61994「やっぱり俺、人が好きなんだな。だから自分から動き続けることをやめない」|とんねるず・木梨憲武

「やっぱり俺、人が好きなんだな。だから自分から動き続けることをやめない」|とんねるず・木梨憲武

男の隠れ家編集部
編集部
俳優や音楽活動などでも広く活躍する「とんねるず」の木梨憲武さん。独特のアート作品で高い評価を得ているのもよく知られるところだ。2度目となる全国巡回展も2018年からスタート。グランドフィナーレとなる上野の森美術館での開催を前にしたアトリエで、制作への思いや自身の“隠れ家”時間をうかがった。
目次

【プロフィール】お笑いタレント・画家・歌手 木梨憲武
1962年生まれ。東京都世田谷区出身。1980年に石橋貴明とお笑いコンビ「とんねるず」を結成。俳優や歌手としても活躍する一方、自らのアトリエを持ち、画家・造形作家としての活動を続けている。1994年に「木梨憲太郎」名義で愛知県名古屋市で開催した「太陽ニコニカ展」が初個展。アメリカ・ニューヨーク(2015年)およびイギリス・ロンドン(2018年)の2度の海外個展でも成功を収めた。2018年からは日本国内で9度目の個展となる「木梨憲武展 Timingー瞬間の光りー」で全国美術館ツアーを開催している。

■全国美術館を巡回するツアーが遂に東京でファイナルへ

個展『木梨憲武展 Timing―瞬間の光り―』は、2018年7月からスタートしました。大阪会場から始まってこれまで全国の美術館19カ所。コロナで延期もあったりしました。東京も2年延期になりましたが、やっと上野の森美術館を20カ所目としてラストを飾れます。

これまでの会場もどこも、同じ絵でも見え方を変えたり、照明や空間も考えて作り上げてきました。会場ごとの歴史や空間、館長さんやテレビ局の人とかとの会話とかから考えていくの。その最後の仕上げが面白くてね。それが俺と成美さん(妻の女優・安田成美さん)の楽しみ。上野では平面の他、映像や立体、光の演出を取り入れたりとか工夫して、各部屋を一周しながら、テーマパークのアトラクションを巡るみたいにします。できることならキャストのお兄さんとしてご案内して回りたいくらい(笑)。

新作もいくつか用意していますよ。まだ制作を詰めているものもここにあります。例えばたくさんの手が繋ぎ合う「REACH OUT」のシリーズを、金属のオブジェにできないかと思って、TV番組で訪ねた板金工場にお願いし、まずは模型として作ってもらったのがこれ(写真)。作品としては高さ3mくらいにするつもりです。中に照明を入れたらかなりきれいでしょう? いずれは100mくらいの作品にしたい。そこまでイメージできているんです。内部を回ると楽しそうでしょ。岡本太郎先生の『太陽の塔』が70mほどだから、そこを数mでも超えたいですねぇ。

ARを使った新作も初お披露目します。2018年に『いぬやしき』という映画で主演したんですけれど、映画の中で俺、空を飛んでいるの。俺は何もしていないのにCGで。そういう映像技術ってすごい。そういうプロの人達と何か一緒に出来ないかと思ってきて、今回、ARを扱う企業と組み、俺が描いた大きな木に、来場した人が手の形の花を加えていけるようにしました。会期中にどう変化していくか楽しみですねぇ。

みんなが外出を控えていた2年間を経て、コロナも少しずつですけど落ち着いてきているでしょう? 6月は外に出るのにいい季節だし、そろそろ楽しい場所に行きたいですよね。そのひとつになったらいいなと思います。暗い作品はほぼほぼないです。「REACH OUT」シリーズも、みんなで手を繋ぎ、困っていたら助け合おうということがテーマ。だからね、コロナ禍でさみしさやつらさを感じていた人達にも届くといいなぁ。

