仕事の帰りや東京出張の際にすすめたい新宿・渋谷・神楽坂近郊のバー10軒を紹介。戦後の復興から新宿と共にある老舗バーから、渋谷発の独創的な情熱溢れるオリジナルカクテルを提供するバー、神楽坂の暗闇と静寂の空間に溶け込むように佇むバーまで。それぞれの物語を知れば、なお一層立ち寄りたくなる店ばかりだ。

イーグル|53年のときを刻む老舗バー

新宿三丁目のアルタ裏に、今年で創業53年を迎えた一軒のオーセンティックバーがある。地下1階の16席のカウンターは開店からほどなく満席となってしまうという人気店「イーグル」だ。

イーグルがオープンしたのは昭和41年(1966)の冬のこと。磨き抜かれた飴色の階段とカウンターや、ときを刻んだ石壁など、おしゃれな店内装飾はオープン当時とまったく変わらず、深い味わいがしみ込んでいる。

イーグルでは16席のカウンターがある地下1階、カウンター8席とテーブル12席の地下2階、客は自分の好みでどちらかのカウンターを選ぶことができる。看板料理であるグランドメニューや全て社員の創作によって生まれる。

イーグルの一押しのカクテルは、ラムをベースとするショートカクテルのダイキリ(990円)。すっきりとした涼味が広がり、酸味を抑えたほのかな甘みが心地よい、バランスのよい一杯だ。

バーテンダーの長谷川敬氏は、ほかの2つのグループ店を合わせた3店のバーを運営する津川興行の常務取締役だが、今でもカウンターに入ってシェイカーを振る。長谷川氏は、オーナーである津川敏光氏の厳しい薫陶を受けて技を磨いてきた。

クラシックな空間の中で、受け継がれるおもてなしの心を提供する老舗バー、イーグルには心和むひとときが訪れる。

BAR DATA
イーグル
新宿区新宿3-24-11 セキネビルB1F・B2F
☎03-3354-7700
営業時間/17:30~翌0:40(日祝~24:00) 
定休/無休 
席数/カウンター24席、テーブル26席チャージ/なし 
アクセス/JR「新宿駅」より約5分

Bar どれすでん|新宿三丁目の歴史を知る名店

新宿三丁目、靖国通りから一本入ったモア3番街に店を構える「どれすでん」。この名称で新宿にクラブ形式の店がオープンしたのは昭和51年(1951)、まだ太平洋戦争による空襲の傷跡を残していた時代のことだ。ビルの建て替えによって昭和39年(1964)、東京オリンピックの年に地上の店舗から現在の地下に移った。

店名はドイツのフィレンツェと称される古都・ドレスデンから取ったものだ。ドレスデンの優雅な街の景観を愛した当時の経営者が名付けたといい、カウンターや壁などに年月の流れを感じさせる風格が漂う。

店長の宮ノ腰誠氏は、堅苦しさのないアットホームな客との関係を続けている。昔、宮ノ内氏が作った水割りにダメ出しをして作り直しを要求した客がいたが、その厳しさもありがたかったという。

どれすでんのカクテルとリキュールは200種類ほどあるというが、とりわけ人気の高いカクテルはドライマティーニ(1300円)。25年ほど前までは、ほぼジンのみで作っていたというが、現在はジンとベルモットの割合を客の好みに合わせて変えている。辛いと思いきや、優しい飲み口がよい。

時代に合わせてカクテルの割合を変えながらも戦後の歌舞伎町の復興を見守った老舗バーは、変わらぬ佇まいで今日も客を待つ。

BAR DATE
どれすでん
新宿区新宿3-22-1 B1F
☎03-3354-7106 営業時間/18:00~24:00(LO23:30)、土~23:30(LO23:00) 
定休/日曜、祝日 
席数/カウンター20席、テーブル11席 
チャージ/1500円(お通し2品付) 
アクセス/JR「新宿駅」より約5分

BAR KEITH(バーキース)|歌舞伎町のオーセンティックバー

静かな店内に希少なウイスキーや各種洋酒、その数400本以上がずらりと並ぶ。
目利きのオーナーバーテンダー小山浩二氏が、酒税法が変わったのをきっかけに「よいものを残したい」という思いから買い集めた酒だ。

