年建築)の浴場を、そのままの形でリニューアルした。広い窓の開放感と檜の柱や梁による重厚感が共存。

しっとりとした湯ざわりで長湯したくなる。上質な設えの客室と美しく盛り付けられた料理からも、もてなしの心を感じられる。

群馬県みなかみ町小日向573
TEL/0278-72-3221 
宿泊料金/1泊2食付1万4850円
カード/可
部屋数/79
チェックイン・アウト/15:00・10:00
泉質/カルシウム・ナトリウム−硫酸塩・塩化物温泉
アクセス/(電車)JR 「水上駅」より約10分。(車)関越自動車道「水上IC」より約10分

■水上温泉郷とみなかみ18湯

平成17年(2005)、水上町、月夜野町、新治村が合併して「みなかみ町」となった。

同時に水上町内の8カ所の温泉地「水上八湯」に新たな月夜野町、新治村の温泉地10カ所を加えて「みなかみ18湯」が誕生した。当地は温泉とともに、清流下りのラフティングなどアウトドアも堪能できる。

⚫︎みなかみ18湯

※赤字が水上温泉郷

法師温泉、猿ヶ京温泉、高原千葉村温泉、川古温泉、赤岩温泉、湯宿温泉、奈女沢温泉、真沢温泉、月夜野温泉、上牧温泉

水上温泉、谷川温泉、うのせ温泉、向山温泉、湯檜曽温泉、宝川温泉、上の原温泉、湯ノ小屋温泉

群馬県みなかみ町は新潟県と境を接する関東有数の豪雪地域。温泉地は北部・利根川とその支流の水上温泉郷エリア、南部の月夜野・上牧温泉郷エリア、西部・赤谷川や西川の流れる猿ヶ京三国温泉郷エリアという大きく3つのエリアに分かれる。

※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。

文/角田陽一 撮影/みなかみ町観光協会(一部)

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