8061大人ふたり限定、隠れ家的な湯宿「由布の彩 YADOYAおおはし」(大分県・湯布院温泉)|冬にいきたいお忍びの温泉宿

大人ふたり限定、隠れ家的な湯宿「由布の彩 YADOYAおおはし」(大分県・湯布院温泉)|冬にいきたいお忍びの温泉宿

男の隠れ家編集部
編集部
大分・湯布院温泉の「由布の彩 YADOYA おおはし」。ここは町の喧噪から離れた場所にあり、"大人2名限定"というコンセプトの隠れ家的な湯宿だ。大人ふたりでゆっくりと過ごしたい。

特別な時間を大切な人と、大人ふたり限定の宿で過ごす

 秋の色づきをまとって紺碧の空にひときわ映える標高1583m由布岳。その秀麗な姿を車窓右手に眺めながら、やまなみハイウェイに続く県道に車を走らせていると、突如、目の前が開け眼下に湯布院の町が広がった。

思わず歓声を上げる私の顔を横目で見た夫は、「どう、キレイでしょ!」と得意満面。町を一望できるに車を止め改めて景色を眺めると、湯布院の町が山々に囲まれた盆地地形だということがよくわかる。

展望地に“霧”の字が付くように、秋から冬にかけての冷え込んだ朝、湯布院盆地は一面霧に覆われることが多く、幻想的な風景はこの時季の風物詩にもなっている。

大分空港方面から目的の宿へのアクセスは大分自動車道を走って湯布院ICで降りる方が早い。しかし、夫は「この景色を見せたかったから」と、あえて別府温泉経由の県道ルートを選んだのだった。見上げた北側には颯爽とえる由布岳。吹き渡る風は笹原をさわさわと揺らし、景色はどこまでもすがすがしい。

道はそのまま町へと下っていき、や温泉街の賑わいへと入っていく。国内外にその名を広く知られる湯布院は、土産物屋や飲食店が建ち並ぶ湯の坪街道を中心に、多くの観光客が闊歩する人気スポット。そして古くから九州随一の温泉地として栄え、個性的な温泉宿が多いことでも知られている。

「由布の彩 YADOYA おおはし」もその一軒だが、町の喧騒から離れた場所にひっそりとある隠れ家的な湯宿で、なにより“大人2名限定”というコンセプトが今回、ここを選ぶ決め手になった。

JR由布院駅からは車で5分ほどの距離ながら、宿の周りに広がるのはのどかな田園風景と静かな住宅地。由布岳の姿も少し距離が離れたことによって稜線がよりのびやかに見える。実際、宿から望む由布岳は池を配した庭園と相まって絵画のように美しい。

部屋は全てが離れ形式になっており、庭園の中に点在する各棟は回廊のような渡り廊下で結ばれている。3300坪もの広大な敷地に客室はわずか14棟。全室に内湯と露天風呂が設えられ、ふたりだけのプライベートタイムを過ごすことができるのである。

宿の心地良い時間は、駐車場に車を停めた時から始まる。客が来たことを察してすでに駐車場まで迎えに出てくれていたスタッフ。

「ようこそ、いらっしゃいませ」。にこやかな笑みと共に、荷物を持ってロビー棟へと案内される。客は手入れの行き届いた庭を眺めながら通路を進み、時に草木の説明を聞きながら母屋(ロビー棟)へと導かれる。赤や黄に色づいた木々が眩しく映え、宿滞在への期待も徐々に盛り上がっていく。

薪ストーブの炎が温かいロビーでチェックインを済ませて部屋に案内されると、後はスタッフが部屋に出入するようなことはなく、客は自分の別荘にでもいるかのように思い思いのひと時を愉しむことができる。「食事時以外、部屋から一歩も出ないお客様もいらっしゃいますよ」と話すスタッフ。それだけ部屋の居心地がいいということなのだろう。

私たちが通された部屋は「亜麻(あま)」という名の和洋室タイプ。座卓のある居間とツインベッドが設えられたシンプルながら落ち着きのある空間だ。客室は日本の伝統色をテーマにコーディネートされ、亜麻のほかにも「水浅葱(みずあさぎ)」「虹」「洗朱(あらいしゅ)」「葡萄染(えびぞめ)」といった風流な色の名前が付けられ、それぞれ趣を異にしている。