洋酒好きを唸らせる希少な銘柄があるのはいうに及ばず、1963年蒸留の「マッカラン25年」は20年ほど前に手に入れた逸品で口開けはもうしばらく先だそうだ。

「喧噪の中でもゆっくりとお酒を愉しめる店を作りたかった」という小山氏。バーキースには、新宿駅から徒歩5分の立地とは思えないほどの静かで凛とした空間が広がる。

小山氏自身が「一番好きなカクテル」というのはジントニック(1000円)。薄張りグラスに作られた爽やかですっきりとした味わいは、ウイスキーを味わう前の最初の一杯にも最適。

小山氏の人柄が現れたような実直な味わいのカクテルもまた、バー好きを魅了する要因に違いない。

BAR DATE
BAR KEITH
新宿区歌舞伎町1-15-8 白木ビル4F
☎03-3202-2572
営業時間/19:00~翌3:00、日・祝18:00~翌2:00
定休/不定休 席数/カウンター10席、ソファ6席 
チャージ/1000円 
アクセス/JR「新宿駅」より約5分

Caesarian(カエサリオン)|都会の喧噪から離れ静かなひとときを過ごす

代々木上原に銀座仕込みのオーセンティックバーがある。
伝説の資生堂「ロオジエ」に勤め、名バーテンダー上田和男氏のもとで修業を積んだ、田中利明氏がオーナーバーテンダーを務める「カエサリオン」だ。

壁やカウンターが黒で統一された清潔な店内に、シワひとつないバーコートが映える。こちらが襟を正してしまう、そんな雰囲気のある店である。平成5年(1993)に当地で店を構えたカエサリオンは今年、オープンから27年を迎える。

バーカウンターにはボトルがずらりと並び、キューバ産をはじめとした葉巻を取り揃える。
書棚があり、お酒に関するものから昆虫についての古書など、面白い本も並ぶ。

「酒場にはぴったりのカクテル」と田中氏が話すのは、マンハッタン(1500円)。カクテルの女王と称される言わずと知れた一杯。グラスを満たす透き通った液体をひと口含めれば、ベルモットの香りがふわりと広がる。

代々木上原駅すぐの道路に面しており、看板は小さく目立たない。知る人ぞ知る隠れ家のような店のカウンターの中にいるのは、美しい所作と、おもてなしの心を持つ職人だ。

BAR DATE
Caesarian
渋谷区上原1-33-16 オーツカビル1F
☎03-3485-2907
営業時間/18:00~入店23:30(LO翌24:30) 
定休/日曜 
席数/カウンター10席 
チャージ/800円 
アクセス/東京メトロ「代々木上原駅」よりすぐ

渋谷 門|渋谷で数少ない歴史ある老舗バー

渋谷109を通り過ぎた文化村通りのほど近くに、木造平屋建てから始まった創業70年の歴史ある名店がある。

戦後間もない昭和24年(1949)、復興のさなかにあった渋谷の地に「渋谷 門」はオープンした。
地上2階建ての現在の建屋になったのは平成元年(1989)で、店には昭和から残る酒場の雰囲気が、どこにもかしこにも漂っている。

カウンターには3人のスタッフが立ち、店長の千葉雅弘氏、チーフバーテンダーの佐野浩司氏も30代とスタッフは皆若い。佐野氏は「街は変わっても、ここだけは変わらないで。というお客様の思いを大切に、毎日気を引き締めています」と話す。

カクテルは450円、ウイスキーは550円からとリーズナブルなのは、創業当時から変わらない。

門のおすすめは、創業当時からメニューに並んでいたという鮮やかな色合いのオリジナルカクテル「渋谷タウン」(700円)。赤玉ポートワインやスイートベルモット、ライムジュースを使った甘酸っぱい味わいの一杯だ。

俳優の松田優作が好んだというラムソーダ(600円)で、このクラシックな雰囲気に身を任せるのも趣がある。


BAR DATE
渋谷 門
渋谷区宇田川町28-13
☎03-3476-7236
営業時間/17:00~翌3:00
(LO翌2:30) 定休/無休 
席数/カウンター10席、テーブル20~30席 チャージ/500円 
アクセス/JR・東京メトロ・東急・京王「渋谷駅」より約5分

Bar 石の華|バーテンダーの情熱で創られたカクテル

渋谷3丁目は商業施設の開発が進み、ここ数年でかなり盛り上がっているエリアだ。
当地に店を構える「Bar 石の華」は、かつてない一杯を追求するカクテルのパイオニア、石垣忍氏がオーナーバテンダーを務める。

