17401「ヒッチコックじゃないですけど、リンゴが出てきたら僕だって思ってくれて大丈夫です」|映像監督 関和亮

「ヒッチコックじゃないですけど、リンゴが出てきたら僕だって思ってくれて大丈夫です」|映像監督 関和亮

男の隠れ家編集部
編集部
サカナクションやOK Go、星野源、Perfumeなど数々のミュージックビデオを手がける映像監督の関和亮さん。CM制作やドラマ監督などマルチな活躍を続ける関さんの、作品制作の裏側や考え方、普段の過ごし方、とっておきの隠れ家について話を伺った。
目次

映像監督・映像クリエイターとして今や業界では知らない人はいないというほど、その存在感を作品を通して提示してきた関和亮さん。キャリアの始まりや、Perfume最新作の裏話、プライベートの顔、そして関さんにとって大切な「隠れ家」とは――。

【プロフィール】関 和亮(せき・かずあき)
1976年生まれ長野県小布施町出身。音楽CDなどのアートディレクション、ミュージックビデオ、TVCM、TVドラマのディレクションを数多く手がける一方で、フォトグラファーとしても活動。サカナクション「アルクアラウンド」、OK Go「 I Won’t Let You Down」、星野源やPerfumeのミュージックビデオなどを手がける。第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞、2015 55th ACC CM FESTIVAL 総務大臣賞/ACCグランプリ、MTV VMAJやSPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS等、多数受賞。

映像監督になるきっかけはPerfumeとの出会い

僕のキャリアを振り返ってみると、映像監督としてやっていこうと思ったのは、Perfumeと出会った時期、26、7歳の頃でした。彼女たちも15歳くらいで、上京してきて間もないインディーズ時代ですよね。『モノクロームエフェクト』(2004年)という楽曲を渡されて初めて聴いたとき「すごく良い!」と思ったのを今でも覚えています。

実は、この業界に入った頃から仕事のジャンルや種類にこだわりがなくて。もともと映像を作る現場に立ち会いたいという、ざっくりとした願いから始めたので「演出がしたい!」とか「カメラマンになりたい!」というような希望はありませんでした。漠然と「映像っていう世界があるんだ」「こういう仕事にたずさわりたい」という気持ちだったんです。

20代前半にクリエイティブプロダクションの株式会社OOO(トリプル・オー)に入社したのですが、入社試験を受けてではなく少し特殊な入り方だったんです。フリーランスとして映像の現場を転々としている中でトリプル・オーに出会って、気がついたら常駐するようになっていて。それで「社員になる?」と誘っていただいた。この映像業界ってけっこうフリーランスが多いんですけど、最初は僕もそのひとりだったんです。

トリプル・オーは映像以外にもプロダクトやグラフィックデザイン、写真なども手がけている制作会社です。僕はそれらの分野にも興味があって、映像の現場はもちろんデザインの現場も見られるので、好奇心を掻き立ててくれる環境でした。そういった経緯もあって18年間、トリプル・オーにお世話になりました。

独立して会社(株式会社コエ)を設立した理由ですか? そうですね、仕事をしていく中で「こんなことがやりたい、チャレンジしてみたい」と思うことが幾つかあって。でも、今のままチャレンジするわけにはいかないし、会社に迷惑を掛けてしまう。それなら独立して自分の責任でやってみようという思いが強くなり、至ったという感じですね。それと結婚して子供が生まれたことも含めて、「一度ゆっくり立ち止まってみようか」という気持ちがあったのかも知れないです、今思うと。

アイデアは思いつくというより机に向かって考える

映像監督としてターニングポイントになったのは、サカナクションの『アルクアラウンド』(2010年)のMVですね。この作品で第14回文化庁メディア芸術祭やSPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDSなどで賞をいただいて、アートが好きな人とか、広告業界の方々に名前を知ってもらうきっかけになりました。この曲のおかげで、CMやドラマ制作など様々な現場から声をかけていただくようになりました。

作品の内容については「よく思いつきますね」と言われることが多いですね。だけどクライアントさんが思い描くものを具体化していく作業なので、思いつくというより机に向かって考えています。ノートを置いて、お題やテーマ、アイデアを書き出して、それをどうやって作っていこうか、と。「空を飛ぶならCGだしな」とか、考えながら絵コンテにしていきます。考える時間はけっこう長いですよ。“ひらめく”こともたまにはあると思うんですけど、ロジカルに取り組んでます。

例えば、松任谷由実さんの『深海の街』(2019年)というMVでは、打ち合わせでプロデューサーの松任谷正隆さんから「こういうことをイメージしながら音を作っている」という話をたくさん聞いていました。「深海にある街なんだけど、“海”っていうのはいわゆる情報の渦で、その中に確かに世界があって……」と、正隆さんが描くSF的なイメージを聞いて、それに対して僕が映像的なアイデアを提案をしていきます。

CM制作などもスタンスは同じです。エレファントカシマシの宮本浩次さんがスマホを追いかけるCM作品(SoftBank music project 「新時代」篇)もそうでした。前提として「スマホが逃げ出す」というテーマがあって、「スマホにこんなことやられたらムカつくよね」って、皆さんと色々なアイデアを持ち寄る。「じゃぁここから何をやりましょうか?」と僕がイメージを抽出していく感じでした。とても面白い作業でしたね。企画会議の時に「演出的に面白いことを、とにかくやってください」と言っていただいて、多くのことを任せてもらえたので作っていて楽しかったですね。

