我々は地上で生きている。だが、地上にのみ生かされているのではない。最新技術の結晶や、自然の神秘が地下に潜み、我々の生活はその上で成り立っている。
とくに国土の狭い日本では、古くから地下の空間や資源に人々は活路を見出してきた。地下を知ることで、世界の解像度が上がることだろう。さあ、地下迷宮の旅へ。
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
※この記事は2025年7月号に掲載されたものです。
■試飲用“タートヴァン”を片手にワインの試飲三昧

ぶどうの丘は緑豊かな甲府盆地の一角、ブドウ畑に囲まれた小高い丘の上にある。ワインのショップ、レストラン、天然温泉、ホテルなどが揃った、観光複合施設だ。
山梨県甲州市は日本のワイン発祥の地。山梨県にある約90のワイナリーのうち、半数が甲州市にあり、その中心地が勝沼だ。
インフォメーションホールの地下にワインの貯蔵庫・ワインカーヴがある。ここでのお楽しみはワインの試飲。ソムリエの資格を持つスタッフが3名、その一人、案内人の野澤和矢さんが利用方法を教えてくれた。


「最初に1階のフロント兼ショップで、試飲用の“タートヴァン”を購入してください。この容器で、自由にワインの試飲をしていただきます」
2200円で“タートヴァン”を購入。ワインショップ内の入口から階段を下りていくと、ほのかにワインの香りがしてきた。
ワインカーヴは室温約15℃、湿度60~70%。ワインにとって快適な環境に保たれている。壁と中央に大型のワインセラー、その間にワイン樽が並んでいる。
樽の上には試飲用のワイン、入口近くから白ワイン、ロゼや赤ワイン。甲州市の審査会に合格した約130銘柄を試飲できる。これだけの規模でワインを試飲できる場所は日本でここだけという。

地下のワインカーヴには日本人だけでなく、外国人の観光客の姿もあり、みんなが心の底から楽しそうにワインを飲んでいる。
地下の閉ざされた空間はワイン通が開く秘密の試飲会のような雰囲気が漂う。“タートヴァン”を手に、いっぱしのワイン通気取りで、ワインを味わってみたい。
野澤さんのお勧めは、白ワインだ。山梨のワインは昔から地元特産の“甲州種”のブドウで醸造する白ワインが有名。甲州ワインだけで100種近くあり、辛口から甘口まで飲み比べができる。


「ソムリエになった気分で、いろいろなワインのラインアップの変化を楽しんでください。何も考えずに、五感で味わって、本来のワインの味わいを体に染み込ませるのが、ワインの産地での大人の楽しみ方です」
もちろん一目惚れしたワインを購入することも可能だ。
「最近は甲州種などのワインが海外の権威あるコンクールで受賞をするなど、高い評価を受けるようになりました。山梨ワインの現在地を確かめていただきたい」と野澤さん。
嬉しいことに、試飲には時間制限がない。“タートヴァン”を持っていれば、ほかの施設の利用後も、ワインカーヴに出入り自由で何度でも試飲できる。地下ワインカーヴは一日中楽しめるワインのテーマパークだ。
■地下保存の利点
地下にワインセラーが多いのは、ワインの変質を防ぐことができるから。一年中温度や湿度が一定していることが最も大きな理由だ。日が当たらないので、ワインの劣化を防ぐことができる。振動が少ないことも利点の一つである。
⚫︎展示室
明治時代に2人の青年がフランスで学び、勝沼でブドウの栽培とワイン醸造を始めた。日本のワイン発祥の歴史を学べる。

⚫︎タートヴァンで試飲
ワインの試飲をするにはまずワインの試飲容器“タートヴァン”を購入して、首からぶら下げる。あとはワインの試飲で飲み放題だ。飲みすぎにはご用心!

