日本三大うどんのひとつに数えられる「水沢うどん」。群馬県渋川市伊香保地域の名産で、東京から日帰りで行って味わうことができるが、現地まで食べに行ったという人は意外にも少ないかもしれない。なかには、その存在すら知らないという人もいるはずだ。

うどんの名産と聞くと、香川県の「讃岐うどん」や秋田県の「稲庭うどん」が知られているが、なぜ群馬県でうどんが名産になったのだろうか。隠れた関東の美食「水沢うどん」の魅力と、群馬県のうどん事情を紹介する。

●水沢うどんについて

日本三大うどんに数えられる水沢うどんには、どんな特徴があるのだろうか。その歴史からおいしさの特徴まで、水沢うどんの知られざる魅力を紐解いてみよう。

▷水沢うどんの起源

水沢うどんの起源は、安土桃山時代の天正(1573年〜1592年)の頃にさかのぼる。

水澤寺(水澤観世音)の参拝客向けに、地元産の小麦と水沢の湧き水を使った手打ちのうどんを振る舞ったのが始まりといわれている。水澤観世音の参拝客のみならず、伊香保温泉を訪れた湯治客も水沢を訪れ、おいしいうどんを味わっていたのだろうか。

しかし、そもそもこの地でうどんが供されるようになったのはなぜだろう。一説によると、水澤寺を開いた高麗の渡来僧・恵灌(えかん)が、うどんの製法をこの地に伝えたといわれている。水澤寺は推古天皇・持統天皇の勅願によって、1300年前に恵灌によって開基された。もしかすると、その時代からうどんが打たれていたのかもしれない。

▷水沢うどんの特徴

水沢うどんは、水沢の清らかな水と小麦、塩だけで作られており、つなぎは使われない。製法も独特で、天候を見極めながら20以上もの工程を経て2日かけて作られる。

そうしてできた麺は、透明感のある艶やかさとみずみずしい見た目、つるつるとした喉越しと強いコシが特徴。ざるで供されるのが基本で、熟成されたうどん本来のおいしさを堪能できる。

また、水沢うどんは麺だけでなく「つゆ」にも特徴がある。麺のおいしさを一層感じられる醤油だれのほか、まろやかな味わいのゴマだれを使う店もあるようだ。

現在、群馬県渋川市伊香保の水澤寺の参拝道は「水沢うどん街道」と呼ばれており、十数軒のうどん店が軒を連ねている。店によって味わいが異なるので、食べ比べてみるのもお勧めだ。そして、群馬県の名産であるマイタケを天ぷらで供している店舗もあるので、水沢うどんと共にぜひこちらも楽しみたい。

●群馬県の知られざる「粉食」文化

群馬県には水沢うどんのほかにも、特徴的なうどんがある。うどんだけを見ても多彩さを感じられるわけだが、それには群馬県の意外な食文化も影響しているようだ。

▷将軍家に献上されたうどん

なんと、群馬県には県内だけで三大うどんと呼ばれるものがある。通称「ひもかわ」と呼ばれる、平べったい幅広麺の「桐生うどん」と、館林の地下水を使って作られるコシの強い「館林うどん」、そして水沢うどんだ。

館林うどんは江戸時代中期に将軍家に献上されたという記録が残っており、当時からうどんが名産だったことがわかる。

▷小麦の栽培に適した土壌

群馬県は年間を通して晴天が多く、水はけの良い土壌がある。こうした環境は小麦の栽培に適しているため、古来、小麦栽培が盛んだ。

現在でも全国有数の小麦の産地のひとつで、日清製粉グループの前身「館林製粉」が群馬県館林市にあったことからも、良質な小麦が栽培されていることがわかる。

▷うどんがうまいのは「粉食」の文化があるから?

良質な小麦がとれるとあって、昔から群馬県には「粉食」文化があるようだ。例えば、群馬県民に愛される「焼きまんじゅう」。小麦粉で作った、餡が入っていない素のまんじゅうを4つほど串に刺し、そこに甘い味噌だれをたっぷりと塗って焼き上げる。

また、農家では昔から客をうどんでもてなす文化があったようで、そのほかに、群馬県を代表する郷土料理「おっきりこみ」も、もちろん小麦麺。おっきりこみは、世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」を支えた養蚕農家を中心に食べられていたという。群馬県では小麦を使った食文化が盛んなのだ。

水沢うどんが日本三大うどんに数えられているのは、こうした「粉食」が根付いている群馬県の名産だからこそ、といえるのかもしれない。

●水沢うどんからわかる日本の「うどん」の豊かさ

群馬県だけでも多彩なうどんが存在していることからもわかるように、全国規模で見ると、さらに多種多様なうどんが存在する。というのも、水沢うどん以外にも、さまざまなうどんが日本三大うどんに名乗りを挙げているからだ。長崎県五島列島の「五島うどん」や富山県の「氷見うどん」、愛知県の「きしめん」など、どれも日本三大うどんと呼ぶにふさわしい個性あるうどんばかり。

歴史や製法も異なるそれぞれのうどんは、甲乙つけられるものではないだろう。個性ある味わいが楽しめる日本ならではの食の豊かさに感謝しながら、自分の舌で「三大うどん」を決めてみるのも悪くないかもしれない。