古風な風情に親しみ 湯小屋や混浴露天風呂を巡る

冠木門(かぶきもん)の向こうには、黒々とした木造の古風な建物が奥へと延びる。茅葺き屋根はすっぽりと雪をかぶり、軒先には長いつららが並んでいる。ここには見たくてもなかなか出会えない懐かしい日本がある。昔の生活の不便さや荒々しさは丁寧に取り除き、美しく温もりに満ちた日本の原風景ともいえるものを大切に現代に伝え残しているのだ。

5つの源泉を持つ鶴の湯であるが、一番人気は広い混浴露天風呂だ。青みがかった乳白色の湯はぬるめでいつまでも入っていられる。雪が降るなか、皆、じっと静かに首まで浸かっている。玉石を敷き詰めた風呂の底からは、時々温かい湯が湧いて出る。

囲炉裏とランプのほのかな明るさが心地いい

本陣は、人気が高くなかなか予約の取れない部屋。板戸を開けば、雪の通りに面した造りである。明かりは裸電球 1灯のみで、夜はランプが灯される。

囲炉裏に刺した岩魚がじっくりと焼けるのを見ていると、まるで昔話の世界が目前で繰り広げられているよう。その「岩魚の塩焼き」で日本酒を一杯いただく。囲炉裏に掛けられた鍋は、宿の名物「山の芋鍋」だ。ヤマノイモを摺っただけという団子に、セリやキノコの味が染みてなんとも滋味豊か。

食事の後も囲炉裏にはか弱くもしみじみとした熾き火が残る。ランプの灯がゆらめき、天井の梁や桁は柔らかな闇に溶けている。建物も湯も食事も、全てが日常を離れている。多くのファンを集めるのも、深く納得させられるのである。

(写真/渡部健五)