■那須連山×三斗小屋温泉
⚫︎活火山の岩場を歩き 高山植物の花実を愛でる
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
※この記事は2024年10月号に掲載されたものです。

那須ロープウェイの山麓駅を出発したゴンドラは、ぐんぐんと雲の高さに近づき山頂駅へ。ここは栃木県那須町にそびえる茶臼岳(標高1915m)の9合目。一気に視界が開け、眼下に山の裾野が広がる。
今日歩くのは、茶臼岳を主峰として朝日岳、三本槍岳、南月山、黒尾谷岳の五峰が並ぶ那須連山。山の中腹にある秘境の湯「三斗小屋温泉」の宿をめざす。山頂駅からは約4㎞。山道は比較的整備され、初心者の自分の足では3時間ほどのコースとなる。


まず向かうのは茶臼岳の頂上だ。栃木県随一の活火山は、登るにつれて小石が増え、岩がごろごろと転がる「ガレ場」が現れる。足場の取り方に注意しながら、岩を手でつかんで登り進む。早くも息が上がり岩に腰を下ろすが、振り返れば彼方に広がる夏山の緑がなんとも清々しい。

軽やかに下山して行く年配男性2人に「がんばって」と声をかけられ、なんとか山頂へたどり着いた。うっすらと硫黄の香りがする。見渡せば、遮るもののない360度の大パノラマ。那須高原が一望でき、遠くには福島の山々の影まで見える。
頂上にある那須嶽神社の祠に手を合わせ、次にめざすのは赤い屋根の「峰の茶屋跡避難小屋」。歩きながら、白く小さな花が集まって咲くシラネニンジンや、ブルーベリーのような実を付けたクロマメノキが目を楽しませてくれる。



夏山の天気は変わりやすい。レインウエアがぱらつき始めた雨粒をはじく。那須連山は低山と高山の中間とはいえ、一般的な登山装備が必要だ。各所に道標はあるものの、電波に頼れない山の上では紙の地図も用意しておきたい。峰の茶屋跡避難小屋一帯は風の通り道で、ザックに付けた熊鈴がチリーンチリーンと大きく鳴る。風雨が収まるまでここで昼食とする。
晴れ間が見えたことを確認して、再び出発。足元には岩場や砂利の道が続くが、岩石に目を向けるのも面白い。鉄分を含んでまだらに赤みを帯びた石、幾重もの層が縞模様を描く巨岩と、自然の造形美に改めて気づかされる。


急斜面の細い砂利道を横移動して慎重に抜け、次の避難小屋に到着する。ここまで来れば、ほかの登山客も目的地は同じ。「そちらも三斗小屋へ?」と言葉を交わす。
三斗小屋温泉は、平安時代末期の康治元年(1142)に発見されたと伝わる、那須七湯の一つ。会津から江戸への陸路として元禄8年(1695)に会津中街道が開通後、宿場から約1.8㎞の三斗小屋温泉も、山岳信仰の修験者や湯治客で賑いをみせた。
そんな歴史深い三斗小屋温泉は、最盛期の明治初期には5軒の宿があったが、現在は2軒が冬場を除く期間のみ営業しているそうだ。三斗小屋温泉の名の由来は諸説あり、米を3升も食べないうちに疾病が全治するほど効能のある温泉で、3「升」が(10倍の単位の)「斗」に転じたとも、この峰路を行くには牛といえども「3斗」以上の米を運べないからとも伝わる。

やがて登山道は樹林帯に差し掛かり、ウグイスが遠くで良い声を響かせる。苔むした岩を見ながら歩いていると、「延命水」と書かれた山道脇の湧き水に出合った。手ですくうととても冷たく、口に含めばまろやかでほのかな甘みがする。
ここまで来れば温泉地までもう一息。30分ほど林道を歩くと、突然山小屋が現れた。入口の看板の文言にホッと息をつく。
“おつかれさまでした。絶景野天風呂、スタンバイオーケイ”

●登山ルート
【所要時間:片道約3時間】
那須ロープウェイ山頂駅→茶臼岳→峰の茶屋跡避難小屋→沼原→三斗小屋温泉

アクセス(電車)/東北新幹線「那須塩原駅」よりバスで約1時間10分、那須ロープウェイ山麓駅下車
問い合わせ/那須観光協会 0287-76-2619
文/中村さやか 撮影/遠藤 純
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