そこで工藤さんが取った行動は日本全国、北海道から九州まで、良さそうなS600があると聞けば、足を運んで実際に見て触って確かめることだった。こうして何年か全国行脚が続いたのち、友人から元ホンダの技術者を紹介してもらい、これだとひと目見て気に入った1965年製のS600に出会えたのだった。
当時の購入価格は300万円。そこまでの情熱を注いだ S600 の魅力はどこにあるのか聞いてみた。
「可愛らしさのなかの凛とした佇まい。日本人特有の丁寧な作り込みを、至る所に感じることですね。エンジンを高回転まで回すと、雅楽器のような音色を奏でるエキゾーストノート。やはり日本人の感性で造った傑作ですよ」と相当な惚れ込みようだ。
誕生して50年以上。〝よくぞ元気に生き延びてきて、出会えたという喜び〟を持ってハンドルを握っている。しかしメンテナンスは欠かせないようだ。工藤さんは常日頃、ここが壊れたらこうしよう、と頭の中でシミュレーションしている。希少な純正パーツの値段の高さに頭を抱えることもある種の楽しみだという。
撮影/佐藤佳穂