また、離れの総数14棟のうち10室はゆったりとしたスペースの和洋室で、4室は若い人にもお勧めのロフトタイプの洋室になっている。そしてその全ての部屋に24時間源泉かけ流しの露天風呂と内湯を設置。どの露天風呂もふたりで入ってもゆっくり手足が伸ばせる贅沢な広さが確保されている。

「まずはひと汗流したい」と夫が入浴。私はお茶を飲みながらひと息つきたかったので、夕方に入ることに。携えてきた本も読みたかったし、空が茜色に染まる時間帯が好きなので、庭でも散歩して景色を愉しみたかったからだ。

どれくらい時間がたったろうか。夫は湯上がりにビールを飲んだせいか、ベッドに横になって軽い寝息を立てている。その姿を横目で見やりながらそっと浴室に向かい、私も露天風呂に体を滑り込ませた。ややぬるめの無色透明の湯に包まれると、ふぅ〜と力が抜ける。この瞬間がなにより幸せだ。

さらりと滑らかな手触りと芯からじんわり温まる良質の単純温泉。敷地内に自家源泉を2本持ち、約800mの地下から汲み上げているという。源泉41℃の湯が湯船の底から常にあふれているが、温度をもっと熱くしたい時は湯船の横にあるレバーをひねると湯口から約60℃の温泉が出るようになっている。温泉を自分の好みの温度に調整できるというのも面白い仕組みである。ただし湯を出しっぱなしにしないよう注意したい。

太陽が姿を隠すと、空が一気に色を落としていく晩秋の夕刻。その色が紫色を帯びる薄暮の時に、ちょうど良い温度の湯にゆっくりと浸りながら空の変化を眺めている。南の空には一番星もきらりと輝き始めた。まさに心癒される至福のひと時。

そして、湯上がりに私も軽くビールを飲んでのんびりしよう。そうすれば、ちょうどお待ちかねのの時間になるだろう。

夕食は母屋の中にある個室式食事処の「一色(ひといろ)」に移動。テーブル席や掘りごたつ式の座敷などがあり、窓に面した部屋からはライトアップされた庭を眺めながら夕食を愉しむことができる。

実は、この宿を選んだもうひとつの大きな理由が料理なのである。前菜から始まるコース料理のメインで登場するのは、最高ランクA5等級の“黒毛和牛”。すき焼きやしゃぶしゃぶ、ステーキなど好きな食べ方を選べるが、どれにするか迷うところだろう。宿が特に肉にこだわるのは、実はオーナーが精肉店を営んでいるから。

「当宿の開業は10年前ですが、温泉も愉しめる大人の空間で、本当に美味しい牛肉をお客様に食べていただきたいという思いで宿を始めたのです」と話してくれたのは、総支配人の佐藤政明さん。本格的な牛肉料理が提供できるのは、そんな秘密があるのである。

前菜や一品料理、鍋に使われる野菜などは地元産を使用。オーナー自らが育てた野菜を使うことも多く、米も県内の契約農家に栽培を依頼している。また、お造りは名物のサーモン、すき焼きの卵は“蘭王”という地元ブランドを使用するなど、まさに地産地消の逸品が夕膳を賑わす。

迷った末にメインはすき焼きをチョイス。極上牛肉を極上卵と共に食べたかったからだが、まずは目の前に登場した牛肉の美しさにうっとり。赤身と脂のサシのバランスも見事で、肉本来の柔らかな食感が容易に想像できる。

宿のスタッフが鍋でさっと焼いた肉を卵にくぐらせ、いよいよ口に含む。口中に広がったのは肉の旨味ととろける歯応え、そして何とも香ばしい香り。夫も私も何度も深く頷き、目を合わせた瞬間思わず笑顔がこぼれた。

「朝食も評判がいいらしいし、ご飯の美味しい宿は、やっぱり幸せな心持ちにしてくれるね」。夫に感謝しながら、私は今の気持ちをそう伝えた。さあ、食後は月明かりに照られされた庭を散策しながら部屋へと戻り、明日はどこへ行こうか決めることにしよう。

編集部
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いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。

我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。

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