誰しもが一度は憧れを抱く、自分の好きなモノだけに囲まれた趣味部屋。限られた空間に所狭しと並んだコレクションは、ギターにバイク、模型、スニーカー、植物など主人の個性によってさまざまだ。
趣味を追求することで生まれる空間と時間、それはミニマリズムの対極にある究極のマキシマリズム。情熱とロマンあふれる特別な部屋を紹介しよう。
(※その他の写真は【関連画像】を参照)
※この記事は2025年10月号に掲載されたものです。
■「高校生の時分より60年以上、夢中で集めました」
●中村浩訳さん /@JapaneseFolkToys
●収集した郷土玩具は今や数十万点に!?
郷土玩具というもの、昔はどこの家でも5つや6つはあったのではないだろうか。土鈴だったり凧やこけしだったり、張り子の赤べこや虎だったり。
そうしたものを飾る人が少なくなって久しい。時に旅先の土産物として見かけることはあっても。だがコレクターは現在も多いのだ。日本郷土玩具の会会長の中村浩訳さんは、筆頭といえる一人だ。
所蔵する郷土玩具はとうてい数え切れない。10万点を確認したのはもうずいぶん昔のことだ。
「それからだいぶ増えているので、もうわからないですね」と中村さんは笑う。

それゆえ一つの部屋には収まらない。置いている場所は数カ所に分散している。そのうちで、棚などに並べて一望でき、趣味部屋と呼べそうなのは、住まいの2階にある書斎と、経営するデザイン事務所の1室だ。
まずは書斎に案内していただく。いや、これは確かにスゴイ量である。棚には高さほんの1、2㎝程度の小さな人形から数十㎝はある張り子までぎっしり。数えようがないのもわかる。ただ棚ごとにジャンルは分けてある。
「このあたりは鴻巣の赤物、ここは弘前の人形笛、あっちは天神ですね。この小さいのは金沢の福徳煎餅に入っている土人形です」と教えていただくも四方に目が泳ぐ。
だが、1点ずつに焦点を合わせて見ていけば、その一つひとつのなんと愛らしいことだろう! 作った人の思いや、手の動きまで伝わってくるようだ。
「重ね置きができないから場所を取るのが悩みなんですよ」という言葉にも深く首肯する。




●いずれ消えゆく職人の技を慈しむ
中村さんが郷土玩具に惹かれたのは郷里の浜松市で暮らしていた高校生のときだ。現在は82歳。キャリアはじつに長い。
「地元商工会議所で展示会があり、そこに浜松の張り子が出ていたんですよ。一緒に行った兄ともども一瞬で心惹かれました」


それ以来、兄と競うように集めてきた。収集家でもあった画家の武井武雄が昭和5年(1930)に出した本『日本郷土玩具』には、各地の作り手の住所が載っていた。
遠方であっても訪ねて旅したり、手紙を出して送ってもらったりもした。なぜそこまでの熱量を持って惹かれたのか。
「なぜでしょうねぇ。ただただ好きになったからとしか……」

地元の日本郷土玩具の会支部には高校2年で入会した。本部は昭和16年(1941)に発足している。当時は郷土玩具ブームだったのだ。兄は浜松で支部長も務め、自宅で毎月の例会もしていたそうだ。
中村さんによると、ブームは明治時代に始まったそうだ。清水晴風というコレクターが、画集『うなゐの友』を出した。“うなゐ”とは子どもの髪型の意味だ。

晴風の没後は日本画家の西沢笛畝が引き継ぎ、10編までが刊行された。江戸期の文化を懐かしむ風潮のなか、郷土玩具は流行し、大正、昭和と続いた。それはコレクターでない一般の人たちにも波及した。
日本の郷土玩具にはある特色がみられるという。祈りの心が込められていることだ。
「大陸から原型が伝わったものも多いですが、あちらでは子どもが遊ぶか祠に奉納するかです。けれど日本ではそれぞれにおまじない的な意味をつけていきました」

例えば赤く彩色されたものは疱瘡除けになる。土を舐めると幼児の疳の虫が治まるとして土笛にする。犬張り子は子どもの無事な成長を祈る。虎の張り子はコレラを防ぎ、天神像は学業成就の祈願だ。
「どれも土地の紙や土などを材料に作られました。木工産地では木っ端やおがくずを使っています」
地域での祈り、素材、作り手が合致して生まれたのが郷土玩具なのだと知る。近年は作り続ける人も減った。若い世代に注目されつつある今は、技法を引き継いで別の場所で作る人たちもあるが、「それはもはや郷土の玩具ではないんですよね」

続いて事務所の趣味部屋にも赴く。貴重な品々が膨大に並ぶ室内は自宅同様、圧巻だ。さらに、中村さんが倉庫と呼ぶアパートにも並べきれない玩具が人の通るすき間もないほどに……。
本来の郷土玩具は消えていく。それはしかたないことと中村さんは言う。けれども作り手があるうちはできるだけ買う。
「買えば、職人は1日生きられるんです」という言葉は重い。
■全国で作られていた郷土玩具とは?
日本各地で、土地の文化を背景に作られた玩具。紙、土、木などを使い、縁日などで売られた。遊ぶためだけでなく疫病退散、厄除け、家内安全など祈りを託した品が多い。

■勉強を促す工夫「三大文具」
三大文具と呼ばれる人形の形の京都の硯と奈良の墨、兵庫の有馬の人形筆。見た目の楽しさで子ども心をくすぐる。筆は文字を書くよう立てると軸の先から人形が顔を出す。

■郷土玩具にまつわる著作
豊富な知見を生かした著作は複数。『全国厄除け郷土玩具』はコロナ禍を機に出版。全日本だるま研究会会長でもあり、だるまに特化した本も出している。

全国厄除け郷土玩具 疫病退散!入手先・由来・ご利益のすべてがわかる
出版/誠文堂新光社
価格/1980円
達磨からだるま ものしり大辞典
出版/(株)スプーン
価格/2530円
●BEST ONE!
最近、骨董市で手に入れたもの
手に入れるたびに喜びを感じた若い日と違い、研究に重きを置くようになったのが寂しいと話す中村さん。希少な品は見逃せない。
見つけた最新は、滋賀県水口町で作られた篭、雛飾りか。下は鳥羽で貝殻で組み合わせて作った兜。

●ROOM DATA
広さ/50㎡
使用年数/50年
趣味/郷土玩具
文/秋川ゆか 撮影/森本真哉
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