被災区間は代行バスで結び途切れた線路を復旧作業中

北陸新幹線の発着する上田駅。新幹線の改札口を出てコンコースを温泉口側に進む。しなの鉄道の改札口を通り越すと、右手に「別所線 上田駅 上田電鉄」という表示が見えてくる。ここが上田電鉄別所線の電車のりばだ。

かつての上田原駅は青木線も分岐するターミナルだった。そのため、車庫も併設され、運行の拠点となっていた(1986.8)。

改札口ときっぷ売り場は、この表示に従って通路を右に曲がると突き当りにあるのだが、残念ながら今回の旅立ちはここではない。「令和元年東日本台風」と命名された2019年の台風19号によって上田電鉄も被災、現在は上田~城下間がバスによる代行輸送となっているのだ。

かつては上田原駅わきに車庫があり、1986年の運行用電源昇圧(750V→1500V)まで旧型電車が使われていた(1988.8)。

きっぷを求めてから階下の温泉口広場で待っていたバスに向かう。行き先表示は「上田駅・城下」。まさに上田〜城下間を結ぶバスで、この文字に安心する。

代行バスは市内を抜け、上田橋で千曲川を渡っていく。左手にトラス橋が見えるが、城下駅側が途切れている。これが上田電鉄最大の被災地となった千曲川橋梁なのである。

復旧工事が進められている千曲川橋梁。

2019年10月6日、太平洋上で発生した台風19号は急速に発達、猛烈な勢力のまま日本に接近した。12日には静岡県に上陸、本州東部を通過する。これにともない観測史上初となる記録的な大雨が降った。

上田電鉄では台風接近による暴風雨のため、12日から全線運休。翌朝は台風一過の晴天となったが、千曲川は増水を続け、上田市内では左岸堤防が300m近く崩れ、千曲川橋梁も被災した。

朝、運行再開に向けて線路を確認にきた上田電鉄の社員が目にしたのは、落下して流れに揉まれていた赤い橋桁だった。さらに左岸橋台も崩落していたこれでは電車を走らせることはできない。

往年の別所線には昭和3年生まれの電車も活躍していた。丸窓電車として旅人に人気だった。
現在は別所温泉駅などに保存。

しかし上田電鉄は沿線に暮らす人々の重要な足である。10月15日には被害の少なかった下之郷~別所温泉間で運転を再開。この時、上田~下之郷間は代行バスで繋いだ。さらに1か月後の11月16日には城下~下之郷間も復旧。代行バスは上田~城下間に縮小された。現在もこの状況が続いているのである。

旧型電車が塩田平をゆく(1986.8)。

バスが城下駅に到着すると、すぐ電車に案内される。上田駅には新幹線やしなの鉄道も発着、上田電鉄もその接続に配慮したダイヤを組んでいる。それに支障をきたさぬよう速やかな乗り換えで対応しているのだ。

日中の別所線。コロナ禍の自粛もあり乗客は少なめ。

「それでも従来の80%ぐらいの本数しか運転できない状態です」と同社運輸部の児平高明課長がいう。実は上田電鉄別所線は全線が単線。不通区間が生じるとどうしても通常の運行はできなくなってしまうのだ。

代行バス運行の苦労に頭を下げつつ、電車へと乗り込む。

現在、上田電鉄では1000系と6000系と2種類の電車を使っているが、いずれも2両編成での運転だ。実は全て首都圏を走る東急電鉄からの移籍車だ。マニアックにいえば、顔つきや塗装で各編成の個性があり、それを楽しみに上田電鉄を訪れるファンもいるほど。

別所線で活躍する6000系電車は「さなだどりーむ号」の愛称も付く。

しかし、今回は車内の随所に掲示された応援メッセージに釘付けとなった。幼児から大人まで様々な人々から贈られたメッセージは、橋梁崩壊にも負けず復旧を願う声だ。

車内には千曲川橋梁被災からの復旧を願う応援メッセージが寄せられていた。

上田電鉄は被災早々に全線運行再開の方針を固め、地元の上田市も動き出した。それは千曲川橋梁を市が所有、市が復旧工事を上田電鉄に委託、復旧後は同社に貸し出すというもの。これにより、千曲川橋梁復旧の見通しがついた。

