暖炉の暖かさに迎えられ心身をリセットする時空間
水を張ったばかりの田んぼに小さな青い稲がかすかに揺れている。その水面には未だうっすら雪を頂いた北アルプス・常念山脈の山稜が鏡のように映り込み、湧水の水音が響く道端には、ほのぼのと道祖神が微笑む。雪解けで現れる山の雪形を待って田植えが行われるが、その光景は安曇野の初夏の風物詩となっている。
北アルプスの高嶺を西に仰ぎ、湧水が育むわさび園、点在するアートミュージアムや温泉施設など、美しい山岳風景に個性的な魅力が溶け込む信州・安曇野。訪れた「休暇村 リトリート安曇野ホテル」は、そんな安曇野の穂高温泉郷に一昨年4月にオープンしたリゾート温泉ホテルだ。
赤松と落葉樹が枝を広げる静かな森に佇む煉瓦色の建物。エントランスの扉が開いて中に入ると、まず目に飛び込んでくるのが「暖炉ラウンジ」だ。
高さ約10mの圧巻の吹き抜け空間に端正なフォルムの暖炉が設置され、薪の爆ぜる音と共に炎が揺らめいている。この瞬間から非日常が始まるのを予感させてくれる。
暖炉の右手には天井の高さまであるガラス窓。窓は季節の風景を映し出す大きなピクチャーウインドウで、その存在感は目を見張るほどだ。さらに左手にも広々とした吹き抜け空間が広がり、モダンな照明やチェアがレイアウトされている。
それぞれには「陽だまりラウンジ」「木漏れ日ラウンジ」、庭には「陽だまりテラス」「陽だまりデッキ」といった素敵な名のついた場所があり、どこででも寛げるよう随所に椅子やテーブルを設置。
それらの多くは松本や飛騨の有名工房のデザイン家具が用いられ、木のぬくもりと安曇野をイメージした内装となっている。
〝リトリート〟には隠れ家、休息場所という意味があり、日常を離れ心身をリセットしてほしいという思いが込められている。
チェックインを済ませたら、陽だまりラウンジでひと休み。ラウンジにはフリードリンクコーナーが常設され、滞在中、コーヒーや冷たい飲み物などが飲める。コーヒーを片手にテラスに出ると、陽の光が降り注ぐ緑が目に眩しいほど。耳に届くのは、木々を揺らす風の音だけだ。
客室は和洋室タイプで、スタンダードフロアと、テラスや内風呂が付いたちょっと贅沢なプレミアムフロアがある。いずれも洗練されたインテリアとゆったりとした造り。部屋の窓にも安曇野の自然が映り、居心地が良い。しばし部屋で寛いだ後は、浴衣に着替えて大浴場へ。
スタンダードフロアの客室も広さは40㎡余のゆったり空間。スタンダード、プレミアム共に部屋の内装は全て和洋室タイプで、デュベタイプの寝具にセミダブルベッドが設置されている。全室Wi-Fi利用可。
プレミアムフロアの客室には、木曽漆器の器も用意されおり、ちょっと贅沢な時間が過ごせる。
「空見の湯」と名付けられた男女別の大浴場には、広々とした内湯と露天風呂があり、無色透明の天然温泉が湯船いっぱいに満たされている。
穂高温泉郷の湯は、北アルプス・燕岳山麓にある中房渓谷から湧出する2つの源泉から引湯しており、刺激が少ないアルカリ性単純温泉。美肌の湯ともいわれる柔らかな湯だ。
さっそくかけ湯をし、体を湯船に滑り込ませる。さらりとした湯に包まれていると、心身がゆるゆるとほぐれ、温かさが染み入るよう。露天風呂に移れば、山からの冷涼な空気がより心地良さをもたらしてくれた。
湯浴みを堪能し、森が薄暮と共に静寂さを増してくるとそろそろダイニングへ。楽しみにしていた夕食の始まりだ。
朝夕共に料理の評判は耳にしていたが、実際に目の前に供された料理は、まさに目と舌を楽しませる逸品揃い。料理長の小南玄太さんが創意工夫を凝らすのは、厳選した信州の旬の素材をふんだんに使った見事な会席料理だ。
聞けば、信州は山の中とはいえ食材の宝庫。安曇野のわさびや地野菜を始め、信州サーモン、岩魚や山女、信州プレミアム牛、湧水で育った米や豆などなど滋味深い食材が多種多彩だ。和と洋がバランス良くコース立てされた料理の数々。一緒に味わった安曇野の地ビールとの相性も抜群だ。
魚料理はとらふぐの薄造りトマトコンカッセ。
季節ごとに彩りを変える料理は朝食にも表現され、目覚めのフレッシュスムージーから始まる朝ごはんも手の込んだ内容に驚かされた。安曇野の美味しい水も喉に流し込み、朝食と共に気持ちのいい朝をスタート。今日は太陽をいっぱいに浴びて、安曇野の里を散策してみようか。
休暇村 リトリート安曇野ホテル
長野県安曇野市穂高有明7682-4
TEL:0263-31-0874
チェックイン・アウト:15:00・10:00
宿泊料:1万6000円〜 2名/1室(1名料金)
客室数:30室
泉質:単純温泉
アクセス:JR「明科駅」より車で約20分
https://www.qkamura.or.jp/azumino/
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