102937【後編】昭和×温泉人情旅「熱海温泉」時代が交差する路地を行く

【後編】昭和×温泉人情旅「熱海温泉」時代が交差する路地を行く

男の隠れ家編集部
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昭和の時代に新婚旅行や団体旅行で賑わった街、それが熱海。時代の流れとともに変貌を遂げつつも、昭和を彷彿とさせるものは今も息づいている。

(※その他の写真は【関連画像】を参照)

※この記事は2024年11月号に掲載されたものです。

■昭和と令和が交錯する街 何十年と続くレトロな店

多くの観光客が行き交う街中には、昔ながらの店が立ち並ぶ。

次に訪れたのは、熱海にある4つの町で運営する「熱海駅前温泉浴場」だ。この湯には35年ほど前に浸かったことがあるが、素朴な浴室はそのままだった。昭和時代の客はほぼ町内会の面々。しかし、現在は3分の2ほどが観光客で、利用客は多い日に80名ほどとか。

「ゆ」のマークがレトロな雰囲気。店頭には一番風呂を待つ常連客のためにベンチが用意される。

熱海の地名は海中から熱い湯が沸いていたことによる。その言い伝え通り、源泉は74℃ほどと高く、浴槽には加水して41℃まで下げた温泉が満たされている。しかし、それでも熱い。その日の当番だった柏木芳江さんはこう話してくれた。

「お客さんが加水できるのですが、お年寄りは熱い湯が好き。でも若い人はぬるい湯にしてほしい。お年寄りにぬるめてと言っても頑として聞き入れません。だから、お年寄りが湯から出たら、若い人は水入れろ水入れろって(笑)」

そのやり取りが微笑ましい。昭和の時代の銭湯では、そうした光景が見られたものだった。

「和田たばこ店」のレトロゲームやジュークボックス。

さて、次は「和田たばこ店」へ。たばこ店ではあるが、駄菓子やレトロゲーム、ジュークボックスが所狭しと並ぶマニアの聖地のような店だ。まさに漫画『三丁目の夕日』の駄菓子屋を彷彿とさせるが、店内のゲーム機器はほんの一部だというから驚き。

店主の和田好充さんに話を聞いた。

「私が小学生だった昭和50年代、熱海市内に駄菓子屋は15軒くらいありましたが、今はうちだけです。市内に住む年配者は口寂しくなってねぇと、小袋の駄菓子を買いに来てくれますし、観光客も訪れます。でも、やはり多いのは地元の子どもたちですね」

子どもたちとのやりとりを聞いてみると、熱海市内の子はほとんど挨拶して店に入って来るが、なかには黙って入る子も。すると和田さんは「挨拶すれば消費税おまけするよ」と話すのだという。

「年上の子が年下の子に話して聞かせている姿も見ました。子どもたちと話すのは面白いですよ」

まさに昭和の時代そのものの和田たばこ店の後に訪れたのがレストラン「スコット」。戦後まもなく開業した洋食店で、店内の雰囲気も味もまことに洗練されていた。

レストラン「スコット」。

ビーフシチューは、口に入れるとほろりとくずれるほどの柔らかさで、デミグラスソースの味わいも絶妙。同店の蓮見健介さんに、訪れた文化人について聞くと、次のような話をしてくれた。

「足しげく通っていただいたのは、熱海に別荘を構えておられた谷崎潤一郎、志賀直哉両先生でした。お二人はスコットの創業者の蓮見健吉の人柄と博識ぶりが気に入って、ご自宅や別荘で料理を作ってもらっていたと聞きます」

一年の半分以上を熱海で暮らした作家の森村誠一さんが訪れたか聞いてみると、スコットを愛した一人だという。「海と山と緑の風景の妙と、おおらかな空気がいい」。

森村さんが熱海の良さについて語っていた言葉を思い出す。そのおおらかな空気は、熱海に住む人々が醸し出すものでもあるのだろう。

熱海を訪れたらぜひ、路地をのぞいてみたい。そこに昭和が──。
夜になると日中とは違う趣の熱海の街が現れる。

夜の帳がとっぷりと下りた時刻に48年間続く「スナック亜」を訪ねると、看板に明かりが灯っていた。ママの佐保公己枝さんが作ってくれたウイスキーの水割りを傾けながら会話を楽しむ。

