103465もうもうと温泉蒸気が包む、往時の温泉文化を色濃く残す街|鉄輪温泉【かんなわおんせん】

もうもうと温泉蒸気が包む、往時の温泉文化を色濃く残す街|鉄輪温泉【かんなわおんせん】

男の隠れ家編集部
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目次

昔ながらの温泉街の風情が残る街、鉄輪温泉。共同温泉、貸間旅館、地獄蒸し、地獄めぐり。坂道を歩きながら、別府の温泉が育んできた温泉文化の神髄に触れてみたい。

(※その他の写真は【関連画像】を参照)

※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。

■出湯と人々の温かさ 鉄輪の温泉文化を温ねる

鉄輪温泉の湯けむり風景。国の重要文化的景観に選定されている。

鉄輪温泉を見下ろす高台から温泉街を眺めた。建物が密集する街のあちらこちらから、白い湯けむりが空に向かって高く立ち昇っている。

古くから知られている、鉄輪温泉でしか見られない風景だ。温泉の蒸気は地の底から湧いて地上へと噴出する。その激しさにしばし見惚れた。

ゆっくりと坂道を下って温泉街に入ると、湯けむりは身近な所からも噴き出していた。旅館の源泉から、道端の排水溝から、湯けむりが昇り、風にたなびいている。鉄輪の街はこの温泉の恩恵を受けて、古くから長い歴史を紡いできた。

木戸を開けて石室の内部に入る。

温泉街は、いくつもの坂道に沿って形成されている。いでゆ坂を下りていくと、温泉山永福寺があった。さらに下ると、鉄輪湯けむり広場に、「鉄輪むし湯」がある。ここは鉄輪温泉発祥の地。まずは鉄輪温泉の原点である、鉄輪むし湯に入ってみよう。

別府温泉の歴史を遡ると、8世紀の前半に作成された『豊後国風土記』に、現在の鉄輪・亀川地区についての記述がある。

古くから鉄輪温泉では温泉の蒸気、噴出口を「地獄」と呼び習わしていた。現在のように温泉に入り、蒸気を利用することのない時代には、100℃を超える温泉や蒸気は恐ろしい地獄としか思えなかったのだろう。

館内には昭和初期の写真が掲げられている。

温泉が利用されるようになったのは中世以降だ。鎌倉時代に時宗の開祖で踊り念仏を行った一遍上人が始めたとされる。

「当時この辺りでは、至る所で、地面から温泉の蒸気が湧き出していました。一遍上人はそこに、石菖という薬草を敷いてむし湯を作りました。昔の寺にはむし湯があり、体を清めてから修業したそうです。一遍上人は村人のために、むし湯の方法をこの地に伝えたのです」と鉄輪観光交流センター長の安波照夫さんが語る。

伝統的な入浴法であるむし湯は独特の形式で、木戸を開けて、約8畳の石室の中に入る。内部は温泉で温められた床の上に、石菖が敷き詰められている。その上に人が横たわる。石菖は清流沿いにしか群生しないといわれ、香りが非常に良い。

石室の内部。石菖の上に横たわる。

入ってみると内部は暗く、最初は閉塞感があるが、温泉の温かさと薬草の香りによって、次第に気持ち良くなっていく。温かさでつい眠くなりそうだが、制限時間は8~10分。それから浴場で汗を流す。

「老廃物を排出するデトックス効果があります。暗いむし湯の中で寝転んでいると、瞑想状態になり、心のもやもやが晴れて、心身ともにスッキリします」(安波センター長)

汗を出した後の爽やかさはサウナにも劣らない。和風のサウナといってもいいだろう。

火傷しないように手袋とカバーを付けて、地獄釜へざるを下げる。

お腹が空いたところで、「地獄蒸し工房 鉄輪」に向かった。温泉の蒸気で肉や魚、野菜などを蒸して食する、昔から伝わった調理法である。自販機でメニューを選んで、材料を自分で釜の中に入れる方式だ。

