アニソンで盛り上がれる夢の空間

中野サンモール商店街を100メートルほど進み、パン屋「Bon」の角を右折、ふれあいロード北商店街のファミリーマートの先の角を右折、そこは昭和新通商店街と呼ばれている。その道を20メートルほど進んだ左手のビル3Fに「アニソンカラオケバーZ」がある。開店時にビルの1F外に看板が出されるので分かりやすい。

こう書くと中野が初めての人には、道順が分かりづらく感じるかも知れないが、北口の繁華街に慣れた人や、中野ブロードウェイの「まんだらけ」などを散策しているコレクターの方達などは、駅からすっすっと3分ほどで来られる場所だ。

お客がお酒を飲んで、アニソンを歌うバーがアニソンカラオケバー。接客の女の子のいる店や、歌を盛り上げてくれる女の子のいる店もある。そこはアニソンを歌うことが全く恥ずかしくない雰囲気の夢の空間だ。

そういったアニソンカラオケバーは、生まれてから10年以上の歴史がある。ここ「Z」(以降「Z」で表記する)の客層は50代以上の方も多い。ちなみに「Z」の最も多い客層が30代で、次に、40代、20代、50代、60代の順になるそうだ。

昭和の頃、カラオケボックスが普及していなかった時代に、飲食店のカラオケ機械(ビデオ、LD対応など)の設置で業界のシェア獲得が各機種で競われた。その頃アニソンを歌える主流はX2000、セガカラなどだった。

参入が遅れていたブラザー工業が、通信カラオケ技術の優位性を生かしてデータ配信カラオケ「JOY SOUND」を普及させるため、アニメソングの制作、配信に重点を置き始めた。それがアニソンカラオケ競争に火を付け、各機種が競ってアニソンのラインナップを増やしていった。

それまで、バーで演歌、歌謡曲しかカラオケが入っていなかったお店にアニソンカラオケが入ることで、サラリーマンたちは今まで歌えなかったアニソンを、映像を見ながら熱唱出来るようになったのだ。アニメ好きのサラリーマン、学生は大いに懐かしがって、店で歌って盛り上がった。それから、アニソンをよく歌う客の多い店がアニソンカラオケバーになり、今の時代に移行していく。

ところで、「Z」の人気の秘密は何なのだろう? オーナーのジャミアさんに聞いてみた。ジャミアさんは中野の繁華街にアニメ・漫画好きの店がオープンすると、新規店の経営アドバイザーに呼ばれるほどの業界通。もともと玩具のタカラトミーから脱サラしてこの店の経営者となった大のアニメ好き、歌好きだ(取材カメラには自慢の漫画版デビルマンのTシャツでポーズを決めてくれた)。

「Z」の最大の強みは、純粋にアニソンを歌うのが大好きな多数の常連さん達に支持されていることだという。平日でもオープン前にお店の外でお客さんが待ってくれていることもあるとのこと。

ジャミアさんはアニメの中でも「巨神ゴーグ」(1984年制作日本サンライズ、監督・キャラデザ安彦良和)の大ファンで、店には大きい巨神ゴーグのフィギュアやポスターが目立つところに飾られてる。また、お店に飾られている色紙を見ると、中野近辺に住まわれているアニメ、漫画製作者の方、声優の方もお客様の中に多く見受けられる。

もうひとつ「Z」の魅力は、「アニソン盛り上げ隊」と呼ばれる女の子たちの存在だ。お客さんがカラオケを歌い出すと、タンバリンとペンライトを持って元気に歌を盛り上げてくれるのだ。

お客さんが歌うどんなアニソンでも、女の子たちは元気にタンバリンで合いの手を入れ応援してくれる。「Z」の女の子の知っている曲のレパートリーはとても広い。さらにお客さんたちもタンバリンや手拍子で一緒になって盛り上げる。

ここでは聞いているお客さんたちが自ら進んで盛り上がることを楽しんでいる。みんなで盛り上がろうという自然に出来た雰囲気の中で、アニソン好きの連帯感が生まれているのだ。

じつはアニソンカラオケにはアニメの映像が付いていない曲も多いのだが、この店ではJOYSOUND MAX2の機能を使い、アニメ映像のない曲でも、手動でアニメ映像を映してくれることも(スタッフの状況により対応できない場合もあり)。さらにマイクの音響がとても良く、歌っていると自分が歌が上手くなったような気になれる。

ある常連のお客さん(IT関連勤務、30代)にこの店の魅力を解説してもらった。まず、彼はこの店に多いは週5日来店、少ない時でも週3日は来ているという。

常連客の日常は、仕事が終わるとすぐお店に来て、ここで夕食を頼みカラオケを楽しむ(「Z」ではフードデリバリーが出来る)。彼は「Z」では他のお客さんと一緒に歌で盛り上がれるのがなんといっても楽しいと話してくれた。

「今の曲は何ですか?」この一言から横に座ったお客さんとの間に会話が生まれ、仲良くなれるきっかけが生まれる。お店が終わった後、お客さんたちが誘い合って連れ立って飲み屋街に流れていき、そこでアニメ談議に花が咲くことも多いという。この楽しみを味わうと「Z」の魅力に病み付きになってしまうそうだ。

彼は「Z」に来ない日には、自分の音楽プレイヤーで歌を練習するそうだ。いつも歌う曲が同じだと、聞いている他のお客さんも楽しめないから、レパートリーを増やすためだという。他の常連さんたちもそれぞれ自分のレパートリーを練習して増やしているのだろう。彼の話から、アニソンを通じて同好の士と心を通じ合う喜びが伝わってきた。

アニソンカラオケバーZ
料金は飲み放題1時間2600円。延長料金は30分ごとに1300円(開店時18:30までにご入店のお客さんには、最初の1時間2100円のサービス料金)

ジァミアさんは言う。「最近特に、初めてご来店された方から『楽しかった!』と言って頂けることが多いです。アニソンにそんなに詳しくなくても、お好きなアニソンを2、3曲楽しみに来ていただくだけでも充分です。ちなみに毎週”昭和アニソン推奨DAY”というイベントもあるのでご興味あればぜひ!」。「Z」はそんな楽しいおたくの社交場だ。

文/宮川総一郎
エッセイスト、漫画家、小説家。代表作:漫画『マネーウォーズ』(集英社ビジネスジャンプ)。小説:「七福神食堂」「東京謎解き下町巡り」(マイナビFan文庫)。総監修:「漫画から学ぶ生きる力」、他。