映画、テレビ、音楽を中心に、エモーショナルなスタイルで、確固たる存在感を示す桐谷健太さん。
多方面で活躍する計り知れない表現力の源泉を探るべく、創作過程や習慣について、また心の奥底にあるという隠れ家の存在や大切にしている価値観などを赤裸々に語ってもらった。
【プロフィール】俳優 アーティスト 桐谷健太
1980年2月4日生まれ、大阪府出身。2002年に俳優デビューして以来、数多くの映画、ドラマに出演。音楽の分野でも着実な活躍を見せ、表現力溢れるボーカリストであると共に、豊かな音楽感性を持ち合わせ、ドラム・三線を弾きこなす。『au 三太郎シリーズ TVCM オリジナルソング』としてオンエアされ大ヒットを記録した『海の声』など、数々の作品で多才さを発揮している。
■表現者として、大切に体現している3つの軸
――桐谷さんの俳優業やアーティスト活動を拝見していて、誰とも被らないオリジナリティ溢れる表現力に魅力を感じます。表現者として大切にしていることはありますか?
考えたこともなかったんですが、今パッと思いついたのが、1つは自分の好きを貫くこと。2つは「わがまま」という概念。3つは柔軟に結果を受け入れる姿勢。
自分のやりたいことを自由にやった先に表現があって、また新しいアイデアが生まれてくる。自分の好きを表現している間は自分らしくいられるし、好きを楽しんだんだから結果や評価をあまり気にしすぎない。だからこそ、自分の中の「やりたい!」って最初の気持ちを大事にしてます。
その中でも歌に関しては、自分の中で“気持ちよかったら正解”っていう価値観があります。音楽番組に出演した時も、レコーディングの時も、自分が気持ちよく歌って満足できれば、それが凄く大切。聴く人の感覚は自分ではどうしようもない範疇ではありますが、自分が気持ち良い方が、聴く人も気持ち良くなれると感じています。
そんな音楽活動で、最近新たな挑戦がありました。2023年公開の映画『嘘八百 なにわ夢の陣』の主題歌を担当させていただいたんですが、自分が出演しない作品で主題歌を歌うのは初めての経験で、とても光栄な気持ちになりました。
今回の映画は武正晴さんが監督を担当してるんですが、僕がデビューしてから一番最初に出た映画『ゲロッパ』で、助監督さんとしてご一緒した方なんです。去年の京都国際映画祭で僕が「三船敏郎賞」をいただいて、その時に武さんも監督賞を受賞されて、一緒に舞台に上がったんです。舞台袖で「なんか感慨深いね」という話をしました。そういうご縁もあって、映画の主題歌を健太に歌ってもらおうとピンときてくださったみたいです。
■初の映画主題歌の歌詞制作に込めた、等身大の真っさらな自分
監督の武さんから主題歌のイメージやリクエストがありました。「口笛を吹きながら散歩をしている時に、明るい日差しが差し込むような曲にしたい」と。映画を観た感覚と、武さんの言葉に背中を押され、「誰かが書いた詞をそのまま歌うんじゃなくて、自分の言葉で歌詞を書きたいな」と思いました。
武さんからの情熱的なオファーをもらって少し経ったある日の朝、頭の中にどんどんフレーズが流れてきたんで、一気にメモして、マネージャーのもゆるさんに送り、それをもゆるさんが形にしてくれて『夢のまた夢』の歌詞が完成しました(※)。
今回の主題歌が使われている『嘘八百 なにわ夢の陣』は、夢を追いかける人たちの姿が描かれてるんですが、自分もそんな姿勢を貫きたいと日々思ってます。そんな気持ちを込めて、映画の主題歌を歌いました。
※『夢のまた夢』は、桐谷健太さんと桐谷さんのマネージャー・もゆる氏により歌詞を共作。
■散歩から学んだ、心の中に余白を作る大切さ
普段の生活では散歩をよくするんですが、単純に「幸せやなぁ」「気持ちいいなぁ」っていうモードになるんですよ。売店で買ったコーヒーが美味しかったとか、いつも新しい発見があって、その日の心の状態一つで出会う人や景色の見え方も変わる。それが本当に面白い。
以前の僕は、5歳の頃から役者の世界に憧れていたんで、「どうすれば活躍できるのか」という焦りからか、目をギラつかせながら戦ってました。ただ、眉間にしわを寄せて誰かと戦っても、何も自分の納得したものは生まれない。だからこそ、自分の中に余白を作ることはとても大切だと思います。誰かと戦ったりピリピリしたりするよりも、優しい気持ちになって笑っていたい。ゆっくりと心境が変化していく中で、散歩やボーっとする時間は、心穏やかになりながら、新しい刺激も受けて、アイデアや気持ちに気づく時間にもなってます。
