動物供養の発祥寺に伝わる優しい猫の物語

回向院を目的地としたのは、ここに猫塚があるからだ。回向院は墨田区両国にある寺で、宗派に関係なくあらゆる無縁仏を供養する寺であり、人だけでなく、様々な動物を供養する寺としても知られている。

「当院は動物供養の発祥寺とも云われています」。そう話してくれたのは執事の高田竜念さん。

両替屋に通っていた魚屋は、いつもそこの飼い猫に魚肉を与えていた。ところがある時、魚屋は病気で商売に出られなくなってしまった。お金が無くなり困っていたが、誰かが2両置いていってくれたため、なんとか食つなぐことができ、やがて病気も治ったという。

再び両替屋に出かけてみると、そこに猫がいない。理由を尋ねると、猫が小判をくわえて逃げるところを家の者が見つけ、殴り殺してしまったという。魚屋は猫が自分のところにお金を届けてくれていたと知り、猫の死骸をもらって回向院に葬った。それが猫塚として今に残っているというわけだ。

シリーズで猫塚や招き猫のルーツをたどったが、そのすべてが人間に愛された猫と、そんな猫たちが人へ抱く“想い”があったことに間違いはないのだろう。

命ある全てのものに仏の慈悲を説く
回向院(えこういん)
振袖火事と呼ばれる明暦の大火(1657)の焼死者を葬った万人塚が起源で、後に様々な横死者を弔う寺となる。全ての生あるものを供養し、「猫塚」をはじめ様々な動物の供養碑もある。山東京伝、竹本義太夫、鼠小僧次郎吉ら著名人の墓があり、回向院への参拝者のために両国橋が架けられた。境内で行われた勧進相撲は、今日の大相撲の起源である。

※2016年取材

写真/関野 温