【界(KAI)とは?】
星野リゾートが全国に展開する温泉旅館。ご当地の魅力に出会える宿として日本各地の温泉地19カ所に拠点を持つ。地域の魅力を再発見する上質な温泉旅館である。
アイヌ民族の集落で暮らすように過ごすひと時
“浮遊感”という言の葉を、まさに実感した。露天風呂の湯船に満たされた湯はほんのり茶褐色を帯び、とろけるような柔らかさで体を包み込む。
視線の先に広がるのは、一面の碧い湖と深緑の森。縁から滔々と流れ落ちる湯が、湯船と湖面との境界線を曖昧にしている。木霊する野鳥のさえずりと風。何だろう……この感覚、この一体感は。形容する言葉探しに苦慮しながらも、清々しく心がほぐれていくのを感じていた。
北海道南部の白老(しらおい)温泉。アイヌ語で大きな湖を意味するポロト湖のほとりに、星野リゾートの「界 ポロト」は静かに佇んでいる。
白老町は先住民族アイヌの郷として知られ、アイヌ文化伝承施設の「ウポポイ」があり、隣接する「界 ポロト」もそのアイヌ文化との共生を感じられる。空間をプロデュースしたのは建築家の中村拓志氏。施設全体をアイヌのポロトコタン(集落)に見立て、ゲストはそこに暮らす住民というスタンスで滞在を楽しむ趣向だ。
例えば、全室レイクビューの客室はアイヌ民族のチセ(家)から着想し、炉をイメージしたテーブルやアイヌ文様の作品などを配置。パブリック空間には、集落の中心となるラウンジの暖炉やライブラリーがあり、本物の白樺の木を使って林を演出したユニークなインテリアも目を惹く。
さらに、先出の露天風呂のある「とんがり湯小屋」は、アイヌ建築の特徴である丸太組の三脚構造・ケトゥンニを基本構造としている。その大浴場は「△湯(さんかくのゆ)」と命名され、また、本館には「○湯(まるのゆ)」という洞窟のような不思議な大浴場も完備。いずれも泉質は世界的にも珍しい天然植物由来の“モール温泉”で、肌に美容液をまとったようなトロリ感が特徴だ。
湯上がりの夕膳ももちろん、北海道の美食とアイヌ文化の調和を堪能。創意工夫が光る彩りと口福感に満ちた味わいは、この地だからこその豊かさを改めて感じさせてくれた。
界 ポロト
北海道白老郡白老町若草町1-1018-94
料金:1泊2食付き 2万8000円~(1名)
問い合わせ・予約:0570-073-011(9:30 AM~6:00 PM)
公式HP:界 ポロト
文/岩谷雪美 撮影/秋 武生
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