76758「40代からは、自己完結の先にある広いフェーズを追い求めて」|俳優・斎藤工

「40代からは、自己完結の先にある広いフェーズを追い求めて」|俳優・斎藤工

合同会社エーライト
菅堅太(エーライト)
目次

俳優、映画監督、移動映画館の主宰など、表現者としての枠を超えて多方面で活躍を続ける斎藤工さん。俳優デビュー20年を経て、葛藤や挑戦を繰り返す中で辿り着いた新境地があった。

(※その他のインタビュー写真は【関連画像】を参照)

そんな斎藤工さんを支える隠れ家とは。その素顔と胸中を語ってもらった。

【プロフィール】俳優 斎藤工
1981年生まれ。2001年にモデル活動を経て俳優デビュー。2023年3月17日より主演作『零落』が公開予定。齊藤工名義で映画監督としても活動しており、弁当を題材にした『FOODLORE: Life in a Box』でアジア映画祭において日本人初の最優秀監督賞を受賞。9月には監督長編最新作『スイート・マイホーム』の公開を控えている。

■デビュー20年を経験して感じる、俳優業の奥深さと残酷さ

僕が俳優デビューをして20年が過ぎました。俳優という職業を通じてかけがえのない経験をする一方で、キャリアの終わりを自分で決めれない苦しさを時々感じることがあります。例えば、スポーツ選手だと肉体的なピークが目に見えるので引退が明確に決めれると思いますが、俳優はそこが難しい。

その衰えていく様も表現者として時に必要なことだったりもする。そういう意味では、俳優業はめちゃくちゃ深くて苦しくなったりします。だけど、苦しくなることは正解だなと思う自分がいる。残酷だけど、在るべき姿だなと思いますし、それを予防するために常に自分を俯瞰的な目線で見ていたいなと思ってるんです。

僕は好きや嫌いとかで俳優として、飾る部分はありません。とはいえ、お芝居は相手の顔色をちゃんと見て合わせたり、時に欺いたりして、非常に原始的な人間の状態だなとも感じています。運良く自分の存在を感じていただけるような作品に出会った時は、高揚感を感じたり。一方でジェットコースターじゃないですけど、登るってことは降りたり落ちていったりすることだってあります。そんな覚悟を持ちながら、非常に滑らかに見えた奥にある鋭さみたいなものを認識した上で、この職業をやっています。

メリットとデメリットで言うならば、はっきり言ってデメリットのが大きいと思う。いい時は御輿(みこし)を担がれて、何か不祥事を起こすとあっという間に拡散されてしまう。この時代は、貯金残高とは別に失われていくものが多いなって。それが現実ではあると思うんですけど、映画の世界にしがみついてしまっている自分自身をコントロールできない現実もあります。そんなことを思っている時に、『零落』という作品に出会えました。僕は偶然ではない何かを感じていました。

■斎藤工が『零落』を演じて向き合った俳優としての誠実さ

『零落』は人気漫画家がスランプに陥り、世間の好奇の目から逃げるように自暴自棄になって堕落へと向かう物語です。僕は、主人公を演じるために普段見せない自分で挑みました。何故なら、原作者である浅野先生の覚悟というか、自分の内臓みたいなものを見せてくれてるような気持ちになったからです。この作品に向き合うには、自分の内臓を現場に持ち込まないといけない。「ある種の健全さを排除しないと成立しない」と思いながら役と向き合っていたんです。

そういった気持ちで演じていた作品の完成版を見ると、その時の体感が戻ってきました。非常にしんどい時間でしたね。自分が監督した作品以上の客観性が『零落』という映画に対しては持てないのが正直なところ。昨日も取材があるので観たんですけど、やっぱり当時の苦しさが先行しちゃって、「しんどいな」という。壁に打ち当たった人たちが自分の中の内臓と向き合うというか、それが『零落』だったなと思います。

一方で、そうでなきゃこの役割を僕は受け入れなかっただろうなと思う。個人的な想いとしては、表面的な表現だと通用しないなと感じていたことに対して、僕なりに人に見せない部分を捧げる覚悟で挑みました。誰もいない、誰も見てない、共演してる役者さんすら温もりがあるのか、ないのか……。そういう不明瞭な状態でお芝居をするという境地が僕にとっては、映画との向き合い方の一つとして正解ではないですけど、誠実さではあったのかなって思ってますね。

