56325「自分を超越した体験はアートの中にこそある」|チームラボ代表・猪子寿之

「自分を超越した体験はアートの中にこそある」|チームラボ代表・猪子寿之

男の隠れ家編集部
編集部
最先端のデジタルテクノロジーを駆使した斬新なアート作品を生み出し続けるアート集団「チームラボ」。代表を務める猪子寿之さんが東京大学卒業時に、仲間とともに立ち上げた企業だ。発表したアート作品は日本のみならず海外からも賞賛を受け、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シリコンバレー、シンガポールなどで常設展及びアート展を開催している。「実験と革新」をテーマに新しい世界の創造に挑み続ける、そんな猪子さんが語る「隠れ家」の本質や魅力とは?
目次

【プロフィール】チームラボ代表 猪子寿之
1977年徳島県生まれ。現在のチームラボを創業したのは、東京大学工学部を卒業した2001年のこと。在学中は確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究していた。
チームラボを設立後は、アートやサイエンス、テクノロジーを駆使した独創的な作品が話題となり、世界からも大きく注目されている。国内では東京や福岡で常設展が開かれているほか、海外では上海やマカオ、マイアミ、シンガポールなどへも展開。また、2022年にはエストニアのタリンなどでの展示を予定しており、今後数年で世界で8か所のチームラボミュージアムのオープンを計画している。

最新のデジタル技術を使い、「境界」のない世界への挑戦

――アニメや和食など、日本が世界に誇れる文化・芸術は数多くありますが、今、最も勢いがあるのがチームラボによるデジタルアートとも言われています。猪子さんにとってのアイデアの創出とは?

アイデアの源泉とかないんです。例えば森の中で世界を美しいと思ったときに、見てる風景の中に自分はいるわけだよね。でも写真を撮ったり、動画を録ったりすると何故か境界面が生まれる。そこには自分の身体、自分はいない。そういうことが興味の対象で、境界面の生まれない作品空間を大事にしている。アイデアという言語を使うと境界面を作ってしまう。

オフィス内には「電球が浮いている机」や「クッションで覆われた机」など、興味をひくものが数多くある。

――そういった物事の本質を見極めるようになったのは、幼少期の環境などが関係しているのですか?

小さい頃は比較的、大家族で育ちました。曽祖母、祖父母、父と母と僕の構成です。祖母は、プロテスタント系のある一派だったので、小さい頃は教会に連れて行かれたり、キリスト教関連の絵本を読んでくれて、世界ができた話を教えてくれた。父親は比較的科学を信仰してたから、恐竜図鑑などを買ってきてくれて。母親は非常に熱心な高野山系の真言宗、密教徒でした。

基本的に家庭内の会話はドッヂボールみたいな感じ。キャッチしちゃいけないんで避けあう。キャッチしあわない(笑)。それで何が良いかというと「基本的に人はそういうもんだろう」と、それが変だとは思わなかった。学校で先生が話していることに対しても、「ある時代や地域の何かを信じて言ってるだけ」と思ってました。

その人にとっての真理は自分にとっての真理ではなく、常識のように考えられていることも、そこまで信じなくて良い。それよりも、“世界とは何か”を子供ながらに考えていた。そして、本を読んでいるうちに、人類が長いサイエンスの歴史によって見えなかった世界を見えるようにし、そこから様々なテクノロジーが生まれて、社会が変わっていった事実を知り、探求心が科学に軸を置くようになりました。

人間の知的欲求を満たし、世界の解像度を上げてくれるのが“科学”

科学はみんな好きなんです。なぜなら、人間は世界をより知りたい種だから。生まれたときから知りたいの、世界とは何かを。世界を知れるっていうのが楽しいね。それは、科学の力で世界の解像度が上がって、より世界が見えるようになってくる。

科学は客観的に世界への解像度を上げて、人間はそれを認識することによって世界の見える範囲を広げてきた。対して、アートは長い歴史の中で世界の見え方を変える営みとして存在していた。そういう風に考えると、“美意識”が人間の行動を決める最大の要因とも言えるかもしれない。そう考えていた自分の心を決定的に動かしたのがアーティストの存在でした。