石垣氏は、バーテンダースクールを経て20歳の頃にすき焼き店「松木家」のバーで働き始めた。終業後は終電に飛び乗り、銀座でバーの看板を見つければ入り、立ち居振る舞いやカクテルとの向き合い方を独自に学んでいった。

「常に考え、新しい創作カクテルを提供したい。毎月のレコメンドカクテルを考案するのもそのためです」。石垣氏は、石の華を平成15年(2003)にオープンし、国内外のカクテル大会で優勝した経歴を持つ。

マティーニで言えば、ルバーブや自家製ラベンダー・ジンを使ったものなど、決して奇をてらうのではなく、あくまで素材の持ち味を生かしているのが特徴だ。

おすすめのカクテルは、「ジャパニーズ・オールド・ファッションド」(1550円)。干しシイタケを漬け込んだオリジナルのウイスキーリキュール旨味を加えた一杯。熟成香と出汁の組み合わせに驚くが、ふた口目からは病みつきになる不思議なカクテルだ。

石の華という店名の由来は、石垣氏の「石」に、美しくも枯れない「華」を組み合わせたという。まさに、石垣氏の創り出すカクテルとパイオニア魂は、枯れない華のようにどこまでも美しい。

BAR DATE
Bar 石の華
渋谷区渋谷3-6-2 第2矢木ビルB1F
☎03-5485-8405
営業時間/18:00~翌2:00
定休/日曜、祝日 
席数/カウンター11席、テーブル8席 チャージ/500円
アクセス/JR・東京メトロ・東急・京王「渋谷駅」より約5分

BAR CAPRICE(バー カプリス)|都心に息づく隠れ家的な名店

平成26年(2014)に惜しまれつつ閉店した渋谷の名店、コレオス。同年、コレオスの伝説的バーテンダー・大泉洋氏の右腕として経験を積んだ福島寿継氏が、「バー カプリス」を渋谷区道玄坂に開店した。


カウンターはコレオスで使っていたものをカットして使っている。店内のバックバー、帽子掛けのフックやグラスなどもそのまま引き継いだので、当時を懐かしむ客も多いという。

コレオスから引き継いだHOYAのグラスに目いっぱい注がれるマティーニ(1620円)は、客がひと口飲んだ後にオリーブを加える、すっきりした味わいで杯を重ねたくなる。

確かな技術はもちろんのこと福島氏の明るい接客には元気をもらえる。店名の「カプリス」は、「気まぐれ」という意味を持つフランス語。「バトラー」と悩んだ際に、大泉氏に「カプリスの方が、人間味があってあなたらしいんじゃないの」と言われたという。客を魅了するのはコレオスのDNAだけではない。大泉氏の人柄に惹かれ、今日も客は足を運ぶ。

BAR DATE
BAR CAPRICE
渋谷区道玄坂2-6-11 鳥升ビルB1F
☎03-5459-1757 営業時間/18:00~翌1:00(日曜~23:00) 
定休/火曜、祝日 
席数/カウンター8席 チャージ/なし(サービス料10%) 
アクセス/JR・東京メトロ・東急・京王「渋谷駅」より約5分

Bar FINGAL(バー・フィンガル)|モルトを堪能できるおしゃれなバー

神楽坂は本多横丁の通りに面しながら、隠れ家的な雰囲気にある「Bar FINGAL」。オーナーバーテンダーの谷嶋元宏氏が店をオープンしたのは平成10年(1998)だ。

谷嶋氏は大手化粧品会社で研究職に就いていた。社会人になって、名店といわれるバーに通うようになり、いつかはバーをやりたいと考えていたが、30歳を前に退職した。

料亭が多い神楽坂では当時、バー自体があまりなかった。開店すると「やっと神楽坂にもバーらしいバーができた」と喜ばれた。今やBar FINGALはモルト好きが足繁く通う名店になっている。バラエティに富んだモルトがゆっくり愉しめるとあって、愛好家立ちが足繁く通うのだ。

ウイスキー文化研究所の立ち上げに携わったこともあり、店にはウイスキーを多く揃える。かつてはスコットランドまで足を運んだ谷嶋氏は、初心者にも丁寧にウイスキーについて教えてくれる。

カクテルも秀逸だ。おすすめのロブロイ(1600円)はスコッチを使ったマンハッタン。スモーキーなタリスカーを使用しているので男性的かと思いきや、優しい味わいだ。ベルモットは色素不添加のカルバノ社アンティカフォーミュラ。研究所に勤めていた谷嶋氏の調合の世界を堪能したい。

