扉を開けると目の前に広がる暗闇と静寂がもたらす別世界
侘び寂びは茶の湯の美意識だけでないことを「歯車」は教えてくれるかのようだ。店内には幾つかのほのかなの明かりがともされているだけ。暗さに目が慣れてくると、カウンターの向こうに店主の濱本義人氏の顔が見えてくるがボトルもグラスも見当たらない。BGMも流れておらず静寂に包まれている。
「お通しをお出しすることもありますが基本的にはお酒だけ。おひとり、あるいはほかの方と時間を共有し、心の歯車の噛み合わせを感じていただきたいと思っています」
濱本氏は名店「ラジオ」や「ル・パラン」で修業し、11年前に歯車をオープンした。修業時代から現在まで、仕事を通して得た経験や客との出会いが、現在の店を形作っている。
「この暗さと静寂に心地良さを感じていただければありがたい。疲れた頭と心を静かに癒し、整える時間であってほしいです」
その言葉の意味を実感するまで、さほど時間はかからない。
文:相庭 泰志 写真:遠藤 純