渓谷美を堪能できた反面 自然災害に泣かされた
遅れていた宮崎側は、昭和10年(1935)に延岡駅~日向岡元駅間が日ノ影線として開業した。その後も工事は続けられ、昭和47年(1972)には高千穂駅までが開通し、路線名を高千穂線に改称した。だがその先の工事は、高森トンネルが掘削中に異常出水事故を起こしたことで中断。昭和55年(1980)、工事は凍結されてしまう。
その後、第2次特定地方交通線として廃止が承認されたが、昭和62年(1987)4月1日の国鉄民営化の際、JR九州が承継。そして平成元年(1989)4月28日、第3セクターの高千穂鉄道として始動する。
蛇行する川に沿って上流へと向かい、深山幽谷の世界に分け入って行ったこの路線最大の魅力は、全長353m、水面からの高さが105mの「高千穂橋梁」であった。これは当時、営業路線の鉄道橋としては日本一の高さを誇っていたのだ。
この橋梁上からの眺望は素晴らしく、旧国鉄時代から橋梁上は徐行運転し、乗客にその高さや景観を味わってもらう、という趣向が凝らされていた。窓の外に目をやると、クラクラするほどの高さに驚き、列車に乗っているにもかかわらずお尻がムズムズしたほどである。
だが急峻な山と深い渓谷を走る路線だったため、常に自然災害の危険に晒されていた。平成17年(2005)9月6日、九州地方を襲った台風14号による増水で、ふたつの橋梁が完全に流失。さらに土砂崩れ箇所もあり全線運休となる。結局、復旧は断念され、平成19年(2007)に延岡~槇峰間、翌年の12月28日に槇峰~高千穂間が廃止された。
鉄道復活を夢見て 高千穂あまてらす鉄道のスーパーカートで旧鉄路を疾走する
廃線となった高千穂鉄道の線路を活用し、2008年3月から運行開始された「あまてらす鉄道」。高千穂駅から日本一の高さを誇る高千穂鉄橋最高地点までの約5.1kmの間を、オリジナルの「グランド・スーパーカート」で往復するアトラクション鉄道だ。この車両は30人乗りで、牽引する動力車が2台あり、それぞれに2500㏄のディーゼルエンジンを搭載。これは空港で荷物を運ぶトーイング・トラクターがベースとなっている。
客車の床の中心部には強化ガラスを敷設して、走り過ぎる線路の様子や高千穂鉄橋最高地点(105m)での直下の眺めを楽しめる。さらに2つあるトンネル内では、美しいイルミネーションを堪能することができる。
高千穂あまてらす鉄道
宮崎県高千穂町三田井1425-1 旧駅舎内
TEL/0982-72-3216
営業時間/9時40分~15時40分
定休日/第3木曜(雨天や強風時は運休)
乗車料/高校生以上1,500円
写真/米屋こうじ、高千穂あまてらす鉄道 文/野田伊豆守