BAR DATE
Bar FINGAL
新宿区神楽坂3-1 美元ビル1F
☎03-3235-2378
営業時間/19:00~翌1:00
定休/日曜、祝日 席数/カウンター11席、テーブル5席
チャージ/1000円
アクセス/JR「飯田橋駅」・東京メトロ「神楽坂駅」より約10分

歯車|静かに心安ぐ夜を一人で過ごす

バーの中で広がる極上の夜景といった雰囲気がある。
扉を開けると目の前に広がる暗闇と静寂がもたらす別世界。店内には幾つかのほのかな蝋燭の明かりがともされているだけだ。暗さに目が慣れてくると、カウンターの向こうに店主の濱本義人氏の顔が見えてくるがボトルもグラスも見当たらない。装飾品はほぼないといっていい。

カウンターは重厚感のある1mほどの幅の一枚板。
BGMも流れておらず静寂に包まれている。時間がとまったような、しかし心地よい空気の流れだけが存在するような錯覚に陥る。
「お通しをお出しすることもありますが基本的にはお酒だけ。お一人、あるいは他の方と時間を共有し、心の歯車の噛み合わせを感じていただきたいと思っております」。

濱本氏は名店「ラジオ」や「ル・パラン」で修業し、11年前に歯車をオープンした。
就業時代から現在まで、仕事を通して得た経験や客との出会いが、現在の店を形作っている。暗さと静かな空間の中で疲れた頭と心を静かに癒し、整える時間であってほしいと濱本氏は話す。

おすすめのカクテルはジンフィズ(1600円)。金をあしらったローハンシリーズのバカラグラスにジンフィズが注がれる。柑橘のほどよい味わいが広がる。
暗闇のバーは、まだ明るい時間(15:00)から開いている。扉を開ければ昼下がりの神楽坂の町並みから静寂の世界へテレポートだ。

BAR DATE
歯車
新宿区若宮町16 塩谷ビル2F
☎03-5206-8837
営業時間/15:00~24:00
定休/月曜 席数/カウンター7席、テーブル3席
チャージ/1000円
アクセス/JR・東京メトロ「飯田橋駅」より約10分

サンルーカル・バー(Sanlucar Bar)|カジュアルな雰囲気の本格的Bar

シェリー酒の名醸地であるスペインの港町の名を冠した「サンルーカル・バー」は、神楽坂駅から地上に出てすぐ目の前にある。どんなことがあっても寄港すれば安らぎをもたらし、新たな気持ちで船出できるように。そんな願いが込められた店名だ。

サンルーカル・バーを経営する新橋清氏が、日本を代表するバーテンダーの上田和男氏と出会ったのは20歳の頃。その技に魅了されて、上田氏のいる資生堂の「ロオジエ」に勤めた。やがて上田氏が銀座の名店「テンダー」を独立開業すると、新橋氏も移籍。合わせて20年間、その片腕を務めてきた。

「仕事に対するストイックさ、探求心と集中力など、多くのことを上田氏から学びました」と新橋氏は語る。その教えを踏まえながら、自分なりの店を形にと独立したのが9年前。その思いのひとつが14時からのオープン時間。「朝や昼にお仕事が終わられる方もいます。そうした様々な暮らし方に合わせた、より身近で軽いお酒の愉しみ方をご提案したかったのです」

それぞれ違う時間を生きる人々がカジュアルに寄り添う憩いの場。8坪のこぢんまりとした店内のにはークの一枚板のカウンターに。そこ、一日の変化が感じられるよう工夫した格子から陽光が差す。

カクテルを作る新橋氏の繊細な指の動きに魅せられながらいただくお勧すすめカクテルはシェリーソニック。トニックだけだと甘すぎるためソーダを加えてミントの葉を添えた、香りと清涼感を愉しめる一杯だ。

BAR DATE
サンルーカル・バー
新宿区神楽坂6-43 ケイズプレイス102
☎03-6228-1232
営業時間/14:00~23:00
定休/月曜
席数/カウンター7席、テーブル4席 チャージ/900円
アクセス/東京メトロ「神楽坂駅」よりすぐ

開発が進む新宿・渋谷・神楽坂だが、昔と変わらず男を楽しませてくれるバーが数多くある。この機会に足を運んでみてほしい。

文/相庭 泰志・編集部  写真/池本 史彦・黒田 雄一