■バラエティ番組企画をきっかけにアート制作に没入

もともとは絵を描くなんて考えてもいませんでしたよ。子供の頃はサッカーに明け暮れるガキで、絵といえば教科書の隅にパラパラ漫画を描く程度。きっかけは『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』という番組での一コーナーです。岡本太郎先生をもじったキャラクター「木梨憲太郎」として、絵の具を全身につけてキャンバスに飛び込んだり、まぁいろいろやりました。パリに行き、セーヌ川を描くことができたのも、その番組があってこそです。

個人でも制作を続けるようになったのは、やはり面白かったから。1994年には番組の企画で、「木梨憲太郎」の名で個展もしました。それが決定的だったかも。番組に出演していた日比野克彦さんの言葉も後押しになりました。どこか不安もあった俺に、「自分が作ったものが作品なんだから、自由に描いていいんだよ」って言ってくれたの。すごく優しいんだよね、言葉が。で、「そうか! ハイわかりましたー!」と。そのまま30年近く続けてきたわけです。

なんらかのイメージが浮かび、そこにはまると寝ないで何時間でも没頭しちゃいます。その時間が一番嬉しいの。

《セーヌ川》1994年 ©︎NORITAKE KINASHI

「フェアリーズ」というシリーズは、段ボールで作り始めて目標1000体。もうずうっと鋏(はさみ)と糊を手に延々と。海外の仕事の時も材料を持って行って。なんとか達成してからは、段ボールだと色がないんで次はいろんな商品パッケージで作ろうと思いつき、これも目標1000体。箱が足りないとラジオ番組で募ったりもしましたね。

コロナ禍の最初の頃はTV収録とかも止まったので、家でずっと、100個できた、500個できた、という感じ。朝から晩まで作っていましたよ。あれこれと考えない。全部アドリブです。そうして数百個できたところで並べて見て、じゃあどう見せようかなと考え始めるんです。

TVは1週間単位で物事が動くし、放送作家やディレクターなど多くの人達が関わって作り上げる中で、自分達はキャラクターとして視聴者に面白いと思われることをやっていきます。けれどアート制作は自分一人で考えるフリースタイル。俺と成美さんとで「いいねー」と面白がってやってます。

そこは何十年たっても変わらないなぁ。今もやりたいことのイメージがどんどん湧き出てくるんですよ。

《フェアリーズ—街—》2018年 ©︎NORITAKE KINASHI

■大きな爆発力を生むのは、出会いの“タイミング”

俺はね、人とでも言葉や道具でも、出会いのすべてに最良のタイミングってものがあると思う。そう感じることが最近はとても多い気がするな。今回の巡回展サブタイトルも“タイミング”。いいタイトルができたなと思ってます。

うわ、来たな!というような瞬間ってあるでしょ。ああこの言葉しかないとか、今この人に声をかけてよかったとか。いいタイミングであれば、そこから大きなものが生まれてくる。人との関係でも、波長がバンと合った時の威力の大きさは、自分一人では到底たどりつけないものですよ。逆に、そのタイミングを逃しちゃうと、いい結果にはならないの。

そうしたタイミングをキャッチするには常に自分から動いていないと。俺、いろんな人に会おうとするし、お願いにも行きますよ。ライブでも、歌いたい気持ちが高まった時、相手もやりましょう!となって話が決まったりするし、展覧会もそう。話しに行って相手の顔色がいまひとつだったら、それはいいタイミングじゃあない。そういう時はダッシュで立ち去ります(笑)。

「REACH OUT」シリーズをガラスで立体にできないかと考えた時は、富山のガラス作家に依頼したんですが、最初はなかなか思う形にならなくて、工房での作業に立ち会いながら完成にこぎ着けましたし、今回の新作での金属溶接やARも、自分でお願いに行き、ここはそうじゃなくてーとかやっていましたよ。

そんな感じで、アートの仕事も人間関係のよいタイミングの中でどんどん広がっています。

制作は自分一人と言ったけれど、人と関わりながらのやり方も増やしていきたいですね。職人さんや企業とのコラボは既にいろいろやってきていますけど、これからは子ども達や海外の人とか。何かしら一緒に表現できるようなことをしていきたいなぁ。

