106719首都圏外郭放水路|あなたが知らない謎の世界へ「地下迷宮ワンダーランド」

首都圏外郭放水路|あなたが知らない謎の世界へ「地下迷宮ワンダーランド」

男の隠れ家編集部
編集部

我々は地上で生きている。だが、地上にのみ生かされているのではない。最新技術の結晶や、自然の神秘が地下に潜み、我々の生活はその上で成り立っている。

とくに国土の狭い日本では、古くから地下の空間や資源に人々は活路を見出してきた。地下を知ることで、世界の解像度が上がることだろう。さあ、地下迷宮の旅へ。

■調圧水槽

■地下神殿のような異空間は地下放水路の巨大な水槽だった

100段余りの階段を下って、地下22m地点へと足を踏み入れた。そこは長さ177m、幅78mの広大な空間だった。控えめな照明の中で、ただ静寂に包まれている。

荘厳な雰囲気は地下神殿に例えられる。圧倒的なスケールと59本の巨大な柱は宇宙空間のような無限の広がりを感じさせて、人間の矮小さを思い知らされる。

じつは、この地下迷宮のような空間は首都圏外郭放水路の調圧水槽という場所である。ほかに例をみない巨大さが注目されてメディアに登場。見学ツアーは大人気となっている。

首都圏外郭放水路の調圧水槽。「地下神殿」と呼ばれるその姿は圧巻。

首都圏外郭放水路は、埼玉県春日部市周辺の洪水を防ぐために、総工費約2300億円、約13年の歳月をかけて、平成18年(2006)に完成した、世界最大級の地下放水路だ。この地域は利根川、江戸川、荒川などの大きな川に囲まれ、土地が低く水が溜まりやすい地形をしている。

「これまでもたびたび浸水の被害が起きていた地域でした。そこで、この地域の中小河川の洪水を、地下トンネルの放水路を通して、ゆとりのある江戸川に流すために、この施設が造られたのです」と防災コンシェルジュが説明する。

天井へと伸びる柱は調圧水槽を支える、重要な役割を担っている。

調圧水槽は地下トンネルから流れてきた水の勢いを弱め、江戸川へスムーズに水を流すために造られた。では、水槽になぜ巨大な柱が建てられたかという疑問が浮かぶ。

「調圧水槽は地下水位の高い地中に造られているため、周りの地下水から揚力がかかって浮き上がる恐れがあります。地下水からの圧力を防ぐために、重い天井と約500tの柱が、重しの役割をしているのです」

巨大な柱はそこに存在するだけで、重要な役割を果たしていたのだ。

調圧水槽は、地上では多目的グラウンドになっている。
施設内に清掃作業用の大型機械などを入れる際に利用する入口。屋外広場の一角にある。
天井部分を地下から見上げた所。

⚫︎排水機場とは?

首都圏外郭放水路をコントロールする心臓部が庄和排水機場だ。操作室で各流入施設の操作や集中管理を行い、水の流れを安全に制御している。地下水路を通って流れてきた水を、巨大ポンプと排水樋管を通して江戸川に排水する役割も担っている。

■第一立坑に溜めた水を調圧水槽へ流入させる

第一立坑は調圧水槽に隣接している。まるで巨大な穴がぽっかりと開いているようで、こちらも調圧水槽に負けず劣らず、巨大さがもたらす迫力に驚かされる。内径31.6m、深さ71mの円筒形で、最奥部が地下深くへ延びている。

巨大な第一立坑。下まで続く階段の長さで大きさがわかる。

「立坑は全部で5つあり、第一立坑以外の4つの立坑は中小の河川から洪水を流入させています。立坑同士は地下のトンネルでつながって、第一立坑へと水を流しています」

施設内の水の流れを追うと、まず、水を取り入れる流入施設がある。中小の河川の堤防に設けられた「越流堤」の高さを水が超えると施設に流れ込み、さらに立坑へと流入する。

立坑をつなぐトンネルは春日部市上金崎から約6.3㎞、国道16号線の地下50mを通っている。トンネルを通った水は、第一立坑から調圧水槽へ流入させる。

展示・学習施設「龍Q館」では操作室をガラス越しに見学できる。

水の流れは庄和排水機場にある操作室でコントロール。首都圏外郭放水路の頭脳ともいえる操作室の中央には監視操作パネルがあり、コンピュータ制御によって、流入施設のゲートの開閉、ポンプ施設の起動・停止などの作業を行っている。約30個の監視モニターで遠隔でチェックできる体制だ。