現在、国土交通省による千曲川の堤防復旧が進められ、並行して千曲川橋梁の復旧も行われている。ただし、千曲川のような河川での作業は渇水期にしか行えず、トラス桁を架けるのは次の渇水期を待たねばならない。かくして2021年春の全線復旧が目標となっているのだ。

城下駅から電車に揺られ、しばらく住宅街を抜けていくが、寺下駅あたりから視界が広がる。田畑の奥に山が連なり、塩田平らしい景観だ。

車窓は往年のまま。

そして車庫のある下之郷駅に到着する。近所にある生島足島神社にちなみ、待合室などは朱色の柱と白壁が美しい意匠となっている。

下之郷駅にて。
下之郷駅で出会った若き鉄道ファンの早純君。電車を見に来るのが日課。
下之郷駅のそばにある生島足島神社。真田家などの崇敬を集めた古社。
下之郷駅にはイベント時などに公開する資料館も。

電車はこの駅を出ると急なカーブで右にほぼ直角に向きを変える。以前、ここから丸子町へと向かう西丸子線が分岐していた。西丸子線は直進しており、構内の構造に当時の姿も残っている。

実は上田電鉄の歴史は複雑で、上田周辺に誕生した複数の鉄道が集まって前身会社が成立している。その結果、路線は数多となったが、時代の流れと共に立ち消え、唯一継承されているのが別所線なのだ。下之郷駅に残る遺構などから往年の姿をたどる楽しみもあるのだ。

電車は下之郷駅を出ると、広々した田園の中を走っていく。

終点の別所温泉駅が近付くと別所線の車窓は山深くなる。

やがて塩田平の縁に近付き、線路は連続した上り坂となる。電車に乗っているとあまり気付かぬが、ここには山岳路線並みの40‰という急坂もあるのだ。そしてこの急坂を登り切り、行く手が閉ざされると、そこが終点の別所温泉駅である。

終点の別所温泉駅。開業は大正10(1921)年だが、駅舎は昭和25(1950)年に改築。出入り口のヒサシには当時の上田丸子電鉄時代の社紋が。

電車に揺られた後は外湯めぐりで別所温泉を満喫

別所温泉には真田幸村隠しの湯と知られる「石湯」のほか、「大師湯」「大湯」と3つの外湯(共同浴場)があり、気軽に湯が楽しめる。
厄除で知られる北向観音堂に向かう参道。土産物や飲食店がコンパクトに続き、独特な雰囲気だ。
厄除けで知られる北向観音。境内に備えられた手水も温泉!
北向観音はその名の通りお堂が北向き。寺社では珍しい造りだ。
街中を流れる湯川。
北向観音に供えられた絵馬。さまざまな厄除けの願いが綴られている。

観光駅長に出迎えられ大正浪漫の時代へと誘われる

別所温泉駅では和装姿の観光駅長が出迎えてくれる。
切符発行に使ったスタンプには懐かしい駅名が。
別所温泉駅のホームにある行燈タイプの駅名標。
夕暮れの別所温泉駅にて。
八木沢駅にて。この駅舎も上田丸子電鉄時代のもので温もりを感じる。
中塩田駅にて。

(撮影◎遠藤 純 文◎松本典久)

郷土の味、沿線グルメ

滋味深い馬肉うどん「日野出食堂」

馬肉に親しむ習慣のあった信州では麺に合わせて馬肉うどんも人気。別所温泉の石湯前にある日野出食堂は昭和10年の創業。おばあちゃんが昔ながらの味を守っている。馬肉うどんを味わうなら早めの時間帯に!

日野出食堂(ひのでしょくどう)
長野県上田市別所温泉1632 
電話/0268-38-2029
営業時間/11時~14時30分
定休日/木曜
アクセス/上田電鉄「別所温泉駅」より徒歩約11分

温泉名物の厄除けまんじゅう「島屋菓子舗」

北向観音にちなんだ「厄除けまんじゅう」(1個65円)も味わってみたい。現在は3軒で調製、味わいも異なる。北向観音駐車場そばの島屋菓子舗は赤糖を使った香ばしい皮と自然な甘みのあんが特徴だ。

島屋菓子舗(しまやかしほ)
長野県上田市別所温泉1683-6 
電話/0268-38-2136
営業時間/7時~18時 
定休日/無休
アクセス/上田電鉄「別所温泉駅」より徒歩約9分

上田電鉄別所線