■展望ワインレストラン
「ぶどうの丘」の一角にあるワインレストラン。店内は180度をぐるりと見渡せる大きなガラス窓に囲まれている。窓からは甲府盆地を一望、遠くには雪をかぶった南アルプスの絶景を見ることもできる。
「春は桃の花が咲き、秋にはブドウ畑の紅葉、冬には雪景色。春夏秋冬、どの季節でも美しい眺望が楽しめます」と案内人の野澤さんが眺望の美しさを保証する。

山梨の大自然を眺めながら食するのは“勝沼ワイン料理”。藤巻潤輝シェフが腕を振るい、手軽なランチからディナーまで、さまざまなフレンチ料理を楽しめる。
この日のお勧めは、ハンバーグランチ。山梨県産の甲州ワインビーフと県産ポークの合挽肉をジューシーに仕上げて、特製デミグラスソースをかけた。ビーフカレーランチのカレーは勝沼産ワインを使った特製ビーフカレー。地元産ワインを取り入れた料理は大好評だ。

ディナーは2種のコース料理などを用意。静かで落ち着いた雰囲気の中で、本格的なフレンチ料理に舌鼓を打つ、極上の楽しみが待っている。甲府盆地の灯がまたたく、夜景を眺めながらの食事は、一段と美味しさが増すだろう。
もちろん、ワインもグラスまたはボトルで注文できる。ワインとワイン料理とのマリアージュを心ゆくまで堪能したい。


■見渡せる景色
眺望がこのレストランのご馳走の一つだ。一目千町ともいわれるぶどう郷を眼下に、遠くに見える山々は南アルプス。
晴れていれば日本で2番目に高い北岳(3192m)をはじめ、甲斐駒ヶ岳、間ノ岳などを見ることができる。ディナー利用で望める夜景も格別だ。
案内人 ぶどうの丘 総務担当 野澤和矢さん
甲州市役所に入庁して6年目。今年度より「ぶどうの丘」総務担当に配属。前職の民間会社時代にソムリエを取得。「資格を活かして貢献したい」と意気込む。

地下ワインカーヴ/甲州市勝沼 ぶどうの丘
山梨県甲州市勝沼町菱山5093
TEL/0553-44-2111
開館時間/9:00~17:30
休館日/なし(施設点検のため臨時休館あり)
入館料/無料(試飲には容器購入代金2200円)
アクセス/(車)中央自動車道「勝沼IC」より約10分。(電車)JR「勝沼ぶどう郷駅」より徒歩約20分
■世界で唯一!? 勝沼トンネルワインカーヴ
甲州市には「ぶどうの丘」以外にもワインの地下カーヴがある。鉄道のトンネルを利用した、世界でも珍しいトンネルワインカーヴだ。
平成17年(2005)からJR中央本線の旧深沢トンネルを利用して、ワインカーヴの運用が始まった。

旧深沢トンネルは明治36年(1903)に建造された。昭和43年(1968)からは下り専用となり、平成9年(1997)まで使われていた。
全長は約1100m。建造時は煉瓦を地元で焼成して壁に積み上げ、一段ごとに縦と横を交互に組む「英国式」で、イギリス人技師の指導のもと、工事が行われたという。

煉瓦造りのトンネル内は、年間を通じて、温度12~13℃、湿度45~65%に保たれている。ワインが変質しないので、よりよい状態のままで貯蔵することができる。
トンネルカーヴは無料で見学可能。トンネル内部に入ると、両側にユニットが並んでいる。ワイナリーや全国のレストラン・飲食店だけでなく、ワイン愛好家も低価格で利用できる。
一つのユニットには300本収納可能で、全体で約80万本を貯蔵することができる。現在はすべてのユニットが契約済みで、希望者はこれから複数年、予約待ちとなる。


■どういう場所なの?
平成17年(2005)に、JR東日本より旧勝沼町に無償で譲渡され、同年にワインカーヴとして運用を始めた。全長が約1100m、高さ約4.9m、幅約3.6m。トンネルの手前約200mは個人用、奥の約900mはワイナリー用のセラーに分けられている。
勝沼トンネルワインカーヴ
山梨県甲州市勝沼町深沢3602-1
TEL/0553-20-4610
開館時間/9:00~17:30
休館日/年末年始
入場料/無料
アクセス/「ぶどうの丘」より車で約10分

文/阿部文枝 撮影/森本真哉
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