たとえ散歩してなくても、自分が気持ちいい状態でいられたら、自分の好きなワードとか感覚がスッと入ってきやすくなる感じがするんですよね。大人になってそういう余裕を持てるようになったのは、自分だけの特別な空間を手に入れたような嬉しい気分ですね(笑)。
■僕にとっての隠れ家は、心の奥底に存在している
僕の中で隠れ家を定義するなら、自分の中で何の気負いもなく、自分らしくいられる特別な場所かな。そこにいる時は、安心して身を任せられるような。それが物理的な場所であれ、心の中のノスタルジックな場所であれ、いつでも好きな時に入ることができる。そうすれば、何かあっても、飾っていない本来の自分に戻って来られると思いますね。
楽しい思い出や誰かと過ごした時間を懐かしんだり、毎日が冒険のように感じられたり。そんな気持ちにさせてくれる場所・時間が、心の隠れ家なのかも知れません。例えば、地方に行くこともよくあるんですが、必ず散歩をしたくなるんですよ。ただ道を歩いてるだけでも、その土地が持つ息吹や鼓動が感じられて、いつも自分の心の機微に気づかせてくれる。こういう日常の中で、自分の心を感じられる場所が隠れ家なのかも。
でも、そんな隠れ家がどんどん大きくなっていったら、最高ですよね。出会うもの一つひとつが自分の隠れ家になっていく。そんなことを思い描くだけで、人生が楽しくなってくる。そういう世界観の中に入って、どんな時でも「好きにやろうぜ!」って感覚は常に大事にしてます。
大人になると、子どもの頃のような喜びはなくなるって思われがちですが、いくつになっても心を揺さぶられ、涙を流したり感動したりする。そう考えたら、「これからも青春がまだまだある」っていうワクワク感を実感することだってできると思います。
■喜びと満足に満ちた日々から生まれた表現を積み上げていく
「毎日、明るく楽しく幸せを大切にしてきたい」っていうのがベースにあって、これからもお芝居や音楽、日常などを通じて、楽しく、感謝していきたいですね。
時には思い悩むことはもちろんあるけれど、それは成長の糧になると信じている。まだ見ぬ瞬間やチャンスに胸を躍らせながら生きていく。そうすることで今想像する未来よりもさらに面白い未来があると。
これから先も、新しい夢やアイディアがどんどん生まれ、それを作品や『何か』にして、自分だけでなく、周りの人たちにも喜んでもらいたい。必要な人に必要なものを提供するために、もっと逞しく、思いやりのある人間になっていきたいですね。苦しんでる仲間や誰かがいたら、一緒に悲しんであげるだけじゃなく、自分の手で苦しみから引っ張ってあげられるような存在でいたい。
自分も、いろんな恩人や友達に引っ張りあげてもらって、今があるので、その感謝を忘れたことはありません。自分がどんどん強く優しくなって、一緒に楽しいことをやっていきながら、今あるものに感謝し、日々の幸せを大切に過ごしていきたいと思います。
【作品情報】
『夢のまた夢』(ユニバーサル J)
武監督から「年齢・性別に関係なく心に響く、唯一無二の歌声」と高評価を受けた桐谷さん。映画の魅力の一つ”夢を追いかける人たちの姿”をイメージした一曲に仕上がっており、劇場だけでなく何気ない散歩の時間に聴いてみるのもおすすめだ。
作詞:桐谷健太、もゆる
作曲:キヨサク
編曲:SPECIAL OTHERS
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『嘘八百 なにわ夢の陣』
Ⓒ2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会 / 配給ギャガ
古物商・小池則夫(中井貴一)と、陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)のダブル主人公が一攫千金を狙う『嘘八百』シリーズ3作目。大阪を舞台に繰り広げられる騙し合いは、秀吉七品の中でも“幻のお宝”といわれる「鳳凰」が鍵を握る。個性的なキャラクターたちが魅せる予想不可能な展開を、心ゆくまで楽しんでほしい。
監督:武正晴
脚本:今井雅子、足立紳
出演:中井貴一 佐々木蔵之介 安田章大 ほか
2023年1月6日(金)より全国ロードショー
公式URL:「嘘八百 なにわ夢の陣」
ヘアメイク/岩下倫之(Leinwand) スタイリスト/岡井雄介 文/池田鉄平 撮影/井野友樹