ふたつの顔を持っていた北海道の玄関口路線

往時は人の輸送だけでなく、檜山から伐り出された木材や日本海から揚がる海産物の輸送で、かなりの活況を呈していた。

車窓を流れる風景は、五稜郭駅から木古内駅までは海岸沿いの高い場所を走る。天気に恵まれた日は、煌めく津軽海峡越しに下北半島や津軽半島を望むことができる。しばらく走ると、後方には函館山が海に浮かんだように見えるのだ。

五稜郭から木古内までの区間は、現在も「道南いさりび鉄道」として存続している。北海道新幹線を木古内駅で下車し、そこから「道南いさりび鉄道」で五稜郭駅へ向かう場合、進行方向右側の席が絶対おすすめだ。津軽海峡越しに、函館山が近づいて来る光景は、何度見てもワクワクしてくる。この風景を今も見られるのは、何よりの救いだろう。

木古内駅を後にすると、風景は一変。しばらくは牧歌的な風景の中を走り抜けるが、やがて谷は狭まり山の斜面が迫って来る。雪崩覆いを5つ抜け急登を過ぎると、ようやく峠を越える。濃い緑に覆われた山を走り抜けると、天の川の清流が現れ、温泉保養地の湯ノ岱駅に至る。

峠越え区間にあった神明駅。板張りの待合室があるだけの秘境めいた駅。
木古内〜江差間唯一の交換駅湯ノ岱。

やがて左手に倭人が築いた城跡がある夷王山が見えてくると、ほどなく上ノ国(かみのくに)駅に到着する。そこからは左手に日本海の波しぶきを眺めつつ北進し、終着の江差駅を目指す。全線乗車すると、変化に富んだ車窓風景に飽きることがないのだ。

濃い緑に覆われた山が車窓を流れる。

その後、江差線は昭和63年(1988)3月の青函トンネル開業により、数奇な運命をたどる。当初からトンネルは新幹線が走る予定であったが、まだ着工もされていなかったため、暫定的に在来線を通すこととなった。それに伴い五稜郭〜木古内の間は電化され、交換設備や軌道も強化。そして夜行を含む本州との直通列車が運行されたのだ。

その一方、木古内~江差間はJR北海道発足後、管内で乗降客が最も少ない区間となった。そのため北海道新幹線開業に先立ち、平成26年(2014)5月12日に廃止された。

江差線の廃線を惜しむ声が寄せられたボードと湯ノ岱駅の硬券。
写真/吉永陽一

写真/松尾啓司 文/野田伊豆守

JR江差線