■斎藤工にとっての隠れ家とは、休息の場であり自分の真価を問われる場所

俳優として多様な感情に触れる僕にとっての隠れ家は、自宅ですね。隠れ家であり、本拠地でもあるんですけど。理由は、コロナ禍もあって自分が1番長くいる場所を休息ややすらぎを感じられる場所にしたいなっていう。

他には映画館もそうですね。思いのほか仕事が早めに切り上がった時とかは、現在地から近い劇場を探して、今から観れそうな作品をランダムに観ることはしょっちゅうしています。比較的、一人で完結することがスケジュールにも都合がいいんです。友達がいないわけじゃないんですけど、“ひとり事”っていうか、それが映画の1番の魅力だと思う。

自宅や映画館という結果的に自分と向き合わざるを得ない空間で、いかに肩の荷を下ろすか。映画館は、最低週に1回ぐらい行きますね。アカデミー賞のシーズンが近づいてきたりすると、もっと増えていきます。映画の紹介番組もやっているので、分析をしようとする解析目線で観てしまうとこもあるんですけど、本当にいい作品は、それをも凌駕してくれるんです。その日の自分の状態というより、作品がイニシアチブを取り出すというか、いろんなことを払拭してくれる。意外とコンディションが整ってない状態で映画館に行くと、今の自分の真価が問われていることを作品から教えられることがありますね。

■斎藤工が描く今後の展望。「自己優先主義の限界を認めたことから始まる表現」

今後の活動の展望を語るとすれば、20代、30代を俳優として生きてきて、自分のために活動をしていくことに対しての陰りが見えたんですね。だからこそ、他者との融合を意識しています

例えば、誰かの誕生日プレゼントを選んでる時は、もらう人以上にきっと楽しめてると思うんですよね。そこには、いつもの自分とは違うトルクみたいなものが作動していて、そういったエネルギーの方が分母が大きいんじゃないかなって。親が子どものために注ぐエネルギーというか。そういった感じで自分の生かし方をどんどん移行していかないと、八方塞がりみたいなところに行ってしまう。

僕的には、自分のための自分事って、“この程度なんだ”っていう輪郭が見えてしまったので、ここからは広い分母にどんどん変換していくフェーズなんです。きっと家庭を持っていたり、お子さんがいたりすると自然と優先順位が変わっていくんだと思うんですけど。

自己優先主義の限界を認めたことから始まる、全てのことを受け止めていきたい。僕は20代、30代で自分の半径の狭さを1度自覚するというのが必要な期間だったなと思っているので。40代からは自由に生きるために他者をこの方程式に入れていかないと、可能性が広がっていかないことを痛感しています。

斎藤工プレゼンツみたいな、その“斎藤工”っていう部分が掲げられてる時点では、まだまだ自分事に寄っているなと。移動映画館など様々なプロジェクトをやっていますけど、そこで斎藤工というフレーズが枕言葉にならなくなった時に、本当の意味で自分の生かし方につながるはずなんです。そこを目指して、毎日生きていきたいなと思います。

【作品情報】
『零落』

©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会
製作幹事・配給:日活/ハピネットファントム・スタジオ

主人公・深澤薫は、漫画家として絶大な人気を誇っていた。しかし、長期連載の終了と共に次第に低迷していき、担当編集者や妻とも不仲になってゆく。そんな時、とある風俗店で出会ったのが「ちふゆ」である。深澤は彼女との出会いを機に、堕落への一途を辿るのだが……。
クリエイターの苦しみが生々しく描かれた本作を、ぜひ劇場でご覧いただきたい。

原作:浅野いにお「零落」(小学館 ビッグスペリオールコミックス刊)
監督:竹中直人
出演:斎藤工 、趣里、MEGUMI、玉城ティナ / 安達祐実 ほか
公式URL:「零落
3月17日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

文/池田鉄平 撮影/井野友樹 ヘアメイク/赤塚修二 スタイリスト/三田真一

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