78127「『闇金ウシジマくん』作者が創り出す、50年代デザインの聖地」|漫画家・真鍋昌平

「『闇金ウシジマくん』作者が創り出す、50年代デザインの聖地」|漫画家・真鍋昌平

合同会社エーライト
菅堅太(エーライト)
目次

「裏社会」や「日本社会の闇」を描く、リアリティ溢れるストーリーが魅力の漫画『闇金ウシジマくん』。その作者である真鍋昌平さんは、独自の視点と情熱を織り込んだ作品で多くの人々の心を揺さぶっている。

(※その他のインタビュー写真は【関連画像】を参照)

今回は真鍋さんが漫画作りで重視すること、創作活動を支える隠れ家の存在、そして未来への展望について語ってもらった。

【プロフィール】漫画家 真鍋昌平
日本の漫画家。神奈川県茅ヶ崎市出身。代表作の『闇金ウシジマくん』は単行本の累計発行部数2,100万部を誇り、老若男女に愛されている。現在、ビッグコミックスピリッツで連載中の『九条の大罪』では、法と正義の在り方を様々な角度から問いかける人間ドラマに絶賛の声があがる。漫画家としてデビューして以来、苦境に立たされる人間のリアルを描き続けている。

■ドラえもんに感動して始まった、漫画家デビューまでの軌跡

私には三つ上の兄がいて、手塚治虫さんのような大御所漫画家の作品が家に揃ってました。自然な流れで漫画を読むようになり、初めてドラえもんも読んだときめちゃくちゃ感動して、「自分もこんな作品を作りたい!」と衝撃が走ったような気持ちになりました。

漫画を描くようになったのは小学校の頃から。最初は模写をして、その後はクラスメイトをキャラクターにして、ロボットと戦うようなストーリーの漫画を描きました。それがクラスメイトたちに好評で、「漫画家になれるかもしれない」という自信が持てたんです。他に特別な才能があったわけではないので、やるしかないと

将来の目標として『少年ジャンプ』で漫画家デビューしたいと思っていましたが、ハードルが高すぎて上手くいかなかったんです。当時は漫画家をやることがあまりカッコいいとは言われていなかった時代だったので、自信を失っていました。それから、試行錯誤を重ねてパルコから出ているフリーペーパーの『GOMES』という雑誌で賞を獲りました。そこが最初に表に出た瞬間です。同時期に『月刊アフターヌーン』という雑誌で1000ページの枠があり、「新人の漫画家が出やすい」と言われていたので、決め打ちして投稿した結果、「憂鬱滑り台」でデビュー。21歳ぐらいで担当編集者が付いて、現在に至るまで漫画を描いています。

■人間ドラマに重点を置いた漫画作品の描き方

最初は、描いた漫画が全然掲載されませんでした。それで理由を考えた時、大賞を獲らないと掲載される確率が少ないことに気づいたんです。そこで、年に4回行われる賞の審査員や受け入れられる作品をリサーチし、自分にできることを考えて戦略を立てました。

そこから連載を持てるようになったのですが、2本とも打ち切られるという挫折を味わうことに……。なぜ失敗したかを考えた結果、「売れなければいけないこと」と「人気がないといけないこと」の2つが原因だとわかり、『闇金ウシジマくん』では初登場1位を獲得することを目標に決めました。

得意なことがあったため、それに最大限に気を配りながら、自分が描きたいものと人が読みたいものに共通する要素を探しました。そこで“お金”をテーマに設定し、人間ドラマに重点を置いたんです。これまでお金を扱った漫画は多くありましたが、人間ドラマが描かれていないものが多かった。『闇金ウシジマくん』は、こうした背景から生まれています。

事務所にウシジマくんのフィギュアが飾られている
スタンガンなど、資料用に購入したアイテムも

ウシジマくんの連載が始まった当初は「生々しくリアルな描写を見たくない」という反応が多かった。けど、批判的な反応も含めて「何も反応がないよりはマシだ」と気にならなかったんです。それから映像化されたことで認知度も一気に上がり、普段漫画を読まない人たちにも作品が届くようになりました。

自分がよく言うのは、ドン・キホーテに来店するお客さんが自分のお客さんだと思ってるんです。ドン・キホーテって、すごいですよね。商品展開や見せ方はもちろん、来店するお客さんのことをとても考えて作っているところが面白くて、たくさんの学びがあります。

『闇金ウシジマくん』の1巻では、取材をほとんど行ってません。しかし、2巻目ぐらいからはライターの先生がいて、その先生に関わる人たちの話を聞いたことで全く知らない世界に触れることができ、視野が広がりました。自分が描くべきものや、今後描きたいものについて考えたとき、“その人に会いにいくこと”がリアリティな作品づくりにつながっています

現在描いている『九条の大罪』は法律に関わる内容なので、弁護士や法務関係者、そして検察関係者の取材もしています。そうやっていろんな方にお話を伺い、情報を収集しています。

