三菱一号館美術館10周年を記念する本展は、19世紀末パリの前衛芸術家グループ「ナビ派」の画家たちが追求した親密なテーマの中から「子ども」に焦点を当て、都市生活や近代芸術と「子ども」との関係を探る展覧会。フランスのル・カネにあるボナール美術館の協力のもと国内外から集められた、ボナール、ヴァロットン、ドニ、ヴュイヤールの作品。ナビ派を中心とした画家たちが描いた「子ども」たちに出会える貴重な機会となるだろう。

身近で不思議な存在 描かれた“子ども”の世界

“子ども”が画題として登場するのは、古いことではない。19世紀以降の近代絵画の世界で、子どもは大人とは異なる無垢さを持つ特別な存在として「発見」され、新たな芸術表現の原動力となった。それまで絵画に描かれた子どもは幼子キリストか天使くらいであり、人間の子どもはあくまでも〝小さな大人〟として扱われ、重要視されてこなかった。こうしたなか、哲学者ルソーが教育論『エミール』を上梓したことをきっかけに子どもを見つめ直す動きが生まれる。19世紀の画家たちもその活動拠点・パリを舞台に、さまざまな子どもの姿を描いた。
 本展では印象派に続く芸術家グループとしてパリで起こったナビ派結成に影響を与えたゴーギャン、ゴッホに始まり、ナビ派の中心メンバーであったボナール、ドニ、ヴュイヤール、そして最後に加わったヴァロットンの油彩や素描、版画の他、画家自身が撮影した写真など、個人蔵の作品を含め約100点を展示。都市の公園や街路、庭、室内など画家の身近な風景とともに描かれたナビ派の“子ども”の作品を紹介する。

マルセル・ルーランの肖像

フィンセント・ファン・ゴッホ 1888年
油彩/カンヴァス 35.2×24.6㎝ ファン・ゴッホ美術館蔵

Van Gogh Museum,Amsterdam(Vincent Van Gogh Foundation)

ナビ派の画家たちはゴーギャンやゴッホの単純化され、簡略化された線や鮮やかな色彩に魅了され、それぞれに独自の表現を追求した。ゴッホが描いたこの子どもは、懇意にしていた郵便配達夫の娘である。

雄牛と子ども

ピエール・ボナール 1946年
油彩/カンヴァス 94.6×118.5㎝ 個人蔵

Collection Prof.Mark Kaufman

亡くなる前年に描かれた最晩年の作品。ナビ派時代には単純化した線と構図、平面的な色彩配置が特徴的だったが、この絵では淡い色調とそれらが混じり合った画面から、夢のように自由な子どもの魂の風景が感じられる。

ル・グラン=ランスの家族

ピエール・ボナール 1899年頃
油彩/厚紙 20.0×50.0㎝ 個人蔵

©Frédéric Aubert

義弟クロード・テラスと妹アンドレ一家の子どもたちが描かれている。ル・グラン=ランスにあった別荘には、親族が頻繁に集まっては時を過ごしたという。家族の幸福な情景。

親密派と呼ばれたナビ派が描いた多彩な都市と子ども

 平面的で簡略化された線と鮮やかな色彩が特徴とされるナビ派だが、その絵が一堂に集まる本展では特に、画家ごとの特徴も見えてくる。
 例えば〝日本かぶれのナビ〟と呼ばれたボナールは、屏風や浮世絵を思わせる画面構成に気づく。ヴュイヤールの作品では点描を思わせるタッチに、ヴァロットンの版画では一見無垢な子どもの裏に見える、辛辣な傍観者として姿に出会う。ここで紹介するメンバーの中で唯一、子どもがいたドニは、自らと子どもを理想化された家族像として描いたり、現在の記録写真のように娘を描くなど、親としての視点にもあふれている。
 また、19世紀から20世紀にかけてのパリで活躍したナビ派は、当時の最新技術であったカメラを持ち歩き、身近な子どもを撮影することも多かった。本展ではボナールが撮影した写真作品も同時に展示。画家が子どもの何に魅力を感じていたのかを、その絵画作品と合わせて考察できる貴重な機会になるだろう。

赤いスカーフの子ども

エドゥアール・ヴュイヤール 1891年頃 油彩/厚紙
29.2×17.5㎝ ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

National Gallery of Art, Washington, Ailsa Mellon Bruce Collection, 1970.17.90

街角の風景を撮影したスナップショットのような画面構成が、いかにもモダンな作品。少女が肩に巻いたスカーフの赤い点描とワンピースドレスの水玉模様が、沈んだ茶系の色調の中でより生き生きと映えて見える。

青いベッドにいる祖母と子ども

エドゥアール・ヴュイヤール 1899年 油彩/厚紙
46.5×53.0㎝ ヴィンタートゥール美術館蔵

Kunst Museum Winterthur,Ankauf mit Mitteln der Jubilaumsstiftung Kunstverein Winterthur,2010 c SIK-ISEA,Zurich(Philipp Hitz)

ヴュイヤールの母と、前年に生まれた姉の娘アネットとの日常のワンシーンを描いたもの。ベッドや壁が点描で表現されており、色調の落ち着いた美しさ、生命力に満ちた幼子の丸い肩の形などに、静かな幸福感が漂う。

サクランボを持つノエルの肖像

モーリス・ドニ 1899年
油彩/厚紙 41.5×31.7㎝ 個人蔵

Catalogue raisonné Maurice Denis,
photo Olivier Goulet

絵の左上にはには画家の娘・ノエルの名前と3歳、という文字が記してある。安心しきった表情やふっくらとした幼い手、その手が掴む輝くように美しいサクランボが、記録写真以上に、娘を見つめる父の愛情を物語っているようだ。

赤いエプロンドレスを着た子ども

モーリス・ドニ 1897年 
油彩/厚紙 33.0×42.0㎝ 個人蔵

赤いワンピース姿が可愛らしい少女が、花壇の前を歩いている。ドニの娘を描いたのだろうか。点描風のタッチで構成された本作は、厚紙にラフに表現されている。ドニの画家としての実験的な試みの痕跡がうかがえる。

『息づく街パリ』口絵

フェリックス・ヴァロットン 1894年 ジンコクラフィ/紙
21.8×31.4㎝ 三菱一号館美術館蔵

パリの街角をモチーフに制作された版画にも子どもが登場する。さまざまな階級や職業の大人に混じり、都市を闊歩する子どもには、可愛いだけではない、シニカルな観察者としての存在感が漂う。

公園、夕暮れ

フェリックス・ヴァロットン 1895年
油彩/厚紙 18.5×48.5㎝ 三菱一号館美術館蔵

夕暮れ時のパリを頻繁に散策したというヴァロットン。リュクサンブール公園では遊びに興じる子どもや家族を観察、その様子を作品に残している。子どもが着ているセーラー服も、当時の流行だった。

【展覧会情報】
三菱一号館美術館/開館10周年記念
画家が見たこども展
ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン

会期:2月15日(土)~6月7日(日)
会場:三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時30分~17時30分(金・土は~20時。入館は閉館の30分前まで)
休館日:10時~18時(祝日を除く金・第2水、4月6日と会期最終週の平日は~21時。入館は閉館の30分前まで) 月(祝日、4月6日、6月1日、トークフリーデーの3月30日、4月27日、5月25日は開館)
観覧料:一般1700円ほか
アクセス:JR「東京駅」丸の内南口より徒歩5分
URL:mimt.jp/kodomo