7923年間1000軒を飲み歩くプロ飲み師に「何故そんな飲むんですか」と聞く

年間1000軒を飲み歩くプロ飲み師に「何故そんな飲むんですか」と聞く

男の隠れ家編集部
編集部
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ひと目見ただけで、個性的な魅力が溢れ出ることがわかる株式会社おくりバント代表の高山洋平氏。

不動産会社を経て、インターネット広告大手のアドウェイズに入社。トップ営業マンとして活躍し、中国語が話せないにも関わらず、中国支社(上海アドウェイズ)の営業統括本部長まで上り詰める。その後2014年にアドウェイズの子会社として、一際目立つクリエイティブやPRを手がける株式会社おくりバントを創業。その個性、また大胆な生き方は、伝説的なエピソードとして多くの媒体でも取り上げられている。

そんな高山氏であるが、業界では年間360日飲み歩く “プロ飲み師” としても知られており、その中でも高山氏が自身の男の隠れ家として、週5から7で通うというのが中野にある『BACAFE』だ。

今回、プロ飲み師・高山氏が飲み歩く理由、そして “本物の人が集まる” という『BACAFE』とは一体どんなところなのか、お話を伺った。

プロ飲み師・高山洋平が365日中360日、年間で1,000軒以上を飲み歩く理由

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もともと飲むのが好きというのもあるんですけど、僕の場合は飲みの場が「職場」でもあったし「学校」でもあったんです。そこで多くの学びや自分を売り込んで、仕事を獲っていたりもしていましたから。

それは中国にいたときもそうですし、今でも変わっていなくて、様々な営業スタイルがある中で、僕は “お座敷営業マン” というジャンルでは日本で5本の指には入ると思っていて、免許皆伝も受けていると思っています。勝手に思ってるだけですが。

そして、いま僕は41歳なんですけど、30代の10年間は修行の期間だと思っていて、金を借りてでも飲み歩いていました。平均したら1日3軒とかを飲み歩くから、年間で1,000軒以上は行ってるわけです。

金の概念も、修行を通じて変わりましたね。金がないと飲めない、というわけじゃないんですよ。返す覚悟と実績があれば、ツケで飲める。バックレるわけにはいきませんから、「なんとかしよう」と考えて仕事つくってツケを返しました。

だから本当に金がないときは、2ヶ月くらいツケしたことがあって、ツケの返済日には店主に「今年一番の売り上げだよ」と言われたこともあります。

そんなんで僕はお金はあるだけ使ってしまうので、会社も起業初月に資本金の半分を使い果たしてしまったり。金がなくて、何回も潰れそうになってます。明後日までに700万円を用意しなければいけないとか、会社のお金が残り3万円しかないとか

「どうせ潰れるなら、その3万円を接待費として飲みにいかせてほしい」と言って、経理にすごく怒られたのを覚えています。結局、他の人に借りて飲みには行ったんですけどね。倒産しそうなときの精神状態では、酒ぐらい飲まないとヒヤヒヤして寝れないじゃないですか。

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まあ、そんな感じで365日中360日は飲みにいく。残りの5日は、妻の誕生日(12月31日)、風邪をひいたとか、本当に早朝から仕事があるとか、そういうときだけです。それ以外は飲むんです。

それで飲みにいったら、僕が見るのはそこにいる人たちのコミュニケーション。たとえばお店の周年イベントがあるよってときに「生きてたら行きますね」と返してた人がいたんだけど、最高じゃないですか。「仕事があるから、行けたら行きます」とかと違って、誰も傷つかない返し。もし来なかったら、死んでるわけですから(笑)。

そうやって飲みの場のコミュニケーションを通じて、ボキャブラリーがどんどん増えていくんですよ。もし4人いれば、4人のボキャブラリーが入ってきますから。そしてそのお店が自分にとって良いお客さんが集まるお店なら、最高なボキャブラリーがどんどん入ってくるんです。

そういう意味でも、やっぱり修行なんですよね。人生、なにかを極めたいとか、大成したいとかってあるじゃないですか。僕の場合は、それがコミュニケーション。

おくりバントは、広告もやればブランディングもやる、総じて「コミュニケーションで解決しましょう」という会社なわけです。広告はコミュニケーションですからね。それでコミュニケーションができない人間が、広告とかを語るとかすごく滑稽じゃないですか