「温泉に含まれるミネラル分が、野菜のうま味と甘みをより強くしてくれます。蒸気は生き物。その日によって調整が必要です」と大石浩子館長。できあがりは、材料が美しく蒸し上がって見るからにうまそうだ。

材料をざるに入れて蒸す。

ツーリズム別府大使のマーク・パンサーさんが言っていた。

「地獄蒸しは、地球が味付けしてくれる。地獄蒸しは地球を感じられる所が良いなあ」

地球が味付けしてくれた地獄蒸し。素材の良さが際立つ味わいだった。

坂道を下っていくと石畳の道に出る。観光施設が少なく、自炊の貸間旅館が点在する、静かな地域だ。

鉄輪温泉は一遍上人のむし湯から始まり、江戸時代の文化・文政期(1804~30)には、湯治客が増えていく。近代になると、地獄めぐりを中心とした観光地となり、別府八湯の中で抜きんでた存在となった。

江戸時代の地誌には今井地獄で村人が蒸し物をしている様子が描かれている。(『鶴見七湯廼記』大分県立歴史博物館所蔵)

人気観光地となった今でも、鉄輪には湯治の温泉文化が残っている。石畳の道に面した、入湯貸間陽光荘にお邪魔して見学させてもらった。

本館と別館があり、和室の客室には、鍋釜の炊事道具や食器が備え付け。共用の冷蔵庫、トースターなどもあり、すぐにでも自炊ができる。

建物の中央には地獄釜があった。1階、2階で合計27釜。釜でご飯、肉や魚、野菜を蒸して自炊する。壁に調理時間が書いて貼ってある。

客室は懐かしさのある和室。

浴場は塩化物泉掛け流し。外に行けば熱の湯、すじ湯などの共同温泉もすぐ近くだ。内湯と共同温泉で日がな一日、温泉三昧。地獄釜で自炊して、のんびり湯治する。いつの日にか、そんな時間を過ごしたい。夢見心地にさせてくれる貸間旅館だった。

鉄輪温泉には100円程度の入湯料で利用できる共同温泉が6カ所ある。共同浴場巡りも鉄輪温泉の醍醐味だろう。

その一つ、熱の湯に入ってみた。入り口から入ってすぐ脱衣所があり、浴槽と洗い場につながっている構造だ。先客は地元の人だけ。「こんにちは」と声をかけて、手前で体を洗い、そろそろと浴槽に入った。

本館の内湯は源泉掛け流しの湯。別館にも内湯がある。

「あ、あ、熱い」

入り口に、熱の湯は体の熱を除去する効果があると書いてあった。それにしても熱い。すると、奥で体を洗っていた地元の人が、水道の蛇口をひねって、水を出してくれた。

「こっちの方が入りやすいですよ」

昔からさまざまな湯治客を受け入れてきた鉄輪の人たちは、一見の人間にも温かい情をかけてくれる。温泉の温かさとともに、人情に触れて、体も心も癒された。温泉文化を心ゆくまで楽しむ。鉄輪温泉の旅はまだ始まったばかりだ。

■一遍上人によって開かれた「むし湯」

⚫︎日本古来の入浴スタイル「鉄輪むし湯」

建治2年(1276)に一遍上人によって創設。温泉の蒸気で薬草の石菖を蒸して、その上に横たわる。日本古来の入浴スタイルで、サウナのような効果や爽快感がある。

むし湯の泉質は単純泉。浴場はナトリウム-塩化物泉。

大分県別府市鉄輪上1組
TEL/0977-67-3880 
営業時間/7:30~19:30
定休日/第4木曜

◎時宗の開祖、一遍上人

鎌倉時代中期の僧。浄土宗を学んで阿弥陀信仰に傾倒。「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えれば極楽浄土に往生すると説くだけでなく、全国を遊行して踊り念仏を行い、多くの庶民に仏の教えを広めた。