佐保さんが母親から店を継いだのは17年前で、それまでのカラオケをやめ、会話が楽しめる店に変えたという。

「スナック亜」を訪ねた。

「平日のお客さまはほぼ熱海在住の経営者の方で、役職の重圧を口にされることもあります。そんなとき、私と、あるいはお客さま同士の会話で心が和やかになることがあります。また、そうであってほしいと私は願っています」

最後に訪れたのは射的やスマートボールが楽しめる「ゆしま遊技場」。店内も看板もすべて戦後まもない創業当時のままだというが、客の中心は年配者から若い男女へと移っている。

しかも、客がとぎれることがない。射的に興じながら賑やかに楽しんでいる。その様子に、昭和と令和の時代が交錯する瞬間を見たような気がした。

昭和40年代の熱海には遊技場が40軒もあった。残ったのはたった1軒。
標的は小さい人形とポイントが書かれた紙。紙はなかなか破れない。

⚫︎多くの路地が交差する

熱海は路地の街でもある。熱海に長く住む人でも、通ったことのない路地もあるのだという話を聞いた。懐かしさの残る路地裏も多くある。

⚫︎地元民から観光客まで利用「熱海駅前温泉浴場(田原浴場)」(創業 昭和22年)

打ち身や切り傷などに効果があるとされ、動脈硬化や高血圧症を緩和することから長寿の湯ともいわれるナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉。

500円で入れる源泉かけ流し温泉。
素朴さ漂う浴室の様子。

静岡県熱海市田原本町8-16
TEL/0557-81-3417
営業時間/14:00~21:00
定休日/水曜

⚫︎レアゲームが並ぶ駄菓子屋「和田たばこ店」(創業 昭和28年)

駄菓子の種類はあまりに多いため不明。店内のゲーム機は10円玉を入れて遊ぶタイプのゲームが主流で、昭和51年(1976)から製造されたルーレットゲームや、パチンコ玉をはじきハンドルを回すアクションボールなど。時間を忘れる楽しさ。

ゲーム機を揃えたのは店主の好充さんの父・員昌さんで、東京でアメリカのゲーム会社に勤務後、独立してゲーム機のリース業と販売業を立ち上げた。

員昌さん
店主の好充さん

静岡県熱海市昭和町4-27
TEL/0557-83-6000
営業時間/10:00~17:00
定休日/不定休

⚫︎文豪たちも通ったレストラン「スコット本店」(創業 昭和21年)

昭和21年(1946)創業、熱海を代表する老舗洋食店。現在は営業していない旧館の向かいにある本館は、昭和51年(1976)に完成。名物料理のビーフシチュー(3850円)はまさに絶品だ。

スコットのデミグラスソースは、和牛のバラ肉を大きな塊のままデミグラスのもととなるソースに入れ、5、6時間煮込み、さらにその工程を一週間繰り返す伝統の製法によって完成する。

静岡県熱海市渚町10-13
TEL/0557-81-9493 
営業時間/12:00~13:30(最終入店)、17:00~19:00(最終入店)
定休日/木曜

⚫︎風情を残す大人の社交場「スナック亜」(創業 昭和53年)

昔、花街だった地域に「スナック亜」はある。そのため昭和時代の客には芸者連れが多かったという。スナックのある建物は元々遊廓で、その外観には名残りの家紋の跡を見ることができる。

「スナックを始めた母は85歳になりますが、今も毎週日曜は一人で店に出ます」と佐保さん。ウイスキー主体でボトルキープとショットもあり。カウンター5席、テーブル4席。

静岡県熱海市中央町6-4
TEL/0557-82-3451
営業時間/20:00~25:00
定休日/不定休

⚫︎市内唯一の遊技場「ゆしま遊技場」(創業 昭和28年)

昭和28年(1953)創業。射的は500円で8発、スマートボールは15発打つことができ、標的を倒せたポイントによって干支の置物や陶磁器の人形などの景品と交換できる。

遊技もレトロだが、景品もレトロというところが一興といえる。訪れた時間帯は若い女性客が多く、感情を爆発させながら楽しげに遊技に興じていた。

今では珍しいスマートボール。
標的の人形が並ぶ光景は壮観。

静岡県熱海市銀座町5-9
TEL/0557-81-2807
営業時間/13:00~19:00(土曜は22:00)
定休日/木曜

熱海温泉
問い合わせ/熱海市観光協会
TEL/0557-85-2222
アクセス/(車)東名高速道路「厚木IC」より約1時間。
(電車)JR「東京駅」より東海道新幹線で約40分「熱海駅」下車。

※この記事は2024年11月号に掲載されたものです。

文/相庭泰志 撮影/遠藤 純

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