波打ち際に佇む美しい居館で泡盛の魅力と奥深さを知る
グスクとは11世紀以降、沖縄・奄美・先島諸島に築かれた史跡を指す。石垣で守られた一帯には有力者の居館や御嶽、集落があり、15世紀に統一王朝・琉球王国が誕生してからの450年間、そこでは中国や朝鮮半島、東南アジアとの交易による国際色豊かな文化が花開いたという。
そして2020年、沖縄本島中部・読谷村に新たなグスクが誕生した。美しい曲線を描く「グスクウォール」の向こうには、約1㎞にわたる自然海岸に沿って並ぶ全室オーシャンフロントの客室と果樹園。“圧倒的な非日常”をテーマに、その土地ならではの滞在を叶える「星のや」。ここ「星のや沖縄」は王朝文化が集まる“グスクの居館”としてゲストは東シナ海に抱かれながら、琉球空手や琉球舞踊といった伝統文化に出会うことができる。
そんな宝のひとつが泡盛だ。14世紀以降、中国や東南アジア諸国から長粒米や蒸留技術が伝わり生まれた酒で、当時は王府が管理する酒造所だけで造られていた。これらは貴重な交易品として進貢船に積まれ海を渡り、あるいは中国からの冊封使を迎える為に首里の宮廷で振舞われた。こうした泡盛の歴史と魅力をより深く体験するプランが、今回参加する2泊3日の「泡盛ディスカバリー」。
南国の花に見とれながら小径を抜けゲストルームへ足を踏み入れると、その一角に置かれていたのは「泡盛インビテーションセット」。本島北部・中部・南部にある酒造所で造られた泡盛3種類で、添えられた指南書を開くと、その仕込み水や製造方法、貯蔵方法の違いとお勧めの飲み方が書かれている。
まずはそのままで味わい、クセのない「松藤」はロックで、ウイスキーのようなコクがある「暖流」はハイボール、スパイシーな香りの「玉友」はワイングラスでと、味と香りの違いを楽しむ趣向だ。窓を開け放ち、ゆっくりと杯を傾ける。すぐ下が海なので、波と風の音が強い。が、それがいかにも〝海流の只中にいる〟という気にもさせる。その夜は黒潮と季節風に乗り、遥かに海を行き来した古の島人を思いつつ、眠りについた。
翌日はプログラムにある「泡盛ジオガイド」に参加するため、車で20分ほどの場所にある鍾乳洞へ。ガイドを務める星のやのスタッフが先導し、崖下に開いた洞窟の中へ潜る。
「泡盛に必要なのは米と黒麹と酵母。そして水ですが、本島中南部には山がありません。どこから水を得ているのか? その答えがここです」
本島中南部は新生代に珊瑚礁が隆起して生まれた石灰岩の大地で、本島北部はそれよりも古い地層から成っている所だ。琉球石灰岩の下には水を通さない層があり、その境で水が湧く。こうした湧水が暮らしと文化を支えてきたのだと、改めて知ることとなった。
続いて「神村酒造」を訪れ泡盛造りを見学。原料は水分量が少なく、泡盛造りの特徴である黒麹の付きが良いタイ米。これを浸漬させて蒸し、黒麹を散布して製麹。水、酵母を加えて2週間発酵させたもろみを蒸留する。黒麹は製麹・発酵過程でクエン酸を多く作り出すため、暖かい南国でも腐敗しないという。
その夜は、泡盛尽くしの夕食を楽しんだ。もろみ粕の酢で和えた島野菜や豆腐を紅麹と泡盛で漬けた豆腐餻、「豚しゃぶ泡盛鍋」は、泡盛を加えた出汁にもろみで漬けた豚肉を潜らせていただく。どれも旨い。
そして、食後は縁側を備えた平家の「道場」へ。いつもは茶の振る舞いや空手・舞踊といった手習いの場だが、ここが参加者だけをもてなすプライベートバーに変身。泡盛とスイーツとのペアリングが楽しめる。
例えば宮廷菓子・冬瓜の砂糖漬けをチョコレートテリーヌで挟んだスイーツに合わせるのは、ワイングラスに注いだ識名酒造の「時雨」。ハイビスカスガナッシュを挟んだイタリア菓子バーチディダーマには、ハイビスカス酵母で醸した華やかな神村酒造の「尚 KAMIMURA」をリキュールグラスで。泡盛の楽しみ方がぐっと広がり、スイーツとの組み合わせが生む味の変化にも、驚く。
気づけば夜も更け、見上げれば漆黒の空。酔いの波と溶け合うように、寄せ来る波音が辺りを包んでいる。島の自然風土が昇華して生まれる泡盛。海が生んだ宝を味わうのに、これ以上ふさわしい場所はない。
【泡盛ディスカバリー】
期間:2021年12月1日〜2022年2月28日
料金:6万円/1名様(税・サービス料込・宿泊料別)
→料金に含まれるもの/泡盛インビテーションセット、泡盛ジオガイド、夕食1回(泡盛鍋)、プライベートBar
定員:1日1組(2名)まで
※公式サイトにて14日前までに要予約
星のや沖縄(ほしのやおきなわ)
住所:沖縄県中頭郡読谷村儀間474
TEL:0570-073-066(9:30〜18:00)
宿泊料:1泊13万2000円〜(1室あたり/税サービス料込・食事別)
設備:加温プール、ラウンジ・ライブラリー・ショップ、道場、スパ、ダイニング
アクセス:那覇空港から車で約1時間
公式HP:https://hoshinoya.com/
文/奥 紀栄 撮影/安村直樹