平成14年(2002)の部分通水から、2025年3月末までに、148回の洪水調節実績があった。放水路は流域の治水対策に大いに貢献している。

調圧水槽を掘ったときに出土した化石。
ポンプ設備の模型などが展示、解説されている。

■首都圏外郭放水路の仕組み

放水路が水を処理する仕組みとは? そのメカニズムを図解入りで説明する。

最初に、堤防の越流堤を超えた水を流入施設で取り入れる。次に取り入れた水を立坑に流入させる。洪水を起こしやすい中小河川のうち、大落古利根川は第五立坑に、幸松川は第四立坑に、中川と倉松川は第三立坑に、18号水路は第二立坑に、それぞれ流入させている。

立坑同士は地下トンネルでつながっている。地下トンネルの放水路は地下50m地点にあり、世界最大級の大きさだ。取り入れられた水は地下トンネルの中を流れて、第一立坑へと流入、その後に、調圧水槽に流れて溜められる。

排水機場にはポンプ設備があり、集められた水はガスタービンの動力で地下から地上へと汲み上げられる。その後に、排水樋管を通して、江戸川へと排水されている。

地形

中川流域は水が溜まりやすい皿のような地形。河川の勾配がゆるやかで水が海へと流れにくいため、昔から浸水や洪水の被害を受けていた。

機場本体図

庄和排水機場は、調圧水槽に流下した水を、巨大ポンプで汲み上げて、排水樋管に送り、最終的に江戸川に排水する。放水路のシステムの最も重要な役割を担っている。

構成図

水を取り入れるための流水施設と立坑、水を流すトンネル、水の勢いを弱めてスムーズにする調圧水槽、排水する排水機場で構成されている。

江戸川

江戸川に水を流すことによって、中川流域の治水対策に安定をもたらした。

■排水ゲート

庄和排水機場における最後の役割は、施設内に溜めた水を江戸川に排水することだ。

地下のポンプ室ではガスタービンの動力によってポンプを動かして、調圧水槽の水を地下から地上へと汲み上げる。

その機械の一部は庄和排水機場の1階で見られるが、汲み上げられた水自体は、地上からは見えない。見えない部分では、平常時、水は3つのゲートをくぐり、樋管を通って江戸川に向かう。

ゲートは江戸川からの逆流を防ぐ逆流弁のゲートで、樋管ゲート、逆流防止弁、吐水ゲートがある。その働きによって、江戸川に逆流することなく、スムーズに排水が行われている。

排水機場の1階にある機械設備。地下にある吐水ゲートの上部に当たる。R状の鋼材が連続する。機械の美しさが印象的だ。

また、管理運転をするときのゲートもあり、その際は約2日かけてポンプの点検などを行う。

排水を開始する際には、排水樋管のゲートが開く。トンネルの貯留量やポンプの運転時間などから、ゲートが開くタイミングをシステム化して、スムーズに排水を行っている。

排水樋管は6本あり、1本の大きさが、横5.4m、縦4.2m。JR山手線の車両が楽々収まるくらいの巨大な管だ。排水樋管を通った水は、最後に江戸川へと排水されている。

江戸川の放流口は庄和排水機場側からは直接見えにくいが、江戸川をはさんだ対岸の堤防からは、堤防下に6門の水門が並んで、排水される様子を見ることができる。

この放水路の完成により、平成27年(2015)9月に、台風17号・18号が来襲、豪雨がもたらされた際には、約1900万㎥の洪水調節を行うことができた。中川・綾瀬川流域の浸水被害は、確実に改善されている。

⚫︎洪水の様子の変化

中川流域の住宅地を定点観測すると、放水路の効果がよくわかる。BEFOREの写真は2000年7月に起こった浸水の状況。

その後に首都圏外郭放水路が完成したことにより、2004年10月の際にはほとんど浸水していない。放水路の治水効果が威力を発揮した結果だ。

BEFORE
AFTER

■ポンプ室

■4台のポンプが稼働する庄和排水機場の心臓部

庄和排水機場の地下にポンプ室がある。荘厳な地下神殿のような調圧水槽と違い、インダストリアルな雰囲気が漂っている。機械マニアにはたまらない空間だ。

ポンプ設備は、排水機場の心臓部ともいえる重要な役割を持つ。いったん地下の調圧水槽に溜められた水は、排水の際に地上へと汲み上げられる。

ポンプ室の内部。国内最大級のガスタービンが、インペラを高速回転させることによって、水にエネルギーを与える。

排水機場の頭脳である操作室からコンピュータによる制御操作を行い、その操作によって、ポンプ室の設備が実際に水を地上へと汲み上げる作業を行っている。

ポンプ室には1号機から4号機の巨大なポンプが並んでいる。「立軸渦巻斜流ポンプ(高流速型)」という形式のポンプだ。これらを動かす動力は、「2軸式ガスタービン」という形式のガスタービン。

