古くは漢詩の『全唐詩』にルーツがあると言われている“読書の秋”。夏目漱石は『三四郎』の中で「燈火親しむべし」と秋の読書について触れているが、刊行から100年以上経った今でも、本を読むことは秋の過ごし方のひとつだろう。

本記事では、秋の夜長にこそ読んでもらいたい小説を5作紹介する。ぜひ実際に手にとって、ゆっくりと流れる時間を楽しんでもらいたい。

● ①『三体』

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2008年に中国で刊行され、累計発行部数は全世界で2,900万部にものぼるSF長編。日本では2019年から第1部が発売されたが、21年時点で累計37万部に達し、同年5月には完結編となる3作目が発刊された。著者の劉慈欣(リュウ・ジキン)は、SF界最大の賞「ヒューゴー賞」を本作で受賞している。

<あらすじ>

物語は、1967年に中国で起きたある出来事から始まる。科学者の葉文潔(イェ・ウェンジエ)は、父であり物理学者の葉哲泰(イェ・ジョータイ)が、公開処刑される場面を目の当たりにしてしまう。人類に絶望した彼女は、地球の文明を立て直すために外部の力を借りることを決意。そして、軍事施設からのスカウトを受け、宇宙の彼方にいる異星人へとメッセージを送ったのだ。

過去・現代・ゲーム世界それぞれの物語がつながる、壮大かつ緻密なストーリー展開を楽しんでもらいたい。

===書籍の詳細===
タイトル:三体(『三体Ⅱ 黒暗森林』、『三体Ⅲ 死神永生』)
著者・翻訳:劉慈欣(著)、大森望 ほか(訳)
出版社:早川書房
価格:2,090円(税込)
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● ②『村上海賊の娘』

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『のぼうの城』や『忍びの国』などの作品を手がけた和田竜氏の歴史小説。累計100部を超え、2014年の本屋大賞を受賞したほか、吉川英治文学新人賞にも輝いた。室町〜戦国期に台頭していた瀬戸内海の村上水軍を題材に、本作の主人公であり村上水軍当主の娘である景(きょう)が男勝りの活躍をみせる。

<あらすじ>

戦国時代において最強の海賊とも言われていた村上水軍。当主の武吉には娘・景がいたが、彼女は気性が荒く海賊働きに明け暮れる日々を送っていた。しかし、織田信長と大坂本願寺の戦いが彼女を激戦の中へと巻き込んでゆく。

迫力満点の筆致で描かれた本作は、戦いの臨場感を存分に味わえる作品だ。

===書籍の詳細===
タイトル:村上海賊の娘(上・下巻)
著者:和田 竜
出版社:新潮社
価格:1,760円(税込)
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● ③『花のれん』

出典:Amazon

処女作の『暖簾』を刊行し、数々のベストセラーを生み出した山崎豊子氏。もともと新聞社に勤めていたが、本格的に作家へと転身するきっかけとなった作品が『花のれん』である。直木賞を受賞した本作は、吉本興行を創業した吉本せいをモデルに、関西の商人らしい生き様が丁寧に描かれている。

<あらすじ>

今では“お笑の街”として知られる大阪が本作の舞台。主人公の多加(たか)は船場に嫁いだが、相方の吉三郎は毎日のように道楽に興じる頼りない夫であった。ある日、彼女は夫に対して道楽を本業にすることを提案し、寄席をオープンさせるも夫が道半ばで急死してしまう。夫亡き後、覚悟を決めた多加は女興行師として奮闘することに。

困難にぶち当たっても強く生きる多加の姿が、読者に笑いと感動をもたらしてくれるだろう。

===書籍の詳細===
タイトル:花のれん
著者:山崎豊子
出版社:新潮社
価格:605円(税込)
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● ④『漂流』

出典:Amazon

著者の吉村昭氏は、1966年に『星への旅』で太宰治賞を受賞した辣腕の作家だ。膨大な史料を読み解き細やかな取材を経て生み出された作品は、どれも読み応えの十分なものばかり。中でも1976年に刊行された『漂流』は、江戸時代の史料を元に無人島に流れ着いた男たちの苦闘が描かれている。

<あらすじ>

全国規模の飢饉や打ちこわしなどが起こった天明年間。主人公の野村長平は土佐の船乗りだったが、激しい風雨に遭い長平を含む3名が無人島へ流されてしまう。漂流した先では湧水もなく、海鳥の肉や卵、海藻などしか口にできるものはなかった。絶望的な状況の中、仲間たちは次々と倒れていったが、長平はただひとり生還を果たす。

後に無人島長平とも呼ばれた彼は、どうやって無人島で12年も生きられたのか。本書を通じて男たちの生き様を感じてもらいたい。

===書籍の詳細===
タイトル:漂流
著者:吉村 昭
出版社:新潮社
価格:880円(税込)
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● ⑤『夜市』

出典:Amazon

最後に紹介する『夜市』はホラー小説。本書にはタイトルにある『夜市』だけでなく、『風の小道』という作品も収録されている。著者の恒川光太郎は本書で第12回日本ホラー小説大賞を受賞しており、直木賞候補にも選ばれた傑作だ。

<あらすじ>

本作品の舞台となるのは夜市。主人公の裕司は、大学の友人・いずみを誘い夜市へと向かった。薄暗い森の中、鬼火と人魂に照らされた市場では、「なんでも斬れる剣」や「老化が遅くなる薬」などが売られている。しかし、裕司が夜市へときた目的は、野球選手の才能と引き換えに差し渡した“あるもの”を取り返すためだった。

独特の世界観で構成された本作が、秋の夜長の雰囲気をぐっと高めてくれるだろう。

===書籍の詳細===
タイトル:夜市
著者:恒川光太郎
出版社:KADOKAWA
価格:572円(税込)
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● 本の世界に浸るひとときを

SFやドキュメンタリー、ホラーなど様々なジャンルの書籍を取り上げたが、いずれも読み応えのあるものばかりだ。通勤中や家事のちょっとした空き時間に読んでも良いが、ゆっくりと心を落ち着けて秋の読書を楽しんでもらいたい。