だから僕が飲み歩くのは、フィールドワークなんです。他の人たちがフィットネスクラブに通ったり、英会話スクールに通っているのと一緒。学びに来ているんです。ただ、心無い人からは毎日飲んで遊んでいるだけと勘違いされています。

もともと遊びが好きなのか、学びが好きなのか、鶏と卵みたいなものなんですけど。嫌なんです。子供時代からまっすぐ家に帰るのが。でも、一応、仕事が早く終わったときとかは家に帰るんです。そして家族が寝静まったら、飲みに行くわけです。

言ってしまえば不良中年です。次の日、朝9時から撮影の仕事があっても、朝5時まで飲むんですから、ちゃんと “不良ビジネスマン” してるわけです。でも、これが俺の生き方なんだから、文句言うなよみたいなことを心の中で言っています。

でも不良にもランクがあって、人畜無害な不良もいれば、本当に悪いことする不良もいるじゃないですか。ひとくくりにするなよ、と言いたいですよね。何事も経験しないと、スキルは上がっていかないじゃないですか。つまり、遊び尽くすと見えるものがあるよ、と。

「酒場は道場」本物が集まるから、常に教えを請う立場で通っている

6年前に中野に住み始めたんですけど、飲み歩いて1ヶ月経ったときに見つけたのが、ここ『BACAFE』でした。中野に来てのべ5,000軒以上を飲み歩きましたけど、5,000軒のうち今でも通っているところは5軒くらいしかありません

ここには週5で来ていて、今は私の男の隠れ家として通い倒しています。深夜に来ることもあれば、早い時間に来ることもあるし、昨日なんかは深夜2時に来て飲んでいました。

『BACAFE』に初めて来たときの印象は「変な人が多いなー」という印象。飲み屋って、いろんな人がいるでしょ。オシャレな人もいれば、モテる人、意地悪な人とかいろいろ。そして合う合わないがあって、自分に合う店、合わない店を見極めるには通うしかないんですよね。

あと、飲み屋によってはコミュニケーションが下手な客がいたりするじゃないですか? 他の客にウザ絡みしてくる人とか。でも、それってお店が悪いと思っていて。飲み屋は店主とかバーテンダーの良し悪しで、客も変わってくるわけです。

『BACAFE』はサラリーマンもいればミュージシャン、映画監督、経営者、そしてクリエイターもいれば、公務員の人も自営業の人もいる、いろんな人が集まる場所。でも全員に共通しているのは、行儀が良いということ。それはもう『BACAFE』の店主であるBAさんのおかげですよね

そしてみんな笑いをわかってるし、「それって本当に正しいの?」と常識を疑っている人たちが集まるから面白いなと。これからの時代、常識だけでは通用しないわけですから。

いろんな職種の人がいるんですけど、みんな共通にお金を払うわけです。お金を持っている持ってないとか関係なしに、ここに集まる人はみんな生き方がカッコいいし、「本物だな」と思える人たちばかり

たとえば僕はビジネス界隈では音楽とか映画とか詳しいほうだと思っていて。酒場と音楽って密接に関わってくるじゃないですか。だから飲み歩いていたら、自然と音楽について詳しくなるです……いま流れてるこの曲はわからないんですけど(笑)。

でも、『BACAFE』に来る人は映画監督とかミュージシャンとか俺なんかより、もっと詳しい人、本物がいるから、「俺、映画詳しいです」なんて怖くて言えないわけで。しかも映画詳しい人は音楽も詳しかったりするから、本当のガチのプロがここにいて。

だからここに来たら、僕は教えを請う立場なんですよ。上には上がいるから、常に学びの姿勢。

あと、昨日はプロスケーターの人がいて一緒に飲んでたんですけど、スケボーやらない人からしたら、スケーターのことよく知らないじゃないですか。でも話を聞くと、「あっ、そうなんだ」と思える話がいっぱいある。

つまり、各商売ごとに知らないことがあって、話を聞けば聞くほど、どんどん自分の世界観が広がっていく。酒場って昔から道場って言われていますけど、そういうことなんだなと。勉強する場所なんだなと気づきます。最近ではMBAに通ってると思っているほどです。