アーティストは、自らの感性や自己表現で作品を生み出して、それまで魅力が伝わってこなかったものを美にしてしまう“美の概念”を拡張した人だと思う。現代のように、先行きも不透明で混沌とした時代において、アートがもたらす美学は生きる上での道標にもなりうる。“美の基準”を変えると、人は合理的な判断ではなく、感情や本能で行動するんです。

アートの視点から、社会や経済、政治を見てみることで自分の中で価値観が変わり行動する。小さな一歩かもしれないけど、世界が動く。アートがもたらす効果は計り知れないんです。

――チームラボのテクノロジーを駆使した斬新なアート作品は、神秘的に出来上がっていく。そんな背景には、猪子さんの揺るぎないメッセージが込められているんですね。

「世界から乖離したアート空間に没入することこそ、隠れ家じゃないかな」

お台場・チームラボボーダレスの《呼応するランプの森 – ワンストローク》。Photo by Masato Moriyama(TRIVAL)

自分の中で「隠れ家」という概念はないですね。人はいつもここではないどこかに行きたい生き物だと思う。分かりやすく話すと、情報社会になってデジタルが発明された。デジタルとは脳を拡張して、ここではないどこかに行くわけだよ、新たなステージにね。その象徴が、かつては、金持ちがこぞって乗り物を買って喜んでいた。それが今の新しい時代は、金持ちはこぞってアートを買う。アートとは脳の拡張の象徴なんです。脳の拡張がここではないどこかに行く手段なんです。

チームラボの何が良いかと言うと、自分たちで新しいアートを作って、ずっとその中にいる。それが素敵だと感じている。だからアートの中が自分の「隠れ家」と言えるかもしれない。今後は、人はアートの中に隠れるようになるんだと思いますね。

――身体全体で感じるミュージアム「チームラボプラネッツ TOKYO DMM」は、まさに猪子さんの哲学を象徴しているように思います。1つの世界に他者と共に入り、その世界が自分や他者の存在によって変化していくことで「他者との連続的な関係」を五感で感じられる。まるで「隠れ家」のように、自分自身が作品の一部に溶け込んでいく体験ですね。

「隠れ家」にしたいと思ってミュージアムを作ったわけじゃないけれど、自分の存在を超越したような体験ができる作品作りや、自分が意味を感じるようなことを仕事にしていきたい。意味を感じる限りその中に埋没していくんですよね。自分ならアートの中に埋没する。広い意味でアートの中を「隠れ家」にしていきたい。

人と世界がつながっていることを肯定するアートを生み出し続ける

――最後にデジタル技術を使ったアートを世に広め、境界なき世界と一体化した空間を作り続ける猪子さんが描く、今後の未来像とは?

東京ならチームラボボーダレス(お台場)とチームラボプラネッツ(豊洲)の2つ、あとは上海とマカオにも大規模な展示がありますが、今年から2〜3年で世界中に8か所大きい常設展示ができる予定です。

チームラボが大切にしている世界観は、他者の存在を肯定し、連続した物語や体験を描くことです。その背景にあるのは、全てがつながっているということ。人と人だけじゃなく、人と世界がつながっていることを肯定して、心から美しいと感じられる作品を生み出していきたい。その過程でアートが果たせる役割は大きいのではないかと感じています。

<イベント情報>
「チームラボボーダレス(お台場)」で季節限定のランプが登場!

《地図のないミュージアム》として、境界のない一連のアート群を楽しめるチームラボボーダレス。その作品の一つ【呼応するランプの森】にて、「藤」と「ツツジ」のランプが2022年5月1日(日)より登場する。グラデーション豊かな色彩を放つ空間が、非日常を感じさせてくれるはずだ。
チームラボボーダレスは2022年8月31日(水)をもって閉館するが、翌年から東京都内に移転オープンを予定している。今、お台場でしか見られない作品もあるため、ぜひ閉館前に幻想的な世界へと没入してもらいたい。

住所:東京都江東区青海1-3-8 お台場パレットタウン2階
入場料:3,200円(大人)、1,000円(中学生以下)ほか
URL:https://borderless.teamlab.art/jp/
YouTube:「藤のランプ」「ツツジのランプ

文/池田鉄平 撮影/井野友樹

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