14687左右の手で同時に別の絵を描く“神業”アート。「描いてて楽しい。見る人も楽しい、楽しい人を見て嬉しい」|アーティスト  Toru kn

左右の手で同時に別の絵を描く“神業”アート。「描いてて楽しい。見る人も楽しい、楽しい人を見て嬉しい」|アーティスト  Toru kn

男の隠れ家編集部
編集部
ニューヨークポストをはじめとする海外の大手メディアや、日本のテレビ番組にも度々取り上げられ注目を浴びるアーティストのToru kn(トオル・ケーエヌ)さん。神業ともいえる製作スタイルや作品が取り上げられる機会が多いが、その謎に包まれた素顔と心が落ち着く“隠れ家”についてインタビューした。
目次

右手と左手を巧みに操り、別々の人物の顔を同時に描く姿がInstagramで公開されると程なくして世界中から注目を浴びた。アーティストのToru kn(トオル・ケーエヌ)さんは本名も素顔も非公開だが、その神業的な技法で今や海外を中心にフォロワーは10万人を超える。さまざまなことが謎に包まれたその素顔と“隠れ家”に迫る。

【プロフィール】アーティスト Toru kn(トオル・ケーエヌ)
東京都在住。本名・素顔ともに非公表のアーティスト。カンバスやホワイトボードに水性ペンを用いて点描のみで表現する「Pointillism(点描)」や、障子にダイナミックに墨と筆で描く「Sumi-e(墨絵)」を得意とする。Instagramに掲載し世界中から注目を浴びた「Two handed painting」は、2つの異なるモチーフを左右の手で同時に描きあげる技法で、公開すると瞬く間に話題となり神業と絶賛された。ニューヨークポストなどの海外メディアでも取り上げられ、ファンも多い。Instagramのフォロワーは10万人を超える。

左手で絵を描くと眠気が覚める、というのでずっと描いてました

もともと幼少期から絵を描くのが好きだったのですが、7歳くらいのときに油絵を習うために個人のアトリエに通ったのが絵画との出会いですね。そもそも『これが油絵だ』と認識していなかった頃だと思うんですけど、絵をやりたいと言ったら親が油絵の道具を一式プレゼントしてくれた、という感じです。

保育園くらいの頃から美術館に連れて行ってもらっていたみたいです。もう全然記憶にないくらい小さな頃なので、どこの美術館でどんな作品を見たかなども覚えていないんですけれど。絵が好きでいつも描いていたので、その姿を見て親は学べる機会を与えてくれたんだと思います。それがスタートでしたね。

油絵教室ではデッサンから習いました。それと並行して油彩の道具の使い方なども教えてもらいました。4、5年通って中学に入るタイミングには教室を辞めて、油絵はそれっきりなんです。中学生の頃はアニメーション的なものを描いていましたね。それと、利き手だった右手の骨折がきっかけで左手で字や絵を描くようになったのですが、授業中に眠くなったりした時に「左手で絵を描くと眠気が覚める」と感じて、それから授業中に眠くなったら左手で絵を描くっていうのをずっとやっていました(笑)

「伝わるかな? 伝わらないかな?」というところが面白いと思っていた

公式HPより転載

左右同時に違う絵を描くことに関しては、練習とかはしていないです。それこそInstagramに最初に投稿した動画なんかは一発撮りで初めてやったものなんです。もっと変な感じにグチャグチャになるだろうと思っていて、むしろそれが「伝わるかな? 伝わらないかな?」というところが面白いと思っていたんですけど、自分で想像していたよりもちゃんとできた。その時、こういうやり方もあるのかなと思いました。とても集中して描くので長い時間は疲れるというのもあって、障子1枚に2つの絵を描くのに掛ける時間は大体30分くらいですね。モチーフが複雑になってくると1時間くらい掛かってしまうんですけど。

-どうやったらToruさんみたく左右同時に違うものが描けるのかと試してみたんですけど全然ダメでした(笑)

あ、でも。左手で△、右手で□はゆっくり描けば同時にできると思うんですよ。その延長ですね(笑)

僕は下書きをしないで大きく絵を描くのが得意なんですけど、そういう意味では位置どりとか(空間を捉える)感覚は得意なのかも知れないです。あ、あと眼を片目ずつ動かすこととかできます(笑)。良いことかはわからないですけど、左右バラバラに(感覚を)切り離すというのは得意な方かも知れないです。