■街に溶け込む「共同温泉」

鉄輪の市営温泉・熱の湯。地元の人が利用する「ジモ(地元)泉」だ。
渋の湯の外観。
利用する時は、ロッカー代100円が必要。ルールを守って入りたい。
渋の湯の内部。塩化物泉の美肌の湯だ。

⚫︎ミシュラン三つ星「ひょうたん温泉」

大正11年(1922)に創業、100年以上続く温泉テーマパーク。源泉を薄めないで冷却させる冷却装置「湯雨竹(ゆめたけ)」を使い、源泉100%掛け流しの温泉を実現している。

館内には大浴場、家族風呂、蒸し湯、砂湯、瀧湯などがある。地獄蒸し料理専門店やお食事処も充実。

大分県別府市鉄輪159-2
TEL/0977-66-0527
営業時間/9:00~24:00
定休日/無休

■江戸から続く調理法「地獄蒸し」

⚫︎江戸から続く調理法を体験「地獄蒸し工房 鉄輪」

江戸時代から続く伝統の調理法「地獄蒸し料理」を体験できる施設。材料は肉、魚、野菜などの豊富なメニューから選べる。

材料が届いたら、客自身でざるを地獄釜に下ろす。できあがりを待つ間には足湯、飲泉場も利用できる。

大分県別府市風呂本5組
TEL/0977-66-3775
営業時間/10:00~19:00(LO18:00)
定休日/第3水曜

■未だ街を支える「湯治文化」

⚫︎温泉で人生のひと休み「陽光荘」

石畳の道に面した陽光荘の外観。落ち着いた地域にあり、静かに湯治を楽しみたい人には最適な環境だ。
陽光荘の前身は「鉄輪地獄」。

陽光荘は昔ながらの貸間旅館。客室は和室で全27室。食事は提供しないが、地獄釜の炊事施設を使って自炊できる。

地獄釜は本館の1階と2階に合計27。食器や炊事道具、炊事場のガスコンロも無料で利用可能。近くにスーパーあり。

大分県別府市井田3組
TEL/0977-66-0440
宿泊料/1泊素泊り4800円~
カード/不可
部屋数/27 
チェックイン・アウト/14:00・10:00
泉質/メタケイ酸・メタホウ酸-塩化物泉

◎別府名物とり天

別府の二大グルメといえばとり天と冷麺だ。九州は美味しい地鶏の宝庫。その地鶏に醤油とニンニクで下味を付けて天ぷらにした。

外側はカリッと、中はふっくらとジューシーな味わい。味自慢の店で食べ比べ!

■別府に点在する7つの地獄「べっぷ 地獄めぐり」

千年以上の歴史がある鉄輪温泉の地獄。地獄によってさまざまな色の温泉や蒸気、熱泥が湧いている。地獄めぐりで、地球の息吹を感じたい。

⚫︎海地獄

約1200年前に鶴見岳の噴火によってできた。海のようなコバルトブルーの色が特徴。

⚫︎血の池地獄

『豊後国風土記』に赤温泉と記された日本最古の地獄。血のように赤い色で噴気も赤い。

⚫︎白池地獄

噴出時は無色透明だが、温度と圧力の低下により、自然に蒼白色に変化する。

⚫︎鬼山地獄

別名「ワニ地獄」。大正時代から温泉熱を利用して約70頭のワニを飼育している。

⚫︎鬼石坊主地獄

灰色の熱泥が大小の球状になって沸騰。その様が坊主頭のようだといわれる。

⚫︎龍巻地獄

熱湯と噴気が一定の間隔で噴出する間欠泉。世界的にも休止時間が短いとされる。

⚫︎かまど地獄

噴気で氏神八幡竈門神社の御供飯を炊いたことから命名された。猛烈な噴気と高熱温泉。

別府地獄組合
大分県別府市鉄輪559-1
TEL/0977-66-1577
営業時間/8:00~17:00(7地獄共通) 
定休日/無休
料金/大人2200円(共通券)~

※この記事は2024年12月号に掲載されたものです。

文/阿部文枝 撮影/渡部健五

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