Perfumeの最新MVは、自分たちの作品を自分たちでオマージュした

-最近の関さんのお仕事でいうとPerfumeが3月末に新しいMVを公開しました。MVの企画をファンから募り映像化するというもので、グランプリを受賞したのが11歳の少年で話題となりました。

今回、僕はグランプリ作品を映像に仕上げていくという役割を担っていたので、選考から参加しました。候補者の皆さんのプレゼンも立ち会いましたし、メンバーやMIKIKOさん(演出振付家)と一緒に「どれにしようか」という話もしました。受賞したHiroto君の企画は絵コンテが、すでに完成していたんですよね。僕からしたら「これってこのまま作れば良いんじゃないの?」という感じでした。

とはいえ、それだけでは楽曲の5分間という時間は埋まらないので、絵コンテに描かれているそれぞれのシーンの合間や空間を、自分なりに解釈したり付け足してHiroto君と一緒に作り込んでいきました。殆ど具体ができあがっていたので、それをベースに完全に具現化していく作業ですね。クリエイティブディレクター(Hiroto君)と、監督(僕)のような関係性に近かったです。

Hiroto君は11歳ですが、Perfumeは彼が生まれる前から活動していて、その時代も含めた今までの作品をよく見ているのが伝わりました。なので僕は、彼の中に記憶として残っているPerfumeの色々なイメージがこの作品に入るといいな、と思っていました。例えば「光が降る」という演出は、僕がかつて制作したMVの中にもあるのですが、今回もそういうシーンが描かれています。でもそれは、意図的ではなく無意識にMVを見続けてきたからこそ、彼の中に入ってるイメージだと思うんです。「Perfumeってこういう感じだよな」って。

『Challenger』(2019年)という今回の楽曲は、20年近く前に中田ヤスタカさんが作った曲で、それを“今のPerfumeがやる”ということに歴史を感じるんですよね。(※2003年以前に当時のPerfumeのマネージャーがこの曲を聴き、中田ヤスタカ氏にプロデュースを依頼したという経緯がある)曲の冒頭には時計の音が入っていて時間の流れを感じるので、Hiroto君がアウトプットしたPerfumeの歴史とか、やってきたことが映像に入っていたら面白いなと思いました。

なので、コンテに「鎖から出てくる」とだけ書かれている場面では、その直前に目をパチっと開ける演出を加えました。これは、児玉(裕一)さんや、田中(裕介)さんが作ったMVに、そういう印象的なシーンがあるので「あ、これなんじゃないかな」と思って加えてみたり。上へあがっていく場面は「エレベーターっぽいな、あ、『TOKYO GIRL』かな」とか。

Hiroto君の企画を通して、自分たちが作ってきたものを自分たちでオマージュするという。分かりやすくは作っていないですが、シーン毎のキッカケが描かれていなかった部分に『エレクトロ・ワールド』や『Future Pop』など、色々な作品からイメージを膨らませてキッカケを加えています。本当に……、思いを込めて作りました。

唯一の隠れ家は自分のルーツがある場所

忙しくしているように見えるかも知れませんが、休みはけっこうしっかり取っています。休日の過ごし方は昔と今では全然違いますね。平日は子供とあまり遊べないので、休みにはずっと子供たちと一緒に過ごしています。特別なことは何もしていないですよ、家族でのんびりしています。出かけるのも僕が行きたいところではなくて、遊園地や動物園など子供たちの行きたいところへ。いわゆる「お父さん」していますよ(笑)

そうですね、唯一、僕にとって「隠れ家」だと言えるのは……。僕、長野県の小布施町が出身で、観光地として有名なところで昔ながらの風情を残しつつ、ラグジュアリーな店もあるところなんです。僕が小布施で暮らしていた10代の頃は、今のような捉え方をしていなかったので、改めて大人になって実家に帰るとすごく良いところだなって思います。

それと父方のルーツが寺院やお地蔵さんで有名な飯山市というところで、小布施の2つ隣の町なのですが、そこに昔からの土地があって広い畑の中にぽつんと家が建っているんです。そこへ妻や子供たちと一緒に行って過ごしたりもします。まわりには何もないし、何もしなくていいので仕事を忘れられる場所というか。

小布施は美味しい食べ物もあれば、文化的な部分もある。そういうところで生まれて、そこへ帰っていく感じが好きです。「隠れ家」って聞くと、例えばバーとか秘密基地みたいな場所というイメージが勝手に僕の中にあるんですよね。そういう意味でいくと、まったく隠れていないですけど、僕にとって「隠れ家」は実家や地元ですね。長野は温泉もたくさんあって良いですよ。田舎がある、というのは幸せですね。

-関さんのMVってリンゴが印象的に使われているイメージなのですが、もしかして長野出身だからですか?

長野だからです(笑)。困ったらリンゴを出すんです。リンゴって単純に可愛いし、赤いし。最初はなんとなく使っていたんです。そしたらある時「そういえば前もリンゴだったな」って気がつきました。違うものにしようかと考えたこともあるんですけど、代わりのものがないんです。レモンだと意味が変わるというか、意味が増えてしまうというか……。それならもう「リンゴにしよう」って決めたんです。だからリンゴが出てきたら僕だって思ってくれて大丈夫です。ヒッチコックじゃないですけど(笑)

【株式会社Koe/公式HP】http://www.koe-inc.com

文・写真/田村巴

https://otokonokakurega.com/featured/3768/

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