作品が残らないスタイル。障子に関しては一個も残ってないんですよ

公式HPより転載

普段は絵画とはまったく関係のない職場に勤めていますが、絵を描くことも仕事としてやっています。本業の職場の方へは兼業届けを出して許可をいただいています。

絵の仕事の方は、結婚式のウェルカムボードを描いて欲しいとか、恋人にプレゼントを贈りたいので描いて欲しいとか、パーソナルな注文が一番多いですね。そしてそれをやらせてもらっている今が一番楽しいというか、絵を描いてきて良かったなぁって思うんですよね。基本的に週末しか絵を描く時間がないので、週に1枚くらいは描ければ良いなぁという感じで、家族の協力も得て続けさせてもらっています。妻と子供が一人いるのですが、週末の夜に二人が寝静まってからアトリエ(自宅2階)に上がって、夜に作業を始める感じですね。

展覧会や個展のお誘いなんかもいただくのですが、これまで僕の作品制作ってホワイトボードに描いては消してとか、障子に描く墨絵も完成したら破くので、作品が物理的に残らないスタイルなんです。障子絵に関しては一個も残ってないんですよね(笑)。そういうスタイルが海外の方に面白いって言っていただいてる部分もあるみたいで。だからこそ、手元に作品を残したいと声を掛けて下さる方もいます。

僕には“隠れ家”が2つあるのかなって、ずるいかも知れないですけど

今回「男の隠れ家」という素敵な媒体からお声が掛かったこと自体、光栄で嬉しかったのですが、自分にとって「絵の仕事」は、ともすると“隠れ家的”なものなのかも知れないと思ったんです。それで他の方々のインタビューを読んで「その人の隠れ家は、その人の人生にとってどうして大切なのか?」っていう視点にすごく共感したんです。

僕の場合は名前を隠して、顔を隠して、というところも“隠れ家的”な要素があると思うのですが、色々な人にこういう隠れ家でこんなこと(作品制作)してるよって見て楽しんでもらいたい、その気持ちもあるんです。

なので僕にとっての「隠れ家」はここ(アトリエ)ですね。おそらく絵を描く人にとってアトリエや作業場は多少なりとも隠れ家的な場所だと思うんです。だけど僕の場合は同時に、“本業の職場で働く自分”にとってもここは隠れ家なんです。苦悩や葛藤を絵を描きながら昇華していくというか、仕事の考えを整理させてくれるところ、というか。

反対に“絵を描いている自分”にとっては、本業の職場が隠れ家になっているような部分もあります。「絵をこういう風に描いています!」と、前に出て行けば出て行くほど、だけど本当はこういう別の仕事を持っていて、という隠れ家になっている。自分のどこにスポットライトを当てるかによって、僕には“隠れ家”が2つあるのかなって。使い分けてるような感じです。ずるいかも知れないですけど。

7歳で油絵を始めた頃と変わらない感覚、その延長なのかも知れないです

―絵を描く以外でのアトリエでの過ごし方などはありますか?

コーヒーがすごく好きなので自分で淹れて椅子に腰掛けて、「本当に自分が考えていることは自分の本心なのか?」ということを考えますね。どこかから影響を受けた考え方とか、何かに対する怒りや嫉妬や後悔を誤魔化すために出てきた思いなんじゃないか? とか。

どっちの仕事ももっと“これがしたい”という思いがありながら、時間が十分に足りなくて。家族とも“もっと一緒にいたい”という気持ちもあって、じゃあ何に時間を割くべきなのか、と。あと表現に関しては、どういった絵を描きたいのか、どういう作品を作りたいのか、というのを常に考えていますね。たぶん、絵を描いている人はみんなそうなんだと思うんですけど「自分は絵を描くことで何を表現したいのか」というのは常に考えています。

結局、僕は「自分が描いてて楽しい、見てる人が楽しい」というのが一番なのかなと。例えば政治的な問題とか環境問題、孤独や悲しさっていうのを絵にする方もいるんですけど、そういった作品もとても好きですが、僕の場合は絵を描くためにそういうテーマを引っ張ってくることに違和感を感じていて。どちらかというと子供が絵を描いて「パパ見て!」って言って持ってくる姿の延長なのかなと思っています。まず自分が楽しくて、見てる人も楽しいし、見てる人が楽しいことが嬉しい、というのが基準になっているんだと思います。

良い悪いではないですけど。大学時代に社会学を学んでいて、社会問題を扱う芸術家がどれだけその社会問題に精通しているのか、社会を憂いるまでにどれだけ社会に向き合ったのかというところに疑問を抱いていました。道具として作品のテーマにしただけなんじゃないのか? って。自分のやりたい表現手法のためにそういう問題を引っ張ってくるというのが、僕の中に落ちていかなかったんです。それよりは、まずは自分も見る人も楽しめることが大切なんじゃないかって。幼い考え方かも知れないですけど。ある意味、7歳で油絵を始めた頃と変わらない感覚、その延長なのかも知れないです。

【公式HP】https://www.torukn.com
【Instagram】https://www.instagram.com/toru.kn/

文・写真/田村巴

Back number

バックナンバー
More
もっと見る