好きなことを仕事にしていますが、漫画を描いていて苦しいときもあります。連載中の『九条の大罪』で自殺について描いた部分は、自分自身も本当に自殺しそうなくらいの状態まで苦しみました。暗い部屋にいることができなくて、ずっとテレビをつけっぱなしにしていないと耐えられない状態。描き終わっても、その時の感覚がずっと続き、本当に恐ろしかったです。

■初めて犬を飼い、人と向き合うことの尊さを知る

漫画家として様々な感情と向き合っていますが、日常では犬の散歩が癒しの時間になっていますね。毎日1時間半ほど、雨や雪が降っていても散歩しています。散歩中に、今の季節は若葉がいっぱい咲いたり桜が咲いてたりして、卒業式の人たちを見かけたりしてちょっとした変化を楽しんでいます。仕事面では、偏った人としか会っていないため、一般人の感覚や社会との接点を持ちたいというか(笑)。そういった背景もあったりします。

犬を飼うのは初めてなんですが、「犬って飼い主のことが本当に好きになってくれるんだな」と感じています。信頼感もあるし、あれくらい人と向き合わないといけないと気づかされましたね。「保護犬を飼いたい」と奥さんから言われたことがキッカケでしたが、心臓が悪すぎて飼えないと言われたため、近くのブリーダーから同じ犬種の小犬を買いました。

飼い始めて3年半くらいになりますが、犬の寿命が短いことを考えながら日々の時間を大切に過ごしています。徹夜でも散歩に行くのは、今の自分にとってかけがえのない、大切な日常だからなんです。

■こだわりの詰まった事務所、そして自由な雰囲気のバーがお気に入りの空間

取材先で会った人たちや、ライターの先生方、同業者とも一緒に飲んでくつろげる空間を作りたいと思い、ここの事務所を借りました。この事務所が自分にとっての隠れ家ですね。部屋から見える景色がとても素敵で気に入っています。

この場所を選んだ理由は、600部屋ある中で、この内装の部屋は4つしかないからです。最初は日当たりも悪く人気のない物件だったんですが、内装をとても凝ったものに変えたら人気が出たんです。ずっと待ってたんですが、空きができたので入居しました。

部屋のこだわりは全体のデザインを50年代に合わせて、落ち着いたシックな雰囲気に仕上げました。漫画って情報量が多いので、周りがごちゃごちゃしてると、自分の考えも散漫になってしまう。だから毎日掃除して、料理も事務所で作ってます。漫画の連載中は終わりがないため、その点料理は短時間で達成感を感じるので気分転換やストレス発散にもなっています。

あと、お酒が好きなんでよく飲みに行くんですよ。作画のときは行けないので、その日を除いて週に4日ほど。最近は『エスパ』というバーに行くことが多くなりました。新宿3丁目にある店なんですが、店員のママさんが客よりも酔っているんですが、ちゃんと会計はする。店員がずっと寝てるから、自分でビールを注いで飲んでいるんですが、料金もちゃんと計算されていて、エスパのママは本当に超能力者だと驚きます(笑)。エスパに通う理由は、自由な雰囲気に魅了される。

以前担当してくれた方に連れていってもらったのがきっかけですが、色んな業界の人が集まって面白い出来事の話をしてくれるので、漫画のネタにもなっていますね。そう考えると僕にとっての隠れ家は、全て漫画のための場所だったりするかもしれません。

■漫画業界の未来とスタッフの創造力を支える

今後も漫画家として活動を続けていきますが、関わるスタッフの年齢が上がってきたことにも少し危機感を感じているんです。自分の活動が元気なうちはいいかもしれませんが、そうじゃなくなったときにデジタル時代の印税の比率や取り分には考えが及びます。出版社によっては高い報酬を得られることもある一方で、その企画が打ち切られた場合は収入も得られない。そのため、ストック型の仕組みを持つ企画なども考えています。

今は業界的にも人材不足の一面があって、スタッフの質が落ちることも懸念されます。だからこそ、全体的に支え合えるシステムや印税の分配方法を考えることで、皆がより満足できる環境を整えていきたいですね

最近は、クリエイティブな発想からビジネス的な視点に切り替えることが多くなりました。若い世代がYouTubeなどで自身で様々な表現活動を行っていますが、そのような方に向けても、漫画などの創作活動をもっと楽しめる場所を提供できないかなと、考えています。

今いるアシスタントが漫画家になって独立することが理想なので、漫画家としてデビューできるようサポートしていきながら、自分も愛される漫画を描き続けられるよう頑張っていきます。

【作品情報】
『九条の大罪』


『闇金ウシジマくん』の作者・真鍋昌平が描く、法とモラルの極限ドラマ! 本作の主人公は、いつも厄介な事件ばかりを請け負っている弁護士・九条。さまざまな依頼人が彼の助けを借りにくるが、人間社会の闇を伺わせる展開に妙に引き込まれる。2023年、法曹界が最も注目するリーガルコミック。ぜひ実際に手に取って読んでみてほしい。
『九条の大罪』最新単行本第8集、大好評発売中!!

出版社:小学館
作者:真鍋昌平

文/池田鉄平 撮影/井野友樹

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