《窓》2018年 ©︎NORITAKE KINASHI

■オジサンばかり集まっていつも同じ話。それが楽しい

ずいぶんいろんなことやっているってことはよく言われますねぇ。上野での展覧会前にはフェスでも歌ったし。オーケストラをバックに歌うのは初めてですよ。あ~俺、やることいっぱいあるな~という感覚をいつも頭に置いています。同じことだけやっていると追い込まれる時もあるでしょ。1個やったら終了、さぁ次だ、という感じかな。いつもひと息つく前に次の別のことに頭が行ってる。済んだことは残さない。だからどれひとつ飽きないし、全部楽しいの。

そんな感じだから、このアトリエが俺の隠れ家。全然隠していないけどね(笑)。

ここでの制作以外で一人で楽しむ隠れ家的時間ってあるかなぁ。そうね、行きつけの店かな。中華とかイタリアンとかだけど、店長が感じいい人で、その日に電話して入れる店が何軒か。それもタイミングだよね。俺、何カ月とか何年とか前から予約必須なんていうの苦手なのよ。今日は無理ってなったらすぐ切り替えて別の店に行く。根がポジティブですから。ダメだったということを引きずらない。

そういう店で飲む時は、まぁだいたい同じメンバー。オジサンばかりです。一人でというのはないな。

ああ、そうだ。一人の時間もありました。

水曜の朝は、前夜に録画した『オモウマい店』を見ます。全国のオジサンのヒューマンドキュメントを見て泣くの。あと、毎日じゃないけれど、朝にジムにも行きます。まぁ、ジムと言いつつお風呂目的なんですけどね。行けば同じようなオジサンが何人もいますよ。

完全に一人なのはゴルフに行く時の車の中ですね。運転しながら、どうでもいいようなことをいろいろ考えてる。朝メシはコンビニで買うかなとか、緑がきれいだなとか。その車中が楽しいから、肝心のゴルフでミスしたって全然悔しくないの。

でもな、やっぱり俺、人が好きなんだな。だいたいは誰かと一緒にいるもん。

同じ顔ぶれで、同じものを食べて、毎回同じ話をしている。ジジイってそんなもんですよ。そのうち誰か寝始めちゃったり。でも、そういう酒がなにより旨いんだよね。女性はすまないけれどメンバーに入れない。やっぱり何か気遣うし、話の内容も多少ブレちゃうんだな。だからもう、女性はナシと決めてあるの(笑)。

人との関わりとタイミングによって、やったことないことに取り組めるんだし。そんなことがきっとこの先もいくつもあると思うと嬉しい。そのために、これからも動き続けていきますよ!

《Walking footsteps 歩み》2018年 ©︎NORITAKE KINASHI

【展覧会情報】「木梨憲武展 Timing ―瞬間の光り―」
会期/6月4日(土)〜6月26日(日) ※会期中無休
会場/上野の森美術館(東京都台東区上野公園 1-2)
開館時間/9:30〜17:30(金・土・日曜は〜19:00、入場は閉館の30分前まで)
入場料 /【日時指定予約制】
平日:一般2200円、大学・高校生1500円、中・小学生700円
土日:一般2400円、大学・高校生1600円、中・小学生800円
※詳細は公式HPを確認
公式SNS/Instagram、Twitter、Facebook:@kinashiten

「木梨憲武展 Timing ―瞬間の光り―」公式サイト https://www.kinashiten.com/

リリース情報
『木梨ミュージック コネクション最終章 ~御年60周年記念盤~』2022年6月1日(水)発売
通常盤【CD】 ¥3,630(税込)
初回盤【CD+DVD】 ¥5,280 (税込)
https://www.universal-music.co.jp/kinashi-noritake/products/tyct-60197/

文/秋川ゆか 撮影/島崎信一 ヘアメイク/北一騎 スタイリスト/大久保篤志

Back number

バックナンバー
More
もっと見る