そういった本物が集まるからこそ、『BACAFE』でダサいと思われたくない。僕のクリエイティブ基準は、言ってしまえば『BACAFE』基準なんです。

クリエイティブっていちいち説明するのってダサいですよね。クライアントにはもちろん説明しますけど、見たものがすべてだと思うから、説明したくないですね。

でも、本当にこのクリエイティブでいいのかな、と思ってしまうときもあるわけで。そんなときに、『BACAFE』は自分の考えがあっているかどうかを確かめる場でもあったりします。

クライアント名や詳細は伏せますが、その場にいるクリエイターたちに企画のアイディアを話して意見をもらったりとか。だからおくりバントに仕事を依頼するというのは事実上、中野に集うすべてのクリエイターに仕事を依頼するのと一緒です。

そして俺のことを知ってくれている人がいるから、いろいろ相談もできるわけですよね。そして仕事の話もすれば、音楽の話もするし、ゾンビがもし中野に現れたらどこに逃げるかとか、ラーメンの話をするんです。40を過ぎたおじさんが下らないことを話してるんです。

こんな会話、無駄じゃないですか。でも無駄は無駄だと思ったら無駄ですけど、「あっ、なるほどな」と思ったときに無駄じゃなくなるんですよね

この前も、秋葉原に行列ができる二郎インスパイア系のラーメン屋があって、その横に人材紹介会社があるんですけど、スーツを着た女性が、人材紹介会社の列だと思ってラーメン屋の列に並んじゃってる、という話をしてて。人材紹介会社にそんな列できるわけないのに。すごくウケますよね。単純にハッピーじゃないですか? そういう話を聞くの

僕たちは情報を食わされている。行きつけは、自ら足を運んで探さなければ見つからない

プロ飲み師として言いたいことは、そのお店の周年パーティーに「来てください」と呼ばれて行くんじゃなくて、「あっ、今週は周年パーティーね」と “行って当然” という感じで行けるくらいの行きつけが見つかると、人生楽しくなるよね、ということです。

じゃあ、そういう行きつけをどうやって見つけるかと言うと、まずはひとりで行くこと。そしていいなと思う店を見つけたら、3日連続で通う。2日連続ではダメ。3日連続いったら、常連になれますよ。だって3日連続で通うとか余程好きじゃないですか、その店のことを。そうすればお店の人も興味を持ってくれますよね。

あと重要なのは、家の近くかどうか。どんな時間であろうと、行きたいときに行けるかどうかって大事で。しかも夜遅い時間に行くほうが面白いに決まってるじゃないですか。みんな酔ってるんですから。テンションも上がってて。

そして一番重要な事は家族の理解です。うちの場合は「BACAFE行ってくるわ」で妻にも子どもにも通じるんです。妻には、認識というより公認されてる店ということも重要です。だから、年に数回くらいは家族を連れてくるようにしています。ただ飲みに行ってる訳ではなく、地元活性化の活動に参加しているような雰囲気や、自分たちの生活には『BACAFE』が必要なんだという空気をつくることが重用だと思っています。

昨日も「BAさんに呼ばれてるからさ、ちょっと行ってくる」みたいなこと妻に言って飲みにいったんですけど、冷静に考えたら深夜2時に “呼ばれてる” ってなんだよ、という話ですよね(笑)。

「今日来てください」なんて言われたことありませんからね。でも、行っちゃんです。誰に頼まれるわけでもなく、行っちゃうんですよね。

それくらい『BACAFE』は自分の中で重要な存在で、『BACAFE』がなかったら、いまの自分はないだろうなと思います。心の中では戦略的業務提携しています。良いコミュニケーション、本当のコミュニケーションができる場所、それが『BACAFE』です。

そんな行きつけの店があると、人生ハッピーじゃないですか。でも、そういう店って、自分で探さないと見つからないんです。

レビューサイトで星3.6だから、とかそういうことじゃないんですよ。本当にそうなのか、と常に疑わないと。僕たちは情報を食わされているんですよね。でもお店を選ぶときは、情報ではなく、自分で足を運んで確かめることが重要で

そして、飲み屋の良さって値段に比例しませんし、人によっていいお店は違いますから、あなたはあなたに合ったお店を選んでください、ということ。自分と相性の良い人たちが集まってたら、楽しいじゃないですか。酒場はコミュニティだから、一緒にいて気持ちいい人がいる酒場は幸せですよね。

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