右側のガスタービンから左のポンプへと動力が送られる。
ポンプに付属しているレバー。
ポンプに付けられた計器。

「ガスタービンは航空機用に開発されたものを改良して、外形や騒音、振動が非常に小さいのが特徴です。ガスタービンの動力を利用してポンプの下に付けた、インペラという羽根車を高速回転させて、水に流れをつくり出すのです」と防災コンシェルジュ。

ガスタービンは先端に減速機(ギア)を取り付けて、ガスタービンの横向きの回転をポンプの縦向きの回転に変換するとともに、ガスタービンの高速な回転速度を、ポンプの回転速度へと減速させる。

出力は1万300kWで、強力な揚力と遠心力によって水に流れをつくる。ガスタービンがフル稼働する際には、ジェットエンジン特有の甲高い騒音が起きるため、排気口には巨大な消音器が設置されている。

ガスタービンの騒音を軽減させるために、壁に造られた消音器。
メーターを見やすくするためにランプがついている。

この設備によって汲み上げる高さは14m。国内で最大級の高さだ。1台のポンプの排水能力は1秒間に50㎥の水量を排水することができる。4台をフル稼働すれば、約200㎥、およそ小学校の25m分のプール1杯分の水量を、排水することができる。

また、ポンプ室にはガスタービンエンジンの自家発電機も用意されているため、停電になっても動かせる。

参加者が防災コンシェルジュの説明でポンプを見学する。

■インペラ内部

■地下トンネル、インペラ 人気の見学会コース

首都圏外郭放水路では、防災への意識向上を図ってもらうために、国の防災施設としては日本初の、民間管理システムによる社会実験見学会を開催している。防災ツーリズムとして人気があり、2024年度の見学者数が約6万7千人~8千人。海外からの見学者も増えている。

地下50mのトンネルを歩く。アドベンチャーツアーの醍醐味だ。

見学会は地下神殿コース、立坑体験コース、ポンプ堪能コース、地下河川アドベンチャー体験コース、インペラ探検コースの5コース。

なかでも「地下河川を歩く!アドベンチャー体験コース」は、普段は見ることのできない、地下50mのトンネルを歩く体験ができると人気だ。

参加者はヘッドライト付きヘルメットを装着して、長靴(ヒップウェーダー)に履き替えて、第三立坑の底盤部とトンネルまで行く。地下トンネルの探検ができる、ワクワクドキドキの体験コースだ。

調圧水槽の最奥部。ここを通って、インペラのある所まで行く。

地下トンネルは地下50m地点、国道16号線の地下を通っている。地下鉄よりも低い所に大きなトンネルを掘ることができたのは、密閉型泥水式シールド工法を採用して、最新のシールドマシンという機械が導入されたからである。

鋼製の円筒状のマシンで地盤を削って押しながらトンネルを掘る方法で、マシンの先端にはカッタービットという刃が付いた面盤が取り付けられている。これが回転して土を削りながら、マシンを前方に押し出す。

マシンの後ろではセグメントというブロックが、自動的に円筒状に組み立てられて、トンネルの壁になっていく。

この作業を繰り返すことでトンネルが完成。内径約10m、全長6.3㎞、最大で毎秒200㎥の水を流すことを可能にした。

巨大なインペラを下から見上げる見学者。ステンレス製のインペラが4台あり、高速回転させることによって一度に大量の排水を可能にする。

もう一つ、見学会コースで人気があるのが「見どころ満載!インペラ探検コース」。見学者からのリクエスト第一位だ。

人気の理由は調圧水槽の最奥部にある巨大なインペラ(羽根車)を見学できることだ。このコースに参加すると、第一立坑から調圧水槽、排水ポンプのインペラへという、施設内の水の流れが実感できる。このコースも、インペラのある場所には水が溜まっているので、ヘッドライト付きヘルメット、長靴(ヒップウェーダー)を装着する。

前述の通り、インペラとは、ポンプの真下に付いた羽根車のこと。ガスタービンの動力によってポンプがインペラを回転させる仕組みだ。インペラは直径が3.8mの巨大な羽根車。

稼働すると、1秒間に50㎥を排水できる。調圧水槽の最奥部にあるため、このインペラまでたどり着けると、首都圏外郭放水路を征覇したような気分になるだろう。

⚫︎シールドマシン

マシン内部の図解。先端の面盤に掘削機の刃を取り付け、前面の土砂を削りながら、トンネルの壁になる「セグメント」を円筒状に組み立てる。外径約12mの巨大な面盤が屋外広場に展示してある。

案内人

見学会は5コース(要予約)。参加者は解説を聞きながら、防災コンシェルジュに従って調圧水槽など施設内を見学する。

首都圏外郭放水路
埼玉県春日部市上金崎720
TEL/048-747-0281(見学会事務局)
営業時間/10:00~16:00
見学料/1000円~(コースにより異なる)
アクセス/首都圏中央連絡自動車道「幸手IC」より約30分

文/阿部文枝 撮影/池田光徳

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