その瞬間の特等席へ。
第4回 星のや竹富島【沖縄県竹富島】
「その瞬間の特等席へ。」をコンセプトに、施設ごとの独創的なテーマで、圧倒的非日常を提供する「星のや」。
国内外に展開する各施設は、その土地の風土、歴史、文化などの
本質を識る喜びを滞在に織り込み、訪れた人を日々の時間の流れから解き放ちます。
島の天・地・人が織りなすサスティナブルな冬の美食を堪能
暦は冬の訪れを告げているというのに、ブーゲンビリアやハイビスカスなど島に咲き競う花々はむしろこれからが最盛期とばかりにいっそう鮮やかな色を放って目に眩い。
降りそそぐ陽光は穏やかだが、その光を纏うように、琉球赤瓦屋根の家々や琉球石灰石の石塀や石垣が連なる、竹富島の伝統を踏襲した集落景観がそこにあった。
また太陽がやわらかな冬は、野菜や果実など旬を迎える作物の種類も多くなり、島の恵みをたっぷり堪能できる季節でもあるのだという。
四季を通じて沖縄県・竹富島の伝統食材を使ったフレンチスタイルの「島テロワール」を提供している、滞在型リゾート「星のや竹富島」。
さらに今冬は、島の食文化とフレンチの技法をより斬新な発想で深化させた、サスティナブルで上質な味わいの特別なディナーコースが用意されている。
島の野菜をはじめ、昔から貴重な食料の山羊を使った前菜、伝統の島醤油のもろみを活用したメインディッシュなど、“島の天・地・人”が織りなす華やかな美食が味わえるのだ。
早速、都会の冬を飛び出し、星のや竹富島でしか味わえない「島の食とフレンチの出合い」を求めて石垣港から竹富島へとフェリーに乗り込んだ。
圧倒的非日常を提供する「星のや」だが、なかでもここ「星のや竹富島」は、島の集落の住人になって暮らすように過ごすスタイルが何より魅力的だ。
竹富島の東側約2万坪の敷地には「竹富島景観形成マニュアル」に従って造られた伝統的家屋の客室、石垣、白砂の小路などが咲き誇る南国植物とともに美しく配され、まさに一つの集落のような趣をたたえている。
宿のコンセプトは「ウツグミの島に楽土」。“ウツグミ”とは、皆で一致協力する島言葉で、土地の痩せた竹富島において、島の人たちが協力しながら智慧を出し合い生活を営んできたことに由来する。
島時間に身を委ねる滞在に加え、島に受け継がれてきた島人の暮らしや文化を体験することも星のや竹富島ならではの過ごし方だ。
草木染の糸を使った“織りあそび”を楽しんだり、木造船サバニに乗って海へ漕ぎ出したり。そして、食にまつわるものでは宿の敷地内にある畑での収穫体験が興味深い。島独特の野菜やハーブ、穀物などの知識も得ることができる。
こうした島の農作物や伝統文化に触れたうえでいただく冬のディナー「島テロワール」は、やはり特別感がある。
例えば「ヒージャー(山羊)のテリーヌ ビーツのアクセント」は厳選された山羊の冷前菜で、山羊の肉、レバー、血まで活かしてパテにし、命草と呼ばれる、字のごとく健康を保つために重宝されてきた島の野草やハーブのソースなどを添えた逸品。
また、メインディッシュの「島醤油のもろみ粕に漬け込んだ牛フィレの肉のパネ」は、島醤油を作る過程で出るもろみ粕を混ぜたぬか床に牛フィレ肉を漬け、その芳しい発酵香を逃がさないようパン粉で包んで揚げ焼きにしている。
他にも車エビの命草蒸しや大豆や芋から着想した温前菜など、伝統食材を余すことなく利用したサスティナブルかつ華やかな料理が登場。ワインはもちろん泡盛など島酒との相性もよく、味わうほどに驚きと幸せが満ちてくる。
もともと竹富島では農業が生活や歴史の根本にあり、島最大の祭事「種子取祭」などで奉納される芸能も豊作にまつわるものが多い。
しかし近年は、観光業や流通の発展に伴って島の畑が減少。そこで星のや竹富島では島の畑文化を継承するため「畑プロジェクト」を2017年にスタートさせている。島の畑文化に精通している95歳のおじぃ、前本隆一さんの指導のもと敷地内で伝統的作物の栽培を始めたのだという。
収穫された長命草や月桃、フーチバー(よもぎ)など青々とした色合いはまさに命草そのものだろう。また粟、小浜大豆(クモーマミ)、緑豆(クマミ)といった穀類や沖夢紫などの芋も栽培している。
「とくに粟は種子取祭に欠かせない大事なもので、この畑で作った粟を島に奉納しているんですよ」と、陽に焼けた笑顔でそう話すのはスタッフの伊藤蓮さん。
こうした収穫物は種子を保存し、継続して安定栽培ができるようにしているのだそうだ。
自然環境や歴史が育んだ島特有の文化と、それを取り入れた新たなフレンチとの出合いに、深い感動と喜びを覚えた滞在だった。
島テロワール
“テロワール”とは生産物を育てる際に影響する、土壌や天候、歴史、人の営みのことを指し、竹富島では食材が旬を迎える冬により味わいを深める。
上質な素材や島の食文化をフレンチの技法と斬新な発想を用いてサスティナブルな美食に昇華させたディナーコース。
■温前菜
Deatsのクネル
水牛ミルクのクリームソース
植物由来食品のデーツ(おからとこんにゃくが原材料の食材)やキャッサバ芋の粉を使い、水牛のミルクのクリームソースでコクと旨味を引き出した冬らしい一皿。
■冷前菜
ヒージャー(山羊)のテリーヌ
ビーツのアクセント
豚の代わりに山羊の肉、レバーなどでアレンジしたパテをメインに、フーチバー(よもぎ)や島ニンニクなどを組み合わせた前菜。
■メイン
島醤油のもろみ粕に漬け込んだ
牛フィレ肉のパネ
島醤油のもろみ粕を混ぜたぬか床に牛フィレ肉を漬け込み、香りと肉汁を閉じ込めるためパン粉で包んで揚げ焼きに。島人参や島ラッキョウも漬けて焼いている。
伝統のミンサー織りに倣い“織りあそび”に興じる
ミンサーとは竹富島発祥とされる伝統の織物で“いつの世までも”という意味が込められた五つと四つの四角模様が特徴だ。かつて女性から男性に帯を贈る習慣があったという。
体験では伝統の織り機を使い草木染の糸を織って栞などを制作。(毎週火・土 10:30〜、11:30〜 開催 時期により変更あり)
星のや竹富島
島の伝統と文化を守り 共に暮らすように滞在するリゾート
敷地の中央部には集落の井戸をイメージしてプールを設置。全長46mの楕円形のプールは年間を通して24時間利用できる。朝陽に輝く水面が美しい。
客室内は現代の快適性を備えて居心地満点。フローリングと畳敷きの部屋があり、また部屋によって写真のような開放的な風呂がある。
朝ごはんは「畑人(ハルサー)粥朝食」をチョイス。長命草やハンダマ、赤シソなどをアンダンスー(あぶら味噌)と共にすりこぎですり、粟や麦が入った粥とともに味わう。
右上の主菜は車エビとミーバイのマース煮。
沖縄県八重山郡竹富町竹富
050-3134-8091(星のや総合予約 9:30〜18:00)
チェックイン・アウト/15:00・12:00
客室数/48
料金/11万2000円~(1室1泊あたり、食事別、税・サービス料込 通常予約は2泊より)
アクセス/石垣港よりフェリーで約10分 竹富港より送迎有
文/岩谷雪